第41話 薬師育成6 研修開始・オリエンテーション3
とりあえず、あまり細かい話を時間をかけてしても本来必要な話が進まないので、現物の映像を見てもらいつつ、戦う魔物を選択してもらう事にした。
いずれも最弱クラスの特殊能力がほぼ無いタイプの魔物ばかりだ。
慣れれば一人でも余裕で対応する事の出来る類の魔物ばかりなのだが、見た目が見た目だ、みんな悲鳴を上げつつ情報の確認を行っている。
明らかにこちらを非難する様な目を向けて来る者もいる様なのだが、安全マージンをしっかり確保した上で、短期育成で成果を上げる事が求められている今回の育成では、この程度しか選択肢が無かったとしか言えない。
なにせ、期間半年の超促成栽培…、もとい超促成育成なのだ。
嫌なら、派遣元と交渉してくれ、としか俺からは言えないよ。
因みに、彼らが見せられている映像は、と言うと…
・侏儒(小人)型の魔物:特殊能力・戦闘力などはほぼ無い種と言う条件でセレクトされており、コロポックルや白雪姫の7人の小人を想像してもらえれば、大きくイメージから外れない感じの魔物。
人型で比較的かわいいと言える様な外見なので、戦って倒すと言うより殺すと言うイメージが強くなってしまうのだが、このタイプで倒す事にさほど抵抗を感じない程度に醜悪なタイプの魔物は、少なくとも戦闘力が2段位上の魔物になるので、今の段階で相手にするには難しいと判断して除外した。
・蟲型の魔物:所謂虫型の魔物の中でも、成虫型の魔物は硬い外骨格を持つかなり手ごわい相手になる可能性があるので除外した。
残った、さほど硬いが外骨格を持たない魔物の内、さほど脅威になりうる特殊能力を持たないタイプとなると、幼虫型(芋虫・毛虫・環形動物類)となる。
この手のタイプは、移動力もさほど早くない、動きも機敏とは言えないタイプが多く、戦闘に不慣れなものでも比較的楽に対処できるらしい。
ただし、独特のうぞうぞ動いく様には、独特のキモさがある。
・小動物型の魔物:小型動物を大きくした様なタイプの魔物。魔化した事で大型化したのだが、自重増(3乗倍増)に筋力の増加(2乗倍増)が追い付いておらず、挙動が緩慢になってしまっている。原型の動物に由来する独特のかわいさがあり、戦って倒すとそれだけにトラウマになるかも知れない。
要は、でっかいリスやハムスター、コアラがヨタヨタしながら襲い掛かって来た時、あなたはそいつらを殺せるかと言う侏儒型魔物を倒すときと同じ問題がある。
・軟体生物系(イモリ、ヤモリ、ナメクジ等)の魔物:いささか乱暴な分類だが、ヒトとも虫とも小動物とも植物類とも分類しがたい魔物をここに押し込む事にした。
爬虫類系、両生類系、軟体動物類等のぬめぬめした(イメーのジ)魔物等を無理やりを押し込んだのがこの分類になる。
・特化型の魔物(魔化植物類):その生物の特性を特化させる方向に魔化した事で、魔化した事で戦闘力が変わらない(元々ない)か低下したタイプの魔物を利用する。
食虫植物等を除く植物系の魔物なんかがこのタイプに含まれる事が多く、戦って倒すと言うより刈り入れ≒収穫と言う作業に近い感じになる。
1体1体から得られる経験(魔素)がとても少なく他のタイプの魔物1体分の経験を得る為にの、数十~数千体倒す必要がある可能性があるので非常に効率が悪い。
今回の選択肢からは基本的に除外するが、今後実施される研修の方針次第では選択肢に入れられる可能性があるので紹介はしておく。
育てては刈り取るを繰り返す農業コース(農夫育成)向けの魔物である。
この中から選んでもらう必要がある。
お奨めは、蟲型だろうか。要はでかい芋虫型やミミズ型の魔物になるのだが…
ヒト型や小動物型でも得られる経験的には大きな差がある訳ではないのだが、蟲の魔物の中には倒した後で(あくまでもこの階層で出る魔物としては若干と言った程度ではあるが)レアなもの(所謂ドロップ品)を落とす確率がヒト型や小動物型に比べると若干高い感じになるのもお奨めポイントだ。
