第36話 薬師育成1

この件に関して、かなり楽に稼げる新しいダンジョンビジネスのチャンスかも知れない。そう思える部分もあったので、関係するかも知れないイクシ氏に連絡かを取る事にした。

氏と俺で、それぞれの持つあれやこれやについて腹を割って話し合う事となり、イロイロと互いに対して思う部分等を含めてったがっつりすり合わせを行った結果、それぞれが某製薬会社に対して思う部分に関して基本的な方向で同意を得る事が出来た。

氏にしてみれば、前回の案件に関しては、損にこそなっていなかったにせよ、製薬会社(や俺)に対して聊か思う部分もあった様で、そういう部分のわだかまりがほどけた(多少は?)事で割と喜んで協力してくれる事になった。


早速体裁を整えて魔法契約を行ったのだが、内容は、おおよそ、

・現時点で、氏が製薬会社に対して公開していない俺が情報元となる製薬レシピ・製薬設備等の情報に関して、今後製薬会社に開示・売却する際は、その対価として得た利益の半額を俺に支払う。

・氏からの支払いの対価として、俺は俺の管理するダンジョンから産する薬・製薬材料・機材等に関して、ダンジョンの運営に影響しない範囲で、かつ現状より運営を悪化させない範囲で氏に無償で提供する。

と言った内容となった。

要は、製薬会社に情報を流して金を取るなら分け前をよこせよ、その分サンプルだけじゃなくて実用に足るだけのクスリを流すから、と言う内容だ。


これで準備完了だ。

後は製薬会社と薬剤師の育成条件に関して基本方針等の調整を行って、契約を交わし、派遣されてくる薬師の卵とも個別契約を結んで育てる、と言う流れになる予定だ。

勿論、敵は海千山千の製薬会社(ロクデナシ集団)だ。

油断すれば、こちらのケツの毛まで毟られる事になるのはわかりきっている話であるのだが、こと魔法契約に関する事についてはこちらに一日の長がある、またこちらで独占している情報やアレやコレやも含めて勘案すれば、まだやりようはあると俺は判断した訳だ。


とは言え、条件のすり合わせは必須となので、双方から希望の条件を色々出し合ってて、抜けの無い事を確認しつつ調整を進める事になる。

ここで、意外な能力を発揮したのがダンジョンコアだ。

マクヌート・ジダン氏を吸収(第7話第4段階ダンジョン参照)して以来、俺では到底及ばぬ程の知恵を付け始めた事に関しては、今迄要所要所で語って来た訳だが、特にイクシ氏による深層攻略以来、時折生餌を投じて下さる篤志家の方まで出てくる様になった事で、ここしばらくはコアの性能アップが天元突破状態だ。

どう言うことかと言えば、累積で1000件を超えるダンジョン葬を行う事で吸収した各種学識経験者達を含む知識と言う名のデータに加えて、ジダンしを始めとした一流探索者や学者達の思考性向まで吸収してあそばせて、性格的な熟成度合いや倫理観の欠如さえ考えなければ、実に大したシンクタンクの様な状態となっていたのだ、我がダンジョンコア様は。


と言うわけで草案中に紛れ込まされている記述トラップ等のこちらに都合の良くな部分のチェックはコアにお任せでこちらは条件闘争のみにスポットをあてて交渉を進め、内容に関して双方の同意が得られたところで契約の運びとなった訳だが…

『「て・に・を・は」の一文字違いで良くここまで仕込めるもんだな、をまいら』と言ってやりたくなる位、色々仕込んで下さりやがって…、ありがとうございます。

これで何の遠慮や容赦すること無く、やって来る連中を指導をする事が出来るわ。


えっ、何をする気かって?


