第48話 薬師育成13 研修本番 / 後半戦開幕

結局、何某かの技能スキルの生えた24人は、全員薬師コースに繰入れられて薬師としての道を模索する事になった。

残りの5人については、予定通り今やっているコースを継続する。


薬師コースの24人については、昨日までに引き続き魔力操作の特訓を目的とする薬草の世話をしてもらう予定だ。

今持っている魔力操作スキルのレベルは、薬師になる為のモノとしては「可」レベルのモノでしかない。

例え薬師に成れたとしても、低レベルポーションでの製薬成功率でせいぜい8割程までしか期待できない様ではとても安定して作れるとは言い難く、成功してもポーションの品質は最低レベルのものにしかならない目算が高い。

高いクラスのポーションを安定して作成できる等とは口が裂けても言えない状態だ。

これを高い成功率と安定した品質で製薬する事が出来る様にするには、製薬スキルか薬師スキルのレベルを上げるしかない訳だが、その為には魔力操作のスキルアップが不可欠となり。

現状のスキルレベルLv1≒《可》レベルなのを、せめてLv2に、可能であればLv3~5≒《良》レベルを目指してもらいたい処だ。これより上のLv6~8≒《優》レベル、Lv9~10≒《秀》レベルについては今回の研修では目指さないと言うか研修で弄るレベルのポーションでは届かないので、いずれ薬師として研鑽を積んで目指してもらいたいところだ。


また、今回の研修では結局、アンチエイジング液(原液・維持液)の生産を目指す事にしている。既に建前でしかない話であはあるのだが、うちでは《ヒール》ポーションの生産は出来ない事になっており、そのレシピも公表していないし、意地でもする心算もない。

そして、その他の《バフ》ポーション・《デバフ》ポーション類に関しては、今の段階ではハードルが高すぎて、研修生では手が届かない。この種のポーションは、レベルが最も低いモノでも製薬の難易度はLv2以上あるので、薬師スキルが生えてLv1になった程度では50%以下の製薬成功率しか見込めない。

貴重な魔草を使うにはギャンブルが過ぎると言う物だ。

よって、実質的な選択肢は既にレシピまでバレているこいつらしかないのだ。


他のポーション類のレシピを知りたいと言う事であれば、相応の対価と交換で提供する心算はあるし、イクシ氏ともその線で同意が行われている。

まぁ、うちが提供する場合は、対価として10億円単位の金を積んでもらう約束になっているし、彼方面からのリークの対価は最低1億円単位にする約束だ。

曰く、『ヒールポーションの時の損失は必ず回収する。』だそうだ。

どんだけ高額の報酬が約束されていたんだか…


まぁ、その辺の話は後の楽しみとして置いておくとして、今の段階での彼らがすべき研修は、製薬材料となる薬草類の世話だ。

と言っても、ただの薬草では無く、普通の意味での世話でも無い。

ポーション類の原料となるものは、魔素をたっぷりと吸収して魔化したダンジョン産の魔草とも呼ばれる魔物化した薬草類で、その世話には魔力投射と言う魔力操作の派生技術が必要になる。


元々魔物でもなんでも無い動物が、たっぷりの魔素を浴びる事で魔物化する事がある事は知られている。

所謂魔化と呼ばれる現象だ。

実は、人間だって例外ではない。所謂、職業スキルと言う物が生えてきて全体として身体能力が向上したり特殊能力得たりするのは、1種の魔化が人間に生じているからだ。ぶっちゃけると、ダンジョンマスター等もかなり特殊な例にはなるが、その魔化の類に含まれるのだ。


では、植物の類がたっぷりと魔素を浴びるとどうなるのかと言うと、やはり魔物化する(モノもある)。ただし、植物類は魔化しても滅多に動くような魔物化はしない。その代わり元から含有している樹液等の成分などの形質が変化したり、強化されるなどしてかなり特殊な効果を表す事がある。

