第15話

「それではご機嫌よう。町の人でしたらいつでもおいでください。入りようでしたら部屋もご用意できますよ。長期滞在も条件はありますが事情次第では承ります」


 屋敷の使いの人は俺に一礼してから静かに帰っていった。

 急ぐわけでもなく、降りて来たときと同じように。


 街に戻ってきた俺は街灯や通りを歩く人たちを見ながら、狐に化かされたように気持ちになっていた。

 この神奈町にあんな屋敷があったなんて。今まで聞いたことがない。

 見たこともないかというと、おそらく見たことはあるのだろう。しかし、そう認識しなければ風景と一体化していて気にも留めることはなかったのだろう。


「結局は『詳しいこと』は分からずじまいか。まぁ俺は考古学者でも神秘学者でもないからな」


 路地から屋敷の方を見上げて独りつぶやく。不思議な一日だったとするには、あまりにも不完全燃焼だ。もやもやしたものを抱えながらも俺は家路についたのだった。

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