第49話 薬師育成14 研修本番 / 後半戦1
後半戦がスタートして1週間が経過した。
この段階で先発組(後半戦が始まる前から薬草の世話を始めていた連中)の中から、スキルレベルが上昇したメンバーが出だしていた。
それと、唯一魔力操作スキルが生えていなかった研修生にもスキルが生えた。
彼に関してはこの後の研修スケジュールではスキルレベルを上げる事は困難かもしれないが、最低限必要なスキルは揃ったので、彼なりのペースで研修について来てほしいものだと考えている。
うちの見習いも、研修とは別の意味で順調に仕事に慣れて行ってくれている様だ。
俺がこっち対応が忙しくかった事もあって、あまりフォロー出来ていなかったので気にしていたのだが、先ずはひと安心した。このまま順調に育って一人前になり、良いうちの戦力になって欲しいものだ。
今後の研修予定に関してだが、研修生の半分以上のメンツの魔力操作スキルのレベルが2になるまでは、この研修を継続する。今の感じからすると、後1~2週間、最長でも3週間程で目標を達成できる見込みだ。
それが終わったら、いよいよ製薬研修の本番、製薬研修だ。
現在、研修生にも世話をさせている魔草類は、本来その研修で使う為のものだ。
それなりの毒性等を有しているものもあり、生えている状態のものを不用意に触るのは危険なので触らせていないモノもかなりあるが、使う魔草類の約半分は、彼ら自身が世話をしたものを使わせる予定になっている。
残りの半分は、農民コースの面々が世話をしている、…と言いたいところだが、現時点で探索者スキルも生えていない彼らにあれらの世話は無理だ。
なので、彼らが世話をしている魔草類の種類は、薬師コースのメンバーが世話してるものとさほど変わらない。
彼らがその辺を弄れる様になるには、もう少し確りダンジョン内の魔素を吸収して、能力の底上げを行い、探索者スキルなり農民スキルなりを取得して、更に耐毒・耐菌スキル訓練を経て耐性スキルを取得し、そのレベルを上げて十分な安全マージンを得てからになる見込みだ。
正直半年程では絶対無理で、どこまでもっていけるか分からないが、やれるところまでやってみる、としか言いようが無い状態ではある。時間切れになる事は確実で長期戦を覚悟して欲しい旨は製薬会社側にも研修生側にも伝えてあるし、一応の同意も得ている。
そもそも、ダンジョンを使った短期研修で魔物の討伐を組み込めない事が異常なのだ。特に、魔草類は、魔化によって薬効に毒性を含む様になったモノも多く、それらをきちんと世話して育成するには、世話係自身がその毒類に耐え得るだけの耐性スキルを身に付ける必要がある。
耐毒スキル・耐菌スキルを得る為の訓練は、先ず何らかの職業スキルを得て、その職業スキルの中にわずかに含まれる表面化しない微弱な耐性を使って、それを少しづつ強化してそれぞれの毒性に応じた耐性を身に付けさせる工程が必要になる。
この耐性強化訓練は、確り研修生の一人一人の状態を見極められる状態でやらないと失敗を含む大変な事になりかねない。
今回の研修では即死クラスの猛毒を持つ様な魔草類は扱わない予定ではあるが、毒性のある魔草類が無い訳ではなく、きちんとくどい位のチェックを繰りかえした上でも、異常時の対処が遅れたりすると麻痺が残ったり、事実上の廃人になってしまう様なケースも考え得る。
実を言えば魔草類、すなわち魔化植物類は、吸収した魔素の影響で魔化して、自身の持つ樹液なり蜜なりの特性を変質させる訳だが、魔化の影響で変質する方向性が1種類に固定される訳では無いのだ。
魔化前の状態はほぼ同じものだった植物が魔化する事で樹液の持つ特性を保湿方向にシフトさせたり、毒性を持つ方向にシフトさせたりと言った事はよくある事で、農場の世話をさせているガーデン・ノームには、魔化して特性を変質させた魔草類の中から、こちらの希望に沿ったものを残して育成する様に指示してある。
残りの今回の目的に沿わなかったモノについては、あるモノはトラップゾーンの罠の一部に使用する為に別枠で育成させて、毒性のある樹液を回収させたり、あるモノは別のポーションで使う為に別枠で育成させたりして、目的の魔草に混じらない様に管理している。
この剪定作業で分かるのは、こちらの目的に有った魔草の種子から生えた魔草であっても、こちらの目的に沿わない魔草が一定の確率で発生する事とその見分けは実際にそれなりの作業をする事でしか磨かれる事は無いらしい事だ。
農民スキルの修練によって、この状態を見分ける為の能力は身に付いていくが、実際に現物を見て見分けを行わないと、その判断基準は身に付かない。
薬師も、いくら製薬能力を持っていたとしても、作成する薬に関する知識や使用する材料に関する知見が無ければ何も出来ない訳で、そういう方向からの製薬に対するアプローチをする事も必須なので、魔力操作のスキルを得る為の研修であえて魔草と触れ合う様にして、この種の感覚を身に付ける事が出来る様に配慮している。
また、あまり話題になることはないが、製薬機材なども、魔法に関連する部分などはかなり特殊な進化を遂げており、地球では見られる事のない物も少なくない。
勿論、薬研やすり鉢の様な大きく代わり様の無い機材も少なくないのは事実ではあるが、煮た立てない様にトロ火でじっくり煮出した薬効成分に魔力を投射して薬効の転換を誘導する為に容器の側面に用意された管状の魔力投射管等、地球で見られるはずもないのだ。
それと同時に忘れてはいけないのが、レシピだ。
これも、本来なら薬師が長い年月をかけて独自の努力で見つけ出す必要のあるもので、基本レシピなら兎も角として秘蔵のレシピなどはそれこそ師匠から弟子の衣鉢を受け継ぐ者へと伝えられる類のものだ。
1つだけでも大きな財産と言っていいものだろう。
もっとも、製薬会社側は研修を受ければ只で教えてもらえる位のつもりの様だが、そう簡単に出来る話ではない。
イクシ氏との話し合いの結果、レシピの売買はイクシ氏が担当する予定となっているし、そうである以上、基本的にアンチエイジング液(原液、維持液)以外のレシピを研修で使う予定は無い。
なお、製薬工程で使用する機材に関しても、アンチエイジング液を作成する際に使用する機材に関しては、イクシ氏経由で製薬会社に伝わっている筈なので特に隠し立てしないが、その他のポーションを作成する際に使用する機材については、伝わっていないものもあるはずなので、これも有償情報とする予定で、その売り上げもイクシ氏と折半の予定としている。
研修を請け負った事とその後の定期的で詳細な報告を見て、うちが過去の事を水に流したと考えているかも知れないが、そんな約束をした覚えはないし、した心算も無い。
この件はあくまでもビジネスとして実施している事であって、うちがあちらに対して何らかの好意を向けていると言う事は無いし、向ける可能性についても今の時点で全くありえない。
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