また、糸を吐いて絡め取ろうとする事があるが、この糸はうまく回収してきちんと処理してやれば、ザイルなどの素材として売却できるので、ちょっとした小遣い稼ぎになる事もある。
ただし、体全体を伸縮させてうねうね動く様は独特の気持ち悪さがあり、一般的には女性に敬遠されがちではある様だ。
今回の研修では女性受講者が多いので、どの様な反応になるかは正直わからない、と言う感じではあるのだが、はっきり言って、どれを選んでも究極の選択と言う感じになる。
加えて、次点の魔物も紹介しておいた。
侏儒(小人)型の次点魔物は、所謂ゴブリン(小鬼)型やグレムリン(悪戯好きな醜い妖精)型だ。この中から比較的戦闘力の低い特殊能力の無いモノを選び出す感じになるが、本来こいつらとの戦闘は、ある程度研修が進んだ段階で可能なら切り替える事を想定していた。
当然、攻撃や反撃を受けて怪我をする可能性が、爆上がりする。
蟲型の魔物の次点は同じく外骨格を持たない幼虫型で多少の特殊能力を持つ者達が候補になる。
正直、虫系で外骨格があると、それなりのこなれた探索者でもないと歯が立たない事が多いのだ。大抵の外骨格は魔力で強化されていて同じように魔力で強化されていない刃物では、碌に刃が通らない。そうなると、外骨格と外骨格をつないでいる関節部のつなぎ目を狙う必要が出てくるのだが、そんな部分を素人が狙えるか、と言う話になる。
結果としてとさほど硬くない体を持つ虫から選ぶ事になるのだが、バッタ類などのフライングアタック等受けた日には、1発で意識を持っていかれておいしくいただかれてしまうし、トンボ類等下手につかまると、空中に持ち上げられて頭からガブリだ。蝶の類などで「きれいだ。」等と油断して集られるのにまかせていると、口吻を体に突き通されて、体液をジュルジュルいただかれてしまうし、カマキリなどに至っては首チョーンだ。
実は1種さほど硬くない外骨格系で恐ろしい特殊能力も持たない魔物、若干生命力が高くてしぶといと言うヤツに心当たりがあるのだが、多分提案すれば問答無用で却下されて、提案した事自体無かった事にされるか、恨まれるかのどちらかだろう。
既に想像できている奴がいるかも知れないが、その通りだ。
昆虫綱Blattodea目に分類され、同類の中からシロアリやカマキリ以外と定義されていて、黒かったり、茶色かったりするヤツが多いという。
そう、奴の名前は、Gだ。
日本には9科25属50種余りいるとされているそうだが、こちらではそこまで細かな分類はされていない(と言うかそこまで発展した分類学と言う概念が無い)。
普通(魔化していない)の虫の場合で、体長は数mm~8cmほど、10cmを超える個体はあまりいないそうだが、魔化すると体調で20~40cmほどにもなるらしく、大きな個体になると50cmを超えるモノももいるそうだ。
それが黒光りしながらブーンとうなりを上げて飛んでくるのだ。
現実の問題として、いくら魔物としてはさほど強い類ではないと言われたとしても、真面な神経をしている奴にとって、恐怖以外の何物でもないだろうし、そんなもんを直視出来るか!、と言う話だ。
結果として、多少の特殊能力を持っていたとしても比較的安全に狩る事の出来る幼虫型と言う選択肢は外せないと言う判断になる。
小動物型の魔物の次点も気温的には同じだ。最初のターゲット程極端では無いので、逆撃を受けたりする可能性が大きくなるが、基本的に小型動物を大きくした様なタイプの魔物になる。動きの鈍いカピバラの魔物を想像すればそう大きく想定と違わないだろう。
戦って倒すとそれだけでトラウマになるかも知れないと言う意味でもあまり変わりが無いが、少し攻撃力が上がり、反撃を受けてそれなりの怪我をする危険性が上がると考えればさほど大きな違いは無いだろう。
取り合えず、答えは今日中、帰るまでに出してもらえればいいので、後悔が無い様にじっくりと考えてもらいたい。
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