第45話 薬師育成10 研修本番 / 前半戦3

製薬会社への中間報告から更に1週間が過ぎようとしていた。

《ダンぶら》研修で本当にただダンジョン内をぶらぶらしているだけだった連中の事を製薬会社に報告して1週間が経過したと言う事だが、奴らが俺の報告に反発して更にサボタージュを継続するかも、とか考えていたのだがそれほど根性のある奴らでは無かった事が判明した。


製薬会社側からどんなオ・ハ・ナ・シがあったのかは知らないが、或いは、こちらが向こうの想定よりはるかに細かにダンジョン内での行動をチェックしている事を理解できたのか、翌日からはかなり真面目に魔物と戦う様になっており、現時点で他の真面目にやっていた研修生より数日遅れ程度の成績で経験を積み重ねている。


他の研修生達もそれそれが、それぞれなりに頑張って研修に取り組んでおり、いずれのチームもそれなりの結果を上げている。

ただし、チーム内での戦績に関して若干のばらつきが見られたので、とどめを輪番にして調整する様に指導したり、細かな指導をする必要性は少なからずあった。

そのおかげかどうかは知らないが、どのチームも順調と言って良い成績を上げており2回目以降の週次報告の総評は全体としてかなりいい内容になっていった。


チーム編成も、3週目終了時点で5人編成(2チームは6人編成)でなくとも十分対応できる程度にはなれたと判断して4人編成(3チームは5人編成)に編成し直し、効率良く《ダンぶら》を行う事が出来る様した。

そんな感じで4週間目が経過した頃、待望の職業スキル:探索者を生やす者がついに現れた。

その後、班編成を4人編成(3チームは5人編成)から3人編成に編成を変更して、更に効率を上げた効果もあってか、日毎にスキル保有者が出る様になり、5週目終了時点で研修生の約半分の13人に職業スキルが生えるに至っていた。


そこで、最後の編成替え(専業の探索者として覚悟の無い彼らにピンでの《ダンぶら》研修はリスクヘッジの観点から行わうべきではないと判断して)を行い、スキルが生えていない14人ついては2人組で《ダンぶら》を行う事とし、スキルが生えてた13人ついては魔力操作スキルの取得を目的にしたスキル訓練に移行する事とした。

まぁ、そうは言っても内容的には農民コースに魔力操作系の専用訓練を付け足した程度のものだ。彼等には農作業を通して薬草類の取り扱いを学んでもらうと共に魔力操作スキルの取得を目指してもらう。

この魔力操作と薬草類の凡その取り扱いを覚えるまでが、薬師研修前半の目標となる。


元々魔素と言う物は、人体に取り込まれるとその人の適性に応じて適合性の高い部位や使用頻度の高い部位により多くが馴染んで行って同化・吸収・蓄積され、その部位の機能を強化する。

そして、個々の人の体内に蓄積された魔素がそれぞれの部位で必要とされる一定の閾値を超えた段階で発現するのがスキルと呼ばれる現象だ。


要は、色々な部位に分散して蓄積されて行った魔素による身体強化が一定レベルに達した事で、特定の反復動作・挙動に耐え得る準備が整ったと判断した体が、その動きに最適化された形で体の動きをサポートする、これがスキルだと言われている。

因みに、スキルによるサポートは身体能力、すなわち動きや感覚への補助であって、知能・知識の付与ではない。


その結果、農民スキルであれば効果的な肥料作り方、投与量の判断、葉の枝の剪定の仕方、選定量の判断等を経験に基づいて急速に学習、習得する事が可能になるし、薬師スキルであれば指先感覚でmg単位・μg単位の計量等が出来る様に学習したり、製薬作業等も効率的に出来る様に急速に学習、習得する事が可能になる。


要は、適性に即した特定の行為・行動に関して、高いフィードバックやレスポンスが得られるようになり、学習効果が極めて高くなるのだ。

当然、これらの効果、得られる感覚、能力には適性や自身の行動に伴う個人差が出てくるし、適性が低ければ強化程度が低くなる可能性、適性が無ければ強化されない場合やなどの問題もある。

