第40話 薬師育成5 研修開始・オリエンテーション2

研修生達を見ながら話を進め、ある意味、今回のオリエンテーションの一番難しい(デリケートな)部分に話が差し掛かろうとしていた。


「それでは、皆さん戦闘コースで経験を積んでいただくと言う前提で話を進めさせていただきます。


まぁ、一言に戦闘と言っても色々ありまして、皆さんには、魔物との戦闘に慣れるまでの暫くの間、5人一組でチームを組んでいたいて、お互いにフォローをし合いながらチーム毎に戦闘を熟して行ってください。

ある程度慣れた段階で編成を少人数に変更して、安全マージンを取りながら戦闘に慣れていただければ、と考えています。


一応、戦っていくいただく魔物は、このダンジョンで呼び出せる最弱クラスの魔物をから選んでいただけるのですが…」


と言った感じで説明を続けていく。

ここで大切なのは、選んだのは自分達だと言う事で納得した上で戦ってもらう事だ。


最近、偶に聞く毒親のネタで、選択肢を禄でもない数種類しか用意しなかった上で、それを子供に無理に選ばせ、何か問題があれば(子供がそれに不満を持てば)選んだのは自分だろうと責任を負わせる様なやり方で追いつめる…

そんな無茶な話を聞くが、要はそんな感じだ。

まぁ、話の筋は少し違うのかも知れないが、どんなに無茶な選択肢しか与えられなかったとしても、自身に選ばせると言う事で負い目を負わせるやり口だ。


もっとも、用意した戦う魔物の選択肢は、いずれも最弱クラスの特殊能力がほぼ無いタイプの魔物で、慣れれば一人でも十分対応する事の出来るモノを大前提に、


・ヒト型:侏儒(小人)型の魔物で、力・戦闘力などはお察し。ただし、人型なので、戦って倒すと言うより殺すと言うイメージが強くなる可能性がある。

・蟲型:所謂虫型の魔物の中でも、成虫型の魔物はかなり手ごわい可能性があるので、幼虫型(芋虫・毛虫・環形動物類)の魔物の中で比較的小型で特殊能力、戦闘力などのないもの。うぞうぞ動いてくる様に独特のキモさがある。

・小動物型:小型動物を大きくした様なタイプの魔物。魔化した事で大型化したのだが、その為の自重増に筋力の増加が追い付いておらず、動きは緩慢になってしまって、何の為の魔化なのかと聞きたくなる様な事になっている。独特のかわいさがあり、戦って倒すとそれだけにトラウマになるかも知れない。

・特化型:その生物の特性を特化させる方向に魔化した事で、魔化でも戦闘力が低下したタイプの魔物を利用する。植物系の魔物なんかがこのタイプに含まれる事が多く、戦って倒すと言うより刈り入れ≒収穫と言う作業に近い感じになる。1体1体から得られる経験(魔素)がとても少なく他のタイプの魔物1体分の経験を得る為には、数十~数千体倒す必要があるので非常に効率が悪く、育てては刈り取るを繰り返す農業コース向けの魔物。


この中から選んでもらう必要がある。

お奨めは、蟲型だろうか。要はでかい芋虫型の魔物になるのだが…

ヒト型や小動物型でも得られる経験的には大きな差がある訳ではないのだが、蟲の魔物の中には倒した後で(あくまでもこの階層で出る魔物としては若干と言った程度ではあるが)レアなもの(所謂ドロップ品)を落とす確率がヒト型や小動物型に比べると若干高い感じになる。


それと、前言を覆す様な発言となるので、戦闘コースで戦うお奨めの相手の話をしているこの場で説明させてもらには場違い感が大きいのだが、会社側が了承するのであれば、農業コースを選んで、特化型の魔物の育成補助・収穫を時間をかけて行うものありと言えばありだと思う。


恐らく、今回の研修期間の半年では終わらない可能性がある、と言うより高いもだが、製薬スキル・薬師スキルで作るポーション類の原料は、農業コースを学ぶことで得る事の出来る育成スキル・農業スキルが無いと用意する事が難しい。

