第42話 薬師育成7 研修開始・童貞切り

今日から、本格的に研修がスタートする。


正確には、研修を安全にしてもらう為の練習と言う名目で、魔物を殺しても硬直して動きを停めない程度に魔物殺しに慣れてもらう、所謂童貞切りと言うやつをやってもらう予定となっている。

ここで、きちんと魔物を殺しても問題なく次の動きを出来る様になっておいてもらわなくては、危なくてフィールド内の探索(ごっこ)をしてもらって、職業スキルを生やす為のレベリングをしてもらう事が出来ない。


一応、それを見越して研修の初期段階で拘束された状態の魔物を殺してもらう訳だが、そう言う状況であるからこそ精神的に大きな負担が生じる可能性がある訳で、その辺を見極めて判断してあげる必要がある。


もっとも、やり過ぎて心が壊れた挙句に、「げへへ、魔物が殺せる、うれしいな♪」なんてド変態に成られても困るので、ギリギリになるまで追い込まない様にきちんと見極めてあげる必要がある。


ともあれ、殺してもらう魔物は、昨日選んでもらった探索時に倒すターゲットとして選んでもらった魔物達だ。

極わずかな例外を除けば、ターゲットに選ばれた魔物は、蟲型が多かった。


やはりと言うか、対面している時のキモさより、倒した後からやってくる後ろめたさをを重要視したのだろう。

気持ちは良く分かる。


ただ、この段階で碌に探索をしてこなかった故に生贄にする魔物のセレクトに失敗があった事に気が付かなかったのは、痛恨の極みと言って良いかも知れない。

そう、蟲にも人の脳や心臓に類する器官があって、そこを破壊されると死んでしまう事は確かなのだが、その構造が哺乳動物などの物と大きく違うのだ。

当然、人を殺すときの様に頭や心臓を一突きしたりする程度では簡単には死んでくれない。 

きちんと頭を落とすなり何なりの処置が必要な訳だが、成虫の状態なら兎も角幼虫の様な体の役割の分化が不十分な場合、それが結構広い範囲に分散されていたりしている為処理が難しいのだ。


結果として、資料を確認しながら見分けの難しい頭部?をがっつり切り落とさないと殺せない訳で、独特のぶよぶよした感じの直系10cm以上もある首?だか胴?だかを、多分この辺まで頭じゃね?と言う所で切り離して、それでも暫くうぞうぞう動いている謎状態の生物がダンジョンに確り吸収されるまで待つ事。

そんな事を繰り返してもらう事になる。


その惨状たるや、《本当にこれでもマシなのか?》と研修生に問い詰められる程であったが、「何なら試しにやってみるか?」と聞いて、座った目でやると答えた研修生に侏儒型やら小動物型やらの魔物の処理もやらせてみたら、気を失うか錯乱するか色々漏らすかしてたので、多分ましなんだと判断する事にした。


そんな想定外のトラブルを含みつつ、阿鼻叫喚の薬師研修は、本格的にスタートしたのだった。

今日から暫く(これを平気で出来る様になるまで)の間、午前中はこれを続けてもらう事になる。


因みに、午後からは、装備品の使い方教室だ。

実はイクシ氏の知り合いのプロの探索者の何人かに、ここ産のバフポーションやデバフポーションの継続的な値引き提供を条件に手伝ってもらえる事になっていた。

イクシ氏自体からは、色々思う所があった様で、手伝いの話をした時点で、かなり食い気味に「やなこった。」と言うお返事をいただいていた。

いた訳だが、きちんとプロへの報酬と言う意味で納得の出来る報酬を支払うのならと言う条件で、ちゃんとした技能が期待できるプロを紹介してくれた。


実にありがたい話で《氏に足を向けて寝れない》とは正にこの事だろう。


諺に、生兵法は怪我の素、と言う言葉があるし、その自体は確かにその通りだとは思うが、確実にダンジョンに入っての探索する事を余儀なくされている研修生の状況を勘案するに、何もせずに放流するよりましだろうと言う事で、アドバイザーを兼ねてきてもらう事にしたのだ。


少なくとも武器や防具、道具の使い方などは、今よりかなりましになるだろう。




所で話は変わるのだが、どうやら、ここに来てようやく、製薬会社が技師を育てても作れる薬が無い事に気が付いた(間抜けが出て来た)様だ。

慌てて、レシピの提供を求める覚書の草案とやらを送りつけてきたが、それに関しては、別途協議が必要だと言う事で、突っぱねておいた。


因みに研修の受講者たちから確認すれば良いじゃないかと言う意見が当然出るとは思うが、彼らとは受け入れ時に個別契約で下手にその種の情報を漏らすと、まともな市民生活を送る事も困難になる位がっつり、ペナルティを負う事を条件にレシピの守秘義務を負ってもらっているので特に漏らす事の心配をしていない。


まぁ、諸々の都合で自分の命を投げ打ってでもレシピを公開する、と言う覚悟があるのであれば漏らす可能かも知れないが、それは薬師としての死と言うより人として正常な日常生活を送る事をあきらめると言う事と同じ事を意味するので普通は無理だと判断した。

もしかすると終わってるレベルのドMなら可能なのかも知れないが、常にまともに日常生活が送れないレベルの精神的苦痛を受けたいとか言う奴は、いないだろうを判断した。


後は、うち関係のレシピのリーク先としてはイクシ氏となるのだが、彼とは利益提供に関する契約を結んでおり、例の件での製薬会社側の対応の不満も燻っていると言うか燃え盛っている様な状況なので、うち以上にがっつり製薬会社からボってもらえる事だろうと期待している。


因みに、イクシ氏との打ち合わせで、うちがレシピを提供する場合、1レシピに付き1000万×製薬レベル$の約束になっており、Lv2のレシピをご所望の場合は、2000万$事になる。


イクシ氏はそれを踏まえて、値段交渉を行う事になっている。

因みに、製薬会社から提示のあったレシピのお値段は、一律100万$で、どう考えてもこちらが提示した金額より1桁以上低い。


お話に成りませんわ。


どうせ、うちから材料の供給を受けないとけないとまともに作れない訳だし、時間はたっぷりある。

さーて、何時になったら製薬には材料の栽培が必要なのだとだと気づくかな?

言っておくが、どこかで地脈の集合点でも見つけて魔素の噴出点を探さない限り、ダンジョン外でポーションの材料の素となる植物類を栽培する事は出来ないぞ。

因みに、魔素の噴出点でも、余程大きくて確りしたものでない限り、安定した栽培は出来ないし、不安定な条件下で育った劣悪な材料を使って製薬作業をしても、真面な製薬の成功率は望めないぞ。


頑張れよ。

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