第43話 薬師育成8 研修本番 / 前半戦 / ダンぶら1

研修本番・前半は、《ダンぶら》である。

要は、ダンジョン内を日がな一日ぶらぶら歩きまわって、魔物を倒し、戦闘経験を積んで、もとい、魔素を効率的に吸収して、早く何らかの職業スキルを生やしていただきましょう、と言う計画だ。

当然、この前の分も含めてこの辺の計画は製薬会社側にも事前に伝えてあるし、それを承知で、人を派遣して来たはずなのだが…

もう少しましな生物(なまもの)を送って来い、と思いも無くも無いが、今更言ってどうなるものでも無い。


とりあえず、予定より数日遅れたとは言え、大半のメンバーは予定のコースに入る事が出来た。


研修を辞退すると申し込んできた3人については、正式に製薬会社側から薬草類育成者育成コース≒通称【農民育成コース】への切り替えの申し入れがあったので、このタイミング(極初期)での申し入れだった事も考慮して、普通に切り替えて研修を継続する事になった。

ただし、彼女たちについては、促成研修用の(魔物退治付き)《ダンぶら》に参加できないと言う事情があるので、短期用促成コースから通常コースに切り替えての参加になる。

期間も短期用の半年から通常の最低1年以上に切り分かる事になる。

もっとも、切り替わるからと言って何が違うのかと言えば、《ダンぶら》が無くなって薬草類育成地≒通称【畑】での実務研修≒通称【農作業】がメインになって、じっくり時間をかけて魔素を体になじませる、と言うだけなのだが。


特に悪影響は確認されいないので、かなり微妙な言い回しになる事を承知で言えば、ダンジョンと言う場所は、かなり高密度の魔素が充満している場所なので、普通にこの中で活動だけで魔素への被曝率・吸収率が外に比べて高くなる。

通常は魔物を倒すと言う工程を経て経験値を得ると言う表現をするが、この行為により高効率で魔物の体に馴染んで吸収しやすくなっている魔素を吸収して体をなじませていき強化を深めていく。

だが、単純に吸収の早いか遅いかを考えなければ、戦闘以外でも、少しづつでも魔素は良く使われる体の特定部位に偏りながら吸収され馴染んでいき、その事で体は強化されるていく。

これが一定の閾値を超え、効果が特定分野で目に見えて効率的に機能する事を、スキルが生える、と呼ぶ訳だ。

要は、早いか遅いかの違いでっしかない。

まぁ、戦闘以外での魔素吸収は、効率が2桁落ちるから、お奨め出来ないのは事実な訳だが…

農民コースの研修生は、《ダンぶら》コースの研修生より、遥かに濃密に作物≒魔化植物に触れる事によって、劣悪な吸収効率の不利をある程度は帳消し出来る。

これが農民コースの基本的な仕組みだ。


ひどい例えになるのを承知で言えば、日に3度出てくるどんぶり飯を、短時間でかっこむか、一粒づつ時間をかけてじっくり食べるかの違いな訳だ。

ただし、一粒づつだと食べきれない分もそれなりに出てくる、と言う感じになる。


ついでに言及しておくと、適性に応じてスキルが上手く生える生えない、伸びる伸びないと言う問題は、この魔素がうまく必要な部分に定着してくれるかどうかの問題になる。

こればかりは、望む望まないに関わらず、適性の問題になるので、どうにもならないのは妻の例を見ればあきらかだ。

(未だに低レベルで短時間に作れるポーションを時間の空きを見てチマチマ作っているがスキルが生えてくる素振りは無い。)

生えないヤツは諦めてもらうしかない。



話は戻るが、《ダンぶら》コースの面々は、早い者なら昨日から《ダンぶら》を実施している。

道具の使い方さえ憶えてしまえば、後は見た目のグロさを割り切れるかどうか、モノを絞めれるか絞めれないかのの問題となり、適性の偏りがあったのだ。

早めに馴染めた面々を遊ばせておくのもおかしな話なので、サポート役の探索者を付けて、先に始めてもらった形だ。

ダンジョン内の研修エリア内での魔物のポップ率は今の段階では低めに調整させている。こちらも仕事なのである程度の割り切りは必要になるが、いきなり連闘させて壊す程鬼では無いつもりだ。


《ダンぶら》や戦闘を通して魔素を効率的に吸収出来れば、早い者なら1週間程度で職業スキルが生える見込みだ。

もっとも多いのは、職業スキル:探索者を得る者だろうか。

TVゲーム等の世界の話で例えるなら、1次職、ノービス等に相当する、今後何にもでもなれる汎用向けの職業スキルで、凡そ適性に極端な偏りが無い事を意味していると考えて良いスキルだ。


この状態になれば、技能スキル化出来ていないにせよ、多少の魔力操作をする事が職業スキルのサポートで出来る様になるので、次のステップに進むことが出来る。

ただし、流石に1人、2人の少人数だけで始めると言うのも効率が悪いので、ある程度の人数の準備が出来るまでは変わらず《ダンぶら》を続けてもらう形になる。


問題は、居るかどうかは現時点では判断不能だが、1月経っても《ダンぶら》で職業スキルが湧かないメンバーの取り扱いだ。

適性無しと判断するのか、適性に偏りが大きいと判断して【農民育成コース】に移行してもらうのか、その時点でどの程度魔物を討伐出来ているかのスコアにも拠る事になるが、難しいハンドリングを強いられる事になる。

まぁ、そのハンドリングをするのは、俺では無く当人や製薬会社が或いは相談の上でと言う事になる訳だろうが。


俺としては、淡々と、

「xxxxについては、1月に及ぶ馴致訓練で十分な戦闘を含む経験をしたにも関わらず、職業スキルを得る事が出来なかった。

この事から、探索者としての適性に問題がある可能性がある。

このまま継続して試行を重ねる事でスキルを得る可能は否定できないが、

薬草類育成者育成コースに変更して、適性の有無を確認する事も可能である。

また適性無しと判断して研修を修了する事も有り得ると考える。

今後の方向性について改めて指示を頂きたい。」

的な報告書を作成して、連絡する事になるだろう。


ぶっちゃけ、かわいそうだとは思うが、これも仕事なので割り切らせてもらうしかない。

尚、【農民育成コース】育成中の3人についてにも、スキルが生えなかった場合は、同じ様な通知をする事になるが、そもそも《ダンぶら》コースに行けなかったから今の立場に居る訳で、この場合は研修継続か終了かの2択から選んでもらう事になるだろう。

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