第56話 薬師育成21 研修本番 / 後半戦8 最終パート5

座学4/実習4の《下処理・熟成・保管》講習に引き続いて行われるのが、座学5/実習5の薬効成分の《抽出》講習だ。本来なら、座学4/実習4~座学6/実習6は薬効成分の劣化や変質を避ける為にも流れ作業で行う必要があるのだが、今回はスキル保有者の育成が目的の講習の為にのんびりと手順を見せながらやっている。

まぁ、短期間なら成分の変質や放散を概ね防いでくれる自前の魔蔵庫(品質:低)があるので、若干の品質の劣化には目をつぶっても各パート毎に切り分けて実演、実習を行う事が出来ると言う事も理由の一つではあるのだが…


先週の座学4/実習4の《下処理》については、本来の漢方・生薬の下処理とあまり変わらない事もあって、かなりスムーズに実習を進める事が出来た。

その代わり魔力操作もあまり使う必要ないパートだったので、スキルがLvアップする者や新たにスキルを生かす者も出なかったが…


今週の座学5/実習5の薬効成分の《抽出》工程は、最終の《合成》工程で使う薬液の原料を抽出する工程で、魔力操作等もそれなりに必要とされる工程なので、適性の高い者ならスキルが生える可能性のある、ある意味楽しみな工程でもある。

実を言えば、俺は初めての製薬作業の時に、この工程でスキルが生えた。

勿論、ダンマス補正のあった俺と一般の受講者とでは、基本となると条件が違う事は承知しているが、もしかしたら、と言う思いが無い訳ではない。

依頼者曰く、受講者達は選りすぐり(の被検体)だそうだからな。

特にここまで来る間に魔力操作をLv4まで上げる事の出来た面々に関しては、基本的な方向性でライトスタッフ(正しい資質を持つ者)である可能性を示してきただけに、期待するなと言う方が難しいだろう。


実際に実施する作業は、先週処理した保存用材料や摘んできたばかりの所謂生薬状態の材料に対して、細断や薬研などの機材を使って粉砕して成分を抽出するのに最も適した形に加工し、事前に薬効成分を抽出しても問題ない分については、個別に抽出を行うまでの流れがこの工程に含まれる。

また、抽出工程の中で薬効成分を目的とする用途に合わせて魔力投射を介して強化・調整したり、抽出出来た薬効成分で変質し易いものをし難くなる様に固定化を施して魔蔵庫に保管する様な作業もこの工程に含まれるが、今回の研修では固定化が必要な魔草は取り扱わないだけなので、言及するだけだ。


さて、実演だが…

先ずは成分の抽出に時間のかかる低温抽出が必要な薬材から実施する。

今日の実習で使う薬剤は、既に《下処理》実習で、薬効成分の抽出が簡単に出来る様に乾燥処理まで終わらせてあるものを使う。

この中から先ず最初に抽出処理を行うのは、《芍薬の根》だ。

既に一度簡単な説明は行っているが、芍薬の根には、元々ペオニン等の植物性アルカロイド類が含まれており、虚弱した体質の改善や、消炎・鎮痛効果が期待できる。

魔化した事で、老化が原因で虚弱した体質の改善効果や、他の薬材の使用で生じる副作用的な反応への対症療法的な消炎・鎮痛効果が強化されている。

薬効成分の抽出工程でも魔力投射を行って薬効の強化を行う予定になっている。


その為に、荒く刻んだ根を水と共に煮立たない程度にトロ火で加熱し、水量が半量程度になるまで煮出す。

また、同時に魔力投射を行うが、このパートでの魔力投射は、魔素添加によって効能の強化を図る単純な魔素添加を目的としたものなので、変に魔力が偏向しない事だけを注意して行えばいい単純な魔力投射になる。

