第31話 ダブルフェイス - 初心者ダンジョンのもう一つの顔

公開イベント以降、不定期に深層探索者と言う名の生贄が捧げられる様になっていた。

今の所、イクシ氏の様に対応が必要な踏破者は出ていない。

どうやら、氏が改めて対応する気が無いと判断した製薬会社が、改めて情報を入手する為に上級の探索者を派遣している様なのだが、氏の様に攻略者としての条件にがっつり合致する人間がそうそう居るはずもない。

ついでに当然と言えば当然な話なのだが、氏の踏破を受けて、進入路を伸長した上で色々弄って難易度も上げた。

今なら氏の腕をもってしても踏破は難しいはずだ。


そもそも探索者と言うものは体が資本なのだ。

真面目な探索者であるほどいざという時の為に体を鍛えておくものであるし、鍛えれば余程特殊な体質でもない限り、体に筋肉が付いてマッチョになっていくものである。

ところがうちのダンジョンでは、俺の体格を大きく超えるゴリマッチョは深層への侵入が極度に難しくなる設定になっている。

深層エリア≒農業エリアへの進入路は細く折れ曲がった天然?のフィールドアスレチック状になった通路?が延々と続く構造になっており、基本設計は制約に基づき俺(ダンジョンマスター)が通過できる構造を基準にしている。

勿論、実際に俺がここを通る様な事はまず無いし、万が一通る場合は、その為に必要な機材を確り使って、と言う前提になる訳だ。


マッチョな探索者がこのゾーンを通ろうと思えば、先ず体に纏った防具類を外さないといけない。ただでさえ俺との体格差がある為に通路が狭くて通るのにギリギリなのに、防具を身に付けている事で更に狭くなるし、そもそも防具と言うものは体の可動域を制限する。

その可動域の狭さが体が通路を通る事を阻害する要因になる。

それを知っている者ならば、防具などあきらめてチャレンジするのだろうが、知らなければ途中で脱いで捨てて?いく事になる。勿論、捨てられた防具はどんな高級品であれ、時間経過に伴ってダンジョンに吸収されると言う名目で俺の物になる寸法だ。

もっとも、早々にあきらめて戻って来た場合は、ちゃんと回収できる。

その辺のルールを歪める様な運用はしていない。


ここで、真面に踏破が見込めない初心者層は、池ポチャ等の洒落で済むペナルティを喰らって安全に排除される事になる。

そして、延々とこの通路を踏破して来た探索者は、あるラインを超えるとシリアス攻略者層向けのエリアに入る事になる。

一応、真面目な初心者が間違って入り込まない様に、境界には、《これより地獄、覚悟せよ》、と言う表示を付して警告している。

それまでのエリアが初心者にも配慮したアトラクション的な要素を含んだフィールドアスレチックもどき、TVなどで時々肉体派俳優たちがチャレンジしては池ポチャしたりしているお笑い要素を含んだものと言うのであれば、この一線を超えた先にあるのは、入って来た者を返す事無く抹殺する≒深層の情報すら渡さない事を目的としたシリアス探索者向けの抹殺ゾーンと言って良いものになる。

残念ながら、初心者探索者が間違ってここに入れてしまっても、もう引き返す事は出来ないだろう。

そう言うエリアになってる。


相変わらず通路は曲がりくねって通り難い状況のままだが、床面と言わず、壁面と言わず、天井と言わず、探索者が接触する可能性のある部分は、湿気を含むかなり滑りやすいものになる。

それを滑り落ちてしまった者は、入って来たルートとは別の抹殺トラップに引き込まれ、運が悪ければそのまま酸の池にはまったり、針山に貫かれて命を落とす事になるのだ。引き返そうにも、複雑に入り組んだトラップゾーンに踏み込まない様に正解ルートを戻るのは、殆ど不可能と言って良い程難しい。


そんなルートを延々進まされた挙句に侵入する事になるのが、安眠ゾーンだ。

一見するとただの森の中に迷い込んだ様にも見えるが、誘眠性のある胞子を放出する茸の群生地を多く含んでおり、耐性が無ければそのまま目覚める事のない永遠の眠りに誘われる事になる。


ここを抜けた探索者は、とてつもなく硬い殻に包まれた種子を音速近いスピードで打ち出す樹々が茂っている狙撃ゾーンの歓迎を受ける事になる。

少しでも安眠ゾーンの胞子の影響が残っていると、樹々の間を抜ける為に生じるわずかな振動を拾って至近から飛来してくる毒入りの種子の狙撃を体に喰らう事になる。

この種を受けてしまうと、運良く?軽いけがで済んでも、毒が廻って身動きが取れなくなり、最終的にこの樹々の生きた苗床になると言うあまりうれしくないオプションが用意されている。

勿論、身動きできない人間が長期に渡って生きていられる程、この森は優しくない。


ご臨終した探索者たちは、ダンジョンがおいしくいただいて色々な意味で貴重なダンジョンの糧になってもらう。また、彼らが装備していた装備品、持ち込んだ探索用品などで再利用可能なものは、探索者用リサイクルショップやオークションなどでうちのダンジョンの運営費の足しになってもらいう。

これに関しては、ダンジョン運営者の正当な権利である事が法的に保証されており、決してネコババや故買などには当たる行為にならないそうだ。


これらの抹殺トラップを潜り抜ける事が出来た者だけが、その先にある農場エリアと製薬エリアを見る事が出来る訳だが、現時点で、初心者向けアスレチックゾーンを抜けて、シリアス探索エリアに侵入出来た探索者は100人に満たない。

勿論、そこから更に安眠ゾーンに入り込める者など殆どおらず現時点で、そのカウントは10に達していない。

そこから更に狙撃ゾーンにまで来れた猛者はわずかに数人程度まで減って、狙撃ゾーンを抜ける事が出来たのは、ただの1人、イクシ氏だけだ。


氏の偉業を受けてトラップエリア改修と大増設を行ったので、氏でも今の状態の深層クリアは難しいかもしれない。

もっとも、氏は契約の都合で再チャレンジは出来ないのだが。


そう言えば、初心者向けアスレチックゾーンをある程度攻略出来た初心者は、ご褒美に(低レベル)宝箱を手に入れる事が出来る様に宝箱がポップの場を設定をしている。この宝箱の中身はダンジョン内の他の場所でポップする宝箱より若干内容が良い物をランダム生成する設定(低レベルヒールポーション多め)になっており、このダンジョンを探索する初心者たちのモチベーションの元となっているようだ。

(ただし、調子に乗った挙句に警告を無視して深層に突入すると、今更後悔してももう遅いと言う事態が待っている。)

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