もっとも、スナバコの木の様に、種を遠くに飛ばして自身を拡散させる仕組みが強化されて、天然の狙撃トラップの様になる場合もあるのだが、あの木にしても、種部分以外は基本的に動かないので、大差は無いと言えば大差は無い。元々不用意に近づくと狙撃される可能性を含んだ植物だったのだ。


実は、所謂ポーション等と呼ばれるダンジョン産の宝箱等から得られる特殊な薬物の殆どは、コアの能力によって魔力から合成される純粋な魔力生成物なのだが、これとほぼ同じ効果を示すものが、これらの魔化植物類等から得られる材料を合成する事によって得る事が出来る(場合がある)。

この魔化植物類等から得られる材料を適切に合成するには、製薬スキルとか、薬師スキルとか呼ばれるスキルのサポートが必要で、それを得る為には相応の適性と訓練が必要になる。ただし、スキルはあくまでも能力をサポートをするモノであって、ポーションの生産に必要なレシピや生産手順などの知識はそのサポートの範囲外だ。


本来であれば探索者は、ダンジョン内を探索しがてら魔化植物等の採取等を行い、失敗を繰り返しながら魔草類の取り扱いやレシピの探求や使用機材の改良を繰り返し、薬(ポーション)の完成度を高めて行く。更にその過程で自身のスキルも向上させていくと言う過程を経る必要がある。

今回は、その辺の修業過程をこちらの指導の下で実習と言う形で行う事で簡略化する契約となっており、機材等の基本的なメンテナンス等もこちらが受け持つ事になっている。

研修生達には先ず、こちらの指示に従って魔化植物類の世話の補助や魔力の放出をしてもらって、魔化植物類の取り扱いや魔力操作に慣れてもらう予定となっている。


一般的に、この世界では如何に漢方医と言えども薬の材料となる薬草などの世話をする事までは多く無い。

分業化の進んでいるこの世界では、そう言う処理は専門家のすべき分野であると言う事もあるが、未処理の植物は部位によっては毒性をはらんでいるものも多く、不用意に触ると大変な事態を招くこともある。その上、適切な処理を怠ればせっかくの薬効成分が台無しになってしまう事も少なくないからだ。


しかし、こと魔化植物類に関して言えば、育成段階で適切な魔力操作を経た魔力を投射してそれを吸収させてやる事で、より高い効能を持つ薬草として育成出来る。

また、ダンジョン内に自生している魔草類を採取するだけでは、コンスタントにポーション作りに利用するには量が不足する。

もし、そういう形での製薬を望むのであれば、ダンジョン内にそれなりの広さを持つ農場を用意して、薬草類を栽培してやる必要があるし、その為の世話役の育成も必要だ。(今回の育成枠では3人しか育てていないが。)


また、製薬段階で魔力操作を行う事で薬効を変質させ、より目的に沿ったもに作り変える事が出来る。

いずれも高レベルのポーションの作成には必須なスキルだ。

ただし、魔力操作に拠る薬効の変換には、細微で繊細な魔力操作が必須となる場合が多く、高いレベルの魔力操作スキルが必須となる。


今回の研修でそこまで高度な要求をする予定は無いが、安定したポーションの作成にも適切な魔力操作は不可欠であるため、少しでも早くこのスキルのレベルを上げる為に、この段階で出来るものの中でも簡単な魔力操作…、魔力放出が必要な魔草の世話をさせる事で、魔力操作と魔草類の取り扱いに慣れてもらう事にした訳だ。

これを2~3週間程度継続して実施すれば、そう遠く無い内に魔力操作のスキルレベルを上げる事が出来る見込みだ。

そうすれば、魔草類に魔力を与えるにしても、良い感じに調整してやる事が出来る様になり、薬師スキルを生やす下準備として、理想に近い状態で訓練が出来る様になる見込みだ。


そんなこんなで、薬師研修後半戦はスタートした。

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