第14話

「もう亡くなった? まぁ確かに生きていたとしても、それなりの高齢ではあるというのは想像に難くないけどな」


 えてして本とはそういうものだった。書いた本人は亡くなっても本は残り続ける。それこそ何十年でも何百年でも。昨今では本の媒体は紙とは限らない。文字を残さればネットワークサーバーでもいい。しかし彦三郎の時代にはそこまでネットワークはなかったであろうし、そこまでの見識をとどめておくには本が一番の最適解であったのであろう。


「そういうわけです。残念でしたね」


 比沙子はやはりこともなげに言う。


「ちなみにそれはいつ頃のことなんだ?」

「もう5年以上は前になりますね。私はそれからここに来ました。なので葬儀に関しては喪主というわけでもなく、一親族として参列しましたよ。それから持ち主がいなくなったこの屋敷をどうするかという話になり、ちょうどいいということで私が住むようになったのです」


 指折り数えるようにして順々に比沙子が答える。


「今日はもうすぐ夜になります。林道を帰るのは暗くて危険かもしれないですね。下まで使い物を付けましょうか? それとも……」


 そう言われてから、もう一度見上げると空は当然ながらずいぶんと薄暗くなっていた。


「どちらでもいいのですよ」


 何がとは言わなかった。明日は特にやることを決めていない。

 とはいえ、いきなりでお世話になるのも気が引ける。

 肝試しを行うにはちょうどよさそうな屋敷ではあるが、さすがに図々しいというもの。


「それでは下までお願いします」


 俺は町の方まで送ってもらうことにした。

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