よって業の効率化を目的としてスキルの習得を目指すのであれば、適性を早めに見極めて、適所にあてがってやる事が重要になる。

これが、探索者の場合だと、斥候役、盾役、攻撃役、遊撃役等の適性に合わせた役割分担が重要になると言う話になる。


勿論、下手の横好きなんて言う場合もあるにはあるが、大抵は嗜好と言うものは、自分の適性に応じた方面に向かい伸びていくものだ。

研修初期段階で、魔物を処理を受け付けられなかった3人について、早々に農民コースへの編入を促した理由がこれにあたる。

彼等は魔物を殺して、それらが体内に保有する魔素を奪取すると言う行為に馴染めなかった、と言う事でそういう形での魔素吸収に適性が無いか低いと仮に判断した訳だ。

それでも時間が十分に与えられているのであれば、色々な可能性を試した上で、別の方法を模索することも有り得たのだろうが、今回は研修期間が6ヵ月とかなり短く切られている。


そうである以上、ある程度の割り切った形での仕切になるのは致し方が無い事だ。

こちらも仕事として請け負った以上、ある程度の結果を出す事が求められる立場にあり、その為に見極めを早めにする事が求められるのだ。


幸い、この3人についてもほぼほぼ順調と表現して良い程度には真面目に研修に取り組んでおり、そう遅くは無い時期に適性に応じたスキルが生えてくる事が見込まれている。

後はそれにどう個性合わせて伸ばしてやるかと言う事になるのだが、残念なことに今回の研修では伸ばす先が決められており、基本的に選択権は与えられていない。

それでも、薬師コースか農民コースの2択位は選べるのだが、これではどうしても型に嵌めるタイプの教育を余儀なくされる事になる。


まぁ、色々遺恨のある製薬会社に有能な人材を渡す位なら、うちで引き抜いて…

と言う思いが無いとは言わないが、今回は無しだな。

そもそも、どういう人材なら伸び易いかすらはっきりとは分かっていないのだ。

その辺の事がある程度わかるまでは、少なくともこちらも勉強のつもりで色々チェックさせてもらおうと思う、ヨロシクね。

こっちも、当分の間は真面目に対応するからさ。


とりあえず今分かっているのは、

・自発的にダンジョンに入ってくる様なタイプの人間には、早ければ1週間ほどで、遅くても1ヵ月ほどで探索者スキルが生えて来る事が多い事。

・個人毎ごとに適性と言うものがあって、それに応じてスキルの生え易さが違うらしい事。

・適性によっては、生えないスキルもあるらしい事。

・スキルには、特定の能力をサポートする技能スキルとそのスキル保有者の行動を全般的にサポートする職業スキルがある事。

・スキルのサポートは、あくまでも経験に基づく挙動等の最適化であり、経験のない行動、若しくは経験に基づく推定が困難な行動のサポートは効率が極めて低くなるらしい事。

・職業スキルには、探索者スキル、斥候士スキル、盾士スキル、剣士スキル、槍士スキル、弓士スキル等がある事。

・探索者スキルであれば、探索者と呼ばれる職業の者が行う妥当性のある行動をサポートしてくれるらしい事。(全ての行動をサポートするのでは無く、その職業毎に妥当性ある行動をサポートするらしい事。)

・薬師スキルでは、患者(被投薬者)の状態の見立て、製薬し、投薬するなどの所作をサポートしてくれるらしい事。

・農民スキルでは、畑を耕し、肥料を作り、種を撒き、害虫を駆除し、疫病を判断し、収穫するなど農作業を全般的にサポートしてくれるらしい事。

・この他にも色々な職業スキルがあって、それぞれの職か行う妥当性の高い所作を全般的にサポートしてくれるらしい事。

・技能スキルには、製薬スキル、盾術スキル、弓術スキル、剣術スキル等の特定行動をを全般的にサポートしてくれるらしいものと、記憶術スキル、魔力操作スキル、身体強化スキルと等の特定能力を全般的に引き上げてサポートしてくれるものがあるらしい事。

・製薬スキルでは、製薬作業を全般的にサポートしてくれるらしい事が分かっているが、その範囲がどこまでかは明確には判明していない。

・農業スキルは、農作業を全般的にサポートしてくれるらしい事。

・農業スキルに含まれる特定行動、例えば種まきなどの行動について、撒種スキル等の形で生える事もあるらしい事。

・緑の手スキルと呼ばれる農業スキルの上位に位置して、より効率的に農作業をサポートしてくれるスキルがある場合もあるらしい事。

・この他にも、色々なスキルがあって、それぞれの作業で必要とされる感覚・動作等をサポートしてくれるらしい事。

等が判明しているが、全てが詳らかになっている訳では無い。

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