第47話 薬師育成12 研修本番 / 前半戦統括
前半最後の1週間、運命の13週間が経過して、各種研修を経験した研修員たちの努力の結果は下記の様な形になった。
・魔力操作スキルが生えた者:23名
・身体強化スキルが生えた者:23名
・重複して2種のスキルの両方が生えた者:22名
・どちからのスキルが未保有の者:各1名合計2名
・農民コース3名
・ダンぶらコース2名
・依願(自主)退職者:1名
合計30名
1名は、ダンぶらコースでうまくスキルが生えなかった事を苦に依願(自主)退職しているので、これ以上研修で関与する必要はない。
よって残ったこの29人について、適性や当人の希望、依頼側の要望を踏まえて、後半戦でどのコースに振り分けるかを決めないといけない。
まぁとは言っても、農民コース3名と、ダンぶらコース2名はこのまま固定継続して成長度合いを確認する事が決まっているので、探索者スキルに加えてどちらかのスキルが生えた24名について調整を行う訳なのだが、魔力操作の生えた23名については、悩む必要は無いだろう。
そもそも彼らは薬師になりにここまでやって来たのだから。
依頼者側からも進路変更の要請も無いからな。
となると、問題は、組み分けと身体強化だけが生えた1人の扱いになる。
正直、この身体強化だけが生えたヤツに関しては、研修記録を見る限り特に問題は無さそうなので、このま薬師コースに入れて研修を進めても、さほど遅くない時期に魔力操作スキルも生えてきてそのまま進める事が出来ると思う。
そもそも、探索者スキルと言うのは、比較的汎用性高い人間に生え易いスキルなのだ。…もとい、特化型として極端に偏った能力構成をしていない人材なら得やすいスキルと言うべきだろう。
だから、ダンぶら…ダンジョン内を探索ししつつ、出現する魔物を倒して内包魔素を吸収していけば、ほとんどの者が早かれ遅かれ得る事が出来る。
そして、特化型ではないと言う事は、比較的バランス良く個々能力ポイントに魔素が馴染んで蓄積されると言う事だ。
更に言ってしまえば魔力操作は生やすだけならさほど極端な条件付けは無い。
であれば、今の時点で生えて無いのは、特化型では無いなりに適性に偏りがあって、魔力操作系の素養が低い可能性が高いと言う判断になる。それでも偏りの範囲内なので、頑張ればそのうち生える可能性が高いのだが…
その後で地獄を見るかも知れない。
魔力操作系のスキルは、職業スキルの生えた者なら、大概その職業スキルのサポート範囲に含まれる基本スキルと言って良いスキルに類するになる。
なので、低レベル(Lv1)であれば、比較的簡単に生やし易い。
しかし、薬師として高レベルのポーションを作る際に必須となる高レベル(Lv6以上)の魔力操作を得るのは非常にハードルが高いらしい。
らしいと言うのは、確認出来ている実例が俺と妻位しかいないからだ。
今、うちのダンジョンは俺と妻、それと研修の絡みもあって流石に2人では管理の手が回らなくなりつつある状況に対応するため最近雇い入れた試用期間中の助手職員の3人で運営にあたっている。
この内、試用期間中の助手は、まだここで雇われて1年どころか1ヵ月程しか経っていないルーキー中のルーキーで、碌に実働データも録れていない。それどころか、探索者スキルすら生えていないピカピカの新人だ。
この先真面目に務めてくれれば、探索者スキル位なら生える可能性は高いと思うが、それも適性の問題があるので何時になるか分からないという全く未知数の人物だったのだが、社会人として真面目に勤めていた実績を買っての雇用した形だ。
彼については、先ずルーチンとして定型的に業務内容が確定している、産廃関係と葬儀関係の業務について、妻に付いて担当してもらい、覚えてもらう予定だ。
突発的対応が必要になるダンジョン関連の業務はおいおい覚えていってもらうつもりだが、その辺の事はルーチンの仕事を確り出来る様になってからでいいだろう。
先ずは、1年確り足を地に付けて頑張ってもらう。
その頃には、体も十分に魔素を吸収してダンジョンでの暮らしに慣れている筈で、恐らくと言う条件を付ける形になるが、探索者スキルが生えている見込みだ。
クライアントを詰る様な形になるのであまり大きな声で言い難い事ではあるが、適性を見極めて人を育てる以上は、この程度の余裕をもって対応してほしいものだと思う。
仕事として請け負う以上、手持ちのデータの中からそれなりに信憑性のあるデータを抜き出し、それなりの形にまとめて、可能なものは数値化した。その上で自ずと導き出される最低限の手順と言う物があり、それらを積み重ねていく事で目的に達する為の必要期間と言う物が導き出す事が出来る。
そこからさらに不確定要因分の調整を加えた事で今回の研修期間は決まった訳だが、それでもギリギリとしか言い様がない程短い。
と言うか、こちらの提示した資料から導き出される最短期間での研修設定が行われた形だ。この期間設定ではそれなりの落伍者が出る事を前提にしたスケジューリングにせざるを得ない。
しかも、適性判断に関する部分についてはあの時点では今より判明している部分が少なく、その辺のデータを収集する為にも、研修生の個性等の情報を不確定要因のパラメータとして振れ幅を広げた情報収集をせざるを得なかったのだ。
そう、あえて適性の低いと想定される人材もあえて投入する事で適性判断の正確性を上げる為の情報収集が行われており、研修生の中にはその為にスケープゴートとして選ばれた者もいたのだ。
当然そう言った者は、当人には内緒で脱落する事を前提に研修に組み入れられた訳だ。
まぁ、この件に関してはうちも同罪なので、依頼人だけを責めるつもりは無いし、責める事が出来る心算も無い。
ぶちゃけ、お前もやってるんだから同罪だろ、と言われれば違うと言う事が出来ない程度には確認犯だった。
だって確かに欲しかったからね、不適格者を使った不適正確認と言うか、余分に追加でかかるスキルが生えてくるまでの期間のデータとか、それでも生えるのかとか、生えないのか等のデータが。
一応、言い訳させてもらえるのであれば、製薬会社側で薬師育成を目指すと言う事になった段階で、殆ど条件を付けない形で社内で希望者を募ったのだ。
希望者については、想定通り定員を遙かに超える応募があったことから選抜を行う、と言う発表が行われ、その第1段階として希望者当人との面談が行われた。
まぁ、面談と言っても当人の最終的な意志確認で、
『薬師には適性のある人と適性の無い人、適性にも程度があるらしい事が判明している。
適性のある者には比較的簡単にスキルが生える可能性が高いらしく、適性の低い者にはスキルが生え難い可能性があるらしい。そして適性の無い者にはスキルが生えない可能性がある。
現時点で適性の高・低・無等について見分ける情報は無い。
よって、実際に希望者を投入した上で判断を下していく事になる。
研修期間は半年を予定しており、スキルを得ることが出来れば、その期間はキャリアとして十全に評価されるが、スキルを得ることが出来なかった場合、その期間はキャリアとして評価される事は無い。
その上で、研修を受ける気持ちがあるのであれば、選抜に参加する様に。』
と言う説明が行われたと聞く。
要は、研修参加者全員が、研修期間中のキャリアが無駄になる可能性がある事を承知で研修に参加しているのだ。
これで恨まれても、それは製薬会社方向に向くだろうし、うちに向いたら逆恨みだと言い切る事が出来る。
そんな訳で、貴重なデータを手に入れる機会に、仲の悪い製薬会社との関係を棚上げして対応する事にした訳だ。
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