勿論、研修に来る薬師の卵達の指導だよ。


製薬会社側からは、こいつらを指導してポーション類を作る事の出来る一人前の人材(≒薬師(くすし):最低でも製薬スキルLv1を保有していて魔法薬を作成する事が出来る者)にする事が求められている…


…訳であるが、その為には色々と越えなければならないハードルがあるのだ。

そもそも、当人にその意思があるなしに関わらず、先ず重要になって来るのが適性の有無だ。ぶっちゃけ適性が無い者は、どんなに望んでも基本的に薬師にはなれない、という事を踏まえて研修を進めなければならない。

実例を挙げるまでも無い話だが、妻の様にどれだけ努力して実行しても適性が無ければ製薬スキルは生えないし、生えなければ彼らが望む薬師にはなれない。


そして、元も大きな問題は薬師と職業Jobが現代の様に分業化の進んだ社会になじめるか、と言う事だろう。

薬師と言う表現の為に誤解を生んでいる感があるが、ダンジョン界隈でJob:薬師と言えば、現界における薬剤師や調剤師、内科医では無く、薬を処方に従って入手可能な生薬等を使って製薬を行う者(≒漢方薬・生薬認定薬剤師)でも無く、入手可能な生薬等を魔化した上で処理して、更に出来た薬を魔化製薬する事で強化・変質させる者を言うのだ。


この生薬等を魔化すると言う方法には、既に出来上がった漢方薬等に魔力を浸潤させて薬効を高めると言う方法の他に、生薬を育成する段階で十分に魔力を浸潤させて馴染ませる事で、薬としての効果を強化調整すると言う方法もあり、一般には後者の方が薬効を高める事が出来る為、可能であれば薬草の育成から行う。

また、魔化製薬とは、魔化処理を行った原料の薬草等から必要な薬効等を抽出・固定する際に、更に魔力を浸潤させて効能を強化もしくは変質させる事を言う。


これによって目的の薬を作る訳だ。


当然、その為には魔力操作が出来る事が最低限必要となって来るのだが、魔力操作と言う物は職業スキル(技能)スキルと密接にかかわって来るスキルなので、よほど特殊な出自でも持ち合わせていない限り、ダンジョン探索等を行って、探索者としての職業Jobを目覚めさせ、更に訓練する事で、生やす必要がある。


しかし、薬剤師や製薬研究者と言うのは、絶対にとは言わないまでも、基本的にインドア派の人間がなる事が多く、基本的にダンジョンでの活動経験がある者は滅多にいないし、そういう活動を好む者もあまりいない。そして、そう言う傾向のある者に探索者等の職業Jobが生える事は多くないらしい。


そうなると、あまり向いていないらしい事を承知で、不特定多数の候補者をダンジョンに放り込んで適性のある者だけを確認し育成する、と言う作業が必要になる。

当然、ダンジョン内でそれなりに探索活動に勤しんでもらう必要があるので、それなりに危険を負ってもらう必要がある訳だ。


うちのダンジョンの様に産業廃棄物の廃棄業務の為であるとか、故人を弔う為の葬儀に参列する為であるとか、特例的に立ち入りを認められる場合もあるのだが、そう言う場合を除き、ダンジョンに立ち入る為には資格を取得してもらう必要がある。

(俺と妻は管理者としての資格をあ和得られている。)

実際の問題として、運動部に所属する高校生が自己能力の向上(自主訓的な感じか?)を目的に資格を取得して探索をしている様な例もあるので。取得自体はさして難しい訳でも無いのだが、基本的に日頃体を動かす習慣の無い向きには、それだけでなかなかの試練になる可能性もある。


この試練(笑)を潜り抜けた者だけが、この先に用意された実習に参加する権利を得るのだが、ここからは約半年ほどの時間をかけて、Jobスキル(初心探索者が最初に得る事が多いJobスキルが《探索者》だそうだ)が生えてくるまでの間、それ用に用意した訓練施設と言う名の、トレーニングジム兼初歩農業実習エリア兼基礎訓練施設での初期馴致実習期間となる。


因みに、期間を半年としたのは大抵の初心探索者が、それなりに真面目にダンジョン探索に参加していた場合、半年以内にJobを得る事が出来ると言う調査報告があるからだ。訓練施設は、当然の事ながらダンジョン内に設置され、通常の初心探索者が体験するのと同程度の経験をかなり低リスクでする得る事が出来る。

実は、うちのダンジョン(初心者向けエリア)の難易度と殆ど同じ設定になっているので、深層エリアへの無謀な進入さえ試みなければ、同じ経験を積む事が出来るのだが、まぁ、それなりのお金を払ってもらっている以上、それなりの対応は必要だろうと言う事で、用意する事にした。

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