第10話

 日がかたむきバイトの時間が終わる。

 帯出禁止の本の区画のシフトの日はやることが大体おなじなので、終わる時間も大体おなじだ。


「おつかれさまでした。しつれいします」

「もうそんな時間かい。お疲れさま。またよろしく頼むよ」


 俺と司書長はあいさつを交わしてから図書館を出た。

 あの人形のこともあったから家に帰ろうとも思ったが、今日読んだあの本の内容がどうにも気にかかった。


「あの本には『もっと詳しく知りたかったら屋敷まで来い』と書いてあったな。しかし50年くらい前の本だ。まだ生きているのか? 亡くなったとは聞かないけど、多分それは町の人も同じだろうな。使いの人だけ買い出しにくるわけないのだし」


 さてここで問題になるのは人形を持っていった方がいいのかどうかだ。

 それだとやはり一度家に戻ることになる。時間的にまだ余裕はあったけれど、それはやめておこうと思った。

 何かの手かがりとして話を進めてやすいかもしれないが、もし怒りを買うことになったら最悪は帰ってこられないかもしれない。

 古い本1冊を頼りに町の人もあまり近寄らない山奥の屋敷に行くわけなのだから。



 俺は屋敷をめざした。

 さすがに定期的に使いの人が買い出しにやってくるだけあって獣道を通るというわけでもなく、道が分かれているわけでもない。


「あの本を読まなかったら一生くることはなかっただろうな」


 土を踏む音だけが周りに響く。道からはずっと屋敷の場所は見えるから迷うことはない。それでも山を一つ登るわけだからそれなりの距離はあった。


 屋敷まで着くとドアをノックする。


「あの、すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」














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