時間にして数時間~半日ほど必要となる作業で、抽出が終わった薬液を漉して、薬液と滓に分けて作業終了だ。

よってこの実習に関しては、上位組はとりあえず確認の為に軽くなぞる程度に体験してもらって、魔力操作のスキルLvの低いメンバーに主に担当してもらい、たっぷり経験を積んで貰う予定だ。


芍薬に続いて薬効成分の抽出を行うのは、大豆だ。

先の説明でも書いたが、芍薬以上に癖が無く、薬効の事前抽出を行っても問題無い魔草で、不慣れな見習いの訓練に最適と言って良い素材になる。

これも説明済だが大豆に含まれるポリフェノールの活性酸素の働きを抑制する抗酸化作用、コレステロールや血糖値の調整機能、女性ホルモンとの類似性に基づく更年期障害の緩和などのアンチエイジング向けの効能を持ち、抽出時に魔力投射の効能の強化を行っても、その影響で発生する突然変異が起こり難等の初心者向けの教材として最適な性質を持っている。


最後に麻黄(マオウ)の薬効抽出を行って今回、抽出を行っておいた方が良い魔草類からの成分抽出は終了だ。

麻黄は、マオウ属マオウ科に属する常緑樹で、地上茎に含まれる等の植物性アルカロイド類に鼻詰まり・気管支喘息等への呼吸器系異常への効能や、血圧上昇作用などの強い覚醒作用を有するが、向精神作用(交感神経興奮作用)と言う副作用もあり、魔化によって全ての効果が強化されている。

薬効成分の抽出自体は、ほぼ普通の生薬の煮出しと変わらず、素体が地上茎である為、乾燥させて保存した茎を荒く砕いて薬研などで更に細かくしたものに水を加えて煮立たない程度に火を加えて煮出す。この際に覚醒作用を魔力投射で強化しつつ、

向精神作用のみ抑止を行う。

この抽出も概ね数時間程度の作業を見込むが、芍薬同様抽出が終わった薬液を漉して、薬液と滓に分けて作業終了となる。

魔力操作自体は、単純な魔力投射による薬効強化に加えて、向精神作用部分のみ抑止を行う事がポイントとなる。


残りの当帰(トウキ)は、茎葉含まれるに精油成分が薬効の基となる為、揮発性を考慮して事前抽出は行わない。

また、魔茸(笑茸系催眠茸)、チャガ(カバノアナタケ / シベリア霊芝)、白殭蚕 / お白様(おしらさま)の魔茸類3種に関しても、荒く刻んで魔蔵庫に保存しておくのみとし、成分抽出は行わない形になる。これは成分を薬液中に抽出する際に行う魔力投射の具合を状況に合わせて調整する必要がある為だ。


そんな訳で、薬効抽出実習を始めた訳だが…、

残念な事に1週間経過しても、薬師スキルが生えた者は出なかった。

その代わりと言ってはなんだが、スキルLvが、

Lv4からLv5へアップした者が1名、

Lv3からLv4へアップした者が3名、

Lv2からLv3へアップした者が1名、

Lv1からLv2へアップした者が1名、

そして特記すべきLv2からLv4へアップした者が1名、現れた事だろう。


研修自体が最長で4週間延長されたおかげで、もう少し抽出工程の安定度と高める意味もあって、もう1週間行う事にした。

正直、ある程度魔力操作能力がかなり安定しているLv4以上のメンバーにとっては、まどろっこしい感じを受けるだろうが、受講者の大半を占めるLv3受講者(13名)の魔力操作は安定したとは言い難い状況にあって、無理に進める必要は無いと判断し、依頼元もその考え方に同意してもらえた。

尚、抽出した薬液は、品質グレード毎に分けて魔蔵庫で保管する事となったが、品質グレードが並以下の薬液は実習6で扱うには適さないと言う判断の元、こちらで用意した実習用のものと差し替える予定だ。


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こんなヨタ話のネタを信じて使う人は居ないと思いますが、この小説で記述する処方はいい加減です。何となくホントっぽく書いている心算ですが絶対真似しないでね。

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