第44話 薬師育成9 研修本番 / 前半戦2 / ダンぶら2
何のかのと言いながらも、薬師育成の本番研修前半戦、《ダンぶら》研修が始まってから1週間が過ぎようとしていた。
その間の薬師見習いたちの成績は、ひどいものだったとしか言いようが無い。
そもそも、《ダンぶら》とは、ダンジョン内を日がな一日ぶらぶら歩きまわり事で、ダンジョンに満ちている魔素を吸収しつつ、魔物を倒す事で魔物と言う疑似生命体に馴染んだ魔素を効率的に吸収(強奪とも言う)する事を目的としている。
更に言えば、この魔素を体に取り込む事で適正に応じた部位の強化が行われ、効率良くその部位を利用する事が出来る様になる訳。そして適性に応じた部位の強化が一定の閾値を超えた段階で、スキルと言う形で更に効率的に能力を発揮できる様になる訳だ。
分かり易い様に例を挙げてみると、肉体系の強化スキルに《瞬動》と言う高速で移動できる様になるものがある。
これは、通常人が何秒もかけて移動する距離を極めて短時間、感覚的には一瞬で移動する事ができる様になるスキルなのだが、これは実現するには魔素による強化を筋肉(速筋)に対してだけ行えば良いと言う物ではない。
早く移動できる様になる為には、移動している最中並びにした先がどの様な状態にあるかを認識できる必要があり、その為の情報の入力とその情報に基づくフィートバックが不可欠なのだ。
一瞬で移動したは良いが移動した先に大きな岩があってそれに激突した挙句に大けがをしてしまえば、そんな能力に何の意味も無い。
となると、触覚並びに視覚情報等の入力系の強化とその情報を処理できるだけの頭の処理能力の強化が不可欠でありその判断に基づき肉体は制御されるべきなのだ。
通常は、その辺の情報系や制御系の準備が整うまで、能力一杯の出力は行えない様に本能に基づき抑制されてしまう。
緊急時に火事場のバカ力が出るのは、緊急時に本能が一時的に抑制を解除するからに他ならない。
そして、色々な要素全てで魔素による強化が一定の水準に達した場合に限り《瞬動》と言うスキルが成立し、パッケージとして認識できる様になる。
《ダンぶら》研修が目指す職業スキル:探索者は、この魔素による強化がより包括的で偏りのない形で実現した場合に発現する。
まぁ、内容的には、いわゆる初級者レベルの者が得られるさほど高レベルとは言い難い汎用パッケージ的なモノではあるのだが…
その最も効率的な魔素の吸収法が魔物を倒しての強奪になる。
研修生には言葉を濁して経験値を得ると言う表現をしているが、要は魔物がダンジョン内で生息する事で吸収して自身の特性に合わせて馴染ませた魔素を魔物を倒す事で自分の物にするのだ。
同じ系統の最弱の魔物と言いながら、一見して模様なども違う複数の種類の魔物が居る理由がここにある。
魔物は、それぞれの特性に合わせて、魔素を自分の体になじませて強化をしている。
同じ種の魔物は特性が似通る事から同じ系統の強化をしている事が多いので、同じ種の魔物ばかり倒していても、一部の系統の特性の強化にしかならず、それではいつまでたってもスキルは生えない。
可能であれば、蟲型であれば、青虫タイプを倒したら、次は茶毒蛾タイプを倒し、更に次は蚕タイプを倒すなどの形で相手を分散する事が望ましい。
一応、その辺も座学の際にぼかして伝えてはあるのだが、中々うまく行かないのが現実だ。
ところが一部の研修生は、ダンジョン内を日がな一日ぶらぶら歩きまわる事はするが、魔物との戦いを避け、逃げ廻る事を繰り返している。
これでは、【農民育成コース】の研修生より成長が見込めない。
農民コースの面々は、魔物との戦闘に代わる魔素の吸収法として、魔化植物類との接触と手入れと言う名目の《農作業》と言う方法を、戦闘より効率が落ちる事を承知の上で行っている。
《農作業》をする《場》を魔化植物類を大量に栽培している《農地》に限定する事で、戦闘で入手できるはずの魔素をある程度補っている形だ。
ダンジョン内をただぶらぶら歩きまわる事しかしていない連中にはこの不足分の補充が全く期待できない。
これではいつまで経ってもスキル等生えて来る見込みは立たない。
多分彼らは、十分に熟成したコアであればダンジョン内のほぼすべての状態を同時にモニターできるという事を理解出来ていない。
要は、ばれないだろうとタカをくくっている状態な訳だ。
だがこちらでは、行動記録はもとより戦闘記録も戦闘スコアも全て記録しているのだから間違いようがない。
当然の事として、契約がある以上、こちらからは問題点への改善指導という形で、ちゃんと戦え、と言う指導を行う事になる。
それに対して従うか従わないかは当人達の自由だ。
こちらの指導に従うのであれば、研修への参加態度が改善したと言う事になるし、従わないと言う事であれば、再度指導を行い、それでも改善しない様であれば、積極的な受講意志が確認できず、実質サボタージュしている旨を依頼者に報告する事になる。
そもそも、今の研修内容がアレでナニなものなので、多少はかわいそうと思う部分も無いとは言わないが、契約上の警告を発する義務が生じるので、しないと言う選択肢は無い。指導のサボタージュはどんな条文解釈でも契約条項に抵触しペナルティの発動条項を回避できない。
そして依頼者は研修期間終了時に目的達成者(スキル保持者)の数を確認できる立場にある。
彼らとしては一人でも多くのスキル保持者を欲しているのだから、いくら1期目の実質実験的な研修であっても、ある程度の数のスキル保持者を確保したいところだ。
目標の達成者が極端に少ない(としか思えない)人数だった場合、研修内容の妥当性が問題になる訳だが、その際に、実は受講者に適性が無かったのだと判断できるだけのデータを提示できるか否かが、履行義務を満たしていたか否かの重大なポイントとなる可能性がある。
ここで変に仏心を出して受講生のサボタージュを、無理もないと認めてしまえば、最悪研修終了まで全員でボイコット(サボタージュ)して待つなんて事態を招きかねない。とあらば、期間満了後のスキル保持者数にも影響する事になる。
そうである以上、ボルトネックは依頼者に早々に報告し対応してもらうに限る。
その結果どうなるかは、神(依頼者)のみぞ知ると言う訳だ。
彼らの身に幸大からんことを。
エイメン。
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