君達が約半年後に薬師になっても、製薬スキルを活かる事が出来ない訳だ。

一応、君たちの派遣元との話で、必要であれば有償で、材料・施設の提供を行う事にはなっているが、果たして半年で準備出来るか…


恐らく君たちの派遣元では、今必死に製薬施設を建てる事に協力してもらえるダンジョンを探しているんじゃないかと思う。

これについては、mustでは無いが、need toより必要度が高く事実上のmustと考えてもらった方が良いと思う。

具体的には、スキル・製薬設備・材料・場の何れか一つでも必要要件を欠いた状態で製薬が成功する確率は、ほとんど1%以下でしかない。

いささか条件を緩めるのであれば、スキルに関しては必要スキルのレベルが足りないと言う意味で欠いていると言う条件であれば、必要とされるスキルと保有するスキルとのレベル差に応じた比率で成功率が下がる程度で済むし、場に関しては場(ダンジョン)に満ちているべき魔素相当の魔力を補充する事が出来れば場がダンジョンである必要は無い、等成功率の低下を緩和する条件はある。


だが、安定した成功率でポーションを作りたいのであれば、

・スキル(製薬技師)=作ろうとしているポーションを作成するのに必須とされるスキルレベル(可能であればLv+1以上)に達している製薬スキル持ち

・製薬設備=錬金スキルを用いて作られたポーションに魔素を添加する事が可能な製薬施設

・材料=魔化する事で薬効を強化or変質されている薬草類

・場=そのポーションを作成するに足るだけ魔素が充満している場≒ダンジョン(要ダンジョンレベル確認)

が必須となる。


今回の研修は、この内、製薬の必須スキルである製薬スキルをLv1で生やす事を目的としている。

一応、Lv1相当のポーション類であれば、うちの様な低レベル(仮)のダンジョンでも対応可能なので、製薬設備(派遣元提供品を+うちからの貸与品)と場(うちのダンジョンそのもの)は、設備を使っていなければ有償で提供可能だ。


しかし、材料の魔化植物類については、そもそも現時点で知られている物だけでも何千品種もあり、それらがダンジョン内で魔素を吸収する事で更に独自に分化・進化していくらしい。

1種の薬草を目的のポーションで使う為に育てようとすれば、十分に手間をかけて

希望する方向にうまく導く必要があり、それをなし得るのが今回の場合、育成スキル・農業スキルの保有者になる。


また、魔化植物もある日突然必要になったからと言って、手に入るものではない。

それぞれの植物の特性に合わせて場を整え、育成を行い、早ければ1週間程度で済むが、時間のかかるものだと何か月もの育成が必要になるのだ。


当然、製薬会社は、そのポーションを作る為に必要なレシピを手に入れ、材料の魔化植物類を育て、場と設備と人を用意しなければならない。

特に職業スキル:農業や技能スキル:育成を保有する者を育成するには薬師の育成以上に時間を要する可能性が想定される。


正直、スキルが生えれば簡単にポーションが作れる等と簡単に考えられてしまっても困るのだ。

製薬Lv1や薬師Lv1が生えた者が現れたとしても、それは、これから入り込む深い沼に入る資格を得たと言うだけに他ならず、入口に降り立ったと言う事でしかないのだ。

そもそも、Lv1のスキルでは作りたがっているポーションの作成に必要な難易度(Lv)が最低の1だったとしても、製薬の成功率は8割程度でしかない。

その成功率にしても、作るポーションのレシピが確り分かっており、材料の魔化植物類を用意が完璧にできて、設備と場を製薬中ずっと安定して使用できる、と言う大前提が成り立っての話だ。

成功率をほぼ確実に持っていく形にしたいのであれば、最低でも必要とされる難易度Lvの数字に+1したスキルLvが必須となる。

だが、その為には実際に製薬スキル等を使って製薬を実施するなり、補助するなりして経験を積む事がマストとなる。


そして、今回の契約には、レシピの提供は一切含まれていない。奴らが公式に入手したと公言出来るレシピで現時点で判明しているのはアンチエイジング液類のもののみのはずだが、その代価をきちんと支払ったのかと言えばかなり微妙な話になるので、もしかすると広言を憚られる、と言う事になるかも知れない。

だとしたら、製薬技師だけ用意してどうするつもりなのだろう、と言う事になるのだが…

分かっているのかね???

わざわざそれを教えてあげる程、俺は親切な人間ではないし、あちらさんと良い関係をキープ出来ている訳でも無いんだが…


まぁ、お手並み拝見と行きますか。


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