第29話 製薬レシピ公開8・イベント終了
このイベントは、本当の目的を公開していないが、本来は上級探索者でこのダンジョンの(深層エリアを含む)全階層踏破者であるイクシ・カワゴエ氏に開示したこのダンジョンで製造している薬液のレシピの妥当性を示す事を目的としている。
要は、ダンジョンを踏破した氏に農業エリアを荒らされる(作物を根こそぎ持っていかれる)と、某アンチエイジング系のSNSサークル会員各位に供給する分の薬液を作る為の材料すら手に入れる事が出来なくなる可能性があったので、ダンジョンで作っている薬液の効果や材料やレシピ等の情報、生産に必要な機材の作り方等を公開し、生産実験に必要なサンプルを渡すから、代わりに作物や機材を根こそぎ持っていくような形でダンジョン内を荒らさないでね、と言う内容で魔法契約を結んで色々持って帰るのをかんべんてもらったのだ。
氏は当然の事ながら、この成果を早々に製薬会社に引き渡し、残金の支払いを要求した。引き渡しを受けた製薬会社は、早急に確認の上で半金の支払いを約束し、こちらもダンジョン(の農場&製薬エリア)を荒らされずに済み、三方Win=Winでめでたしめでたし、となるはずだったのだが、ここで問題が発生した。
製薬会社から氏に約束の報酬の半金を渡せないと通達があったのだ。
どうやら、レシピに基づいてポーションの作成の再現をしようとしたのだが、出来なかったらしい。
このレシピは、魔法契約に基づいて作成したものである以上、当然、嘘は一切付いてない、と言うか付けない(付いたら正しいものをゲロするまで延々精神的な苦痛に苦しむ事になる上に、氏がダンジョンを荒らしても抗えなくなる。)訳だが、それを受け取った側は、再現に失敗した事以上、問題は自分たちにあるのではなく、こちらの渡したレシピにあるのだと主張して来たの訳だ。
実を言えば、製薬会社の言っている事には、もっともな部分もある。
魔法契約によって縛られている以上、こちらも契約条件に抵触する様な嘘はつけない訳で、内容に一切の嘘偽りはない訳だが、公開したレシピ等の資料を精査すれば、
・現在このダンジョン内で作成されている魔法薬は、アンチエイジング液(原液&維持液)のみである。
(このダンジョンで現在継続的に製造し、効果の検証も行っている薬液は、アンチエイジング液(原液&維持液)のみなので嘘ではない。)
・薬液の製造はダンジョン内若しくはダンジョン内部と同程度に魔力が満ちている空間で行う必要がある。
・薬液を生産する為に使用する材料は、ダンジョン産の魔化植物類(魔力が浸潤した事で魔物化した植物類)を使う必要がある。
・薬液の成分に魔力を浸潤させて薬液を魔化力させる工程は、製薬スキル若しくは錬金術スキルを用いて行う必要がある。
(これを有しない者が行う場合、極めて低い成功率しか見込めない。)
である事わかるはずだ。
問題は製薬スキル・錬金術スキルと言う奴で、一般的な意味合いで一般人より高い技能を持つ薬剤師などの能力を指すものでは無く、探索者としての属性に薬師・錬金術師などの職業スキルを有する者が持つ技能スキルとしての意味でのスキルを指している。
実は、一般にダンジョンに入って探索をする者の事を探索者と呼ぶのだが、それとは別に、一度でもダンジョンに侵入してそれなりの探索経験を積んだものは、冒険者と言う職業スキルを持つ事になる。
更に探索にあたってパーティを組んで行う様な場合、その人の立ち位置や特技等に合わせて前衛・盾役、前衛・攻撃役、遊撃・偵察/警戒役、後衛・後方警戒、サポート・荷物持ち、後衛・遠距離攻撃役、等の様に担当する役割分担を分ける事が多い。
分担する役割も、マッチョで器用なら前衛・盾役、技能派なら遊撃・偵察員、等と探索者の適性に応じた役割を分担するのが普通だ。
そんな感じに適材適所で担当を分担して探索を続けていくと、受け持った役割に特化した技能が育っていき、遂には職業スキルとして探索者から固有職スキルにバージョンアップする事がある。
例えば、適性のある者が偵察や罠の察知や解除などを専門的に担当して熟していると、スカウト(斥候員)と言う固有の職業スキルを得やすいと言われている。
偵察員が更に専門的に担当分野の処理を熟していくと、ステルス(隠密)と言う固有の職業スキルに至る事があるらしい。イクシ氏などはこのパターンの様だ。
因みに、ソロ(一人)で探索を行う者は、その必要性から満遍なく探索に必要な技能スキルが身についていく事になるのだが、この様な形の探索者がある一定以上のレベルに達すると、冒険者と言う職業スキルを得る事が出来るそうだ。
なお、氏がこのダンジョンを踏破する原因となった(ヒール)ポーションの製法については、アンチエイジング液研究の初期段階で開発のベース薬剤としてごく短期間かつ少量生産されたが、以後生産される事は無く、現在では一切製造されていない。また、その時点で連続服用した場合の悪影響の確認以外は一切行われなかった事から、今回の契約の範囲=現在このダンジョン内で作成されている魔法薬、より除外出来るものと判断し、レシピに入れていない。
(実施に除外した事によるペナルティは発生しておらず、契約内容に抵触しなかったと判断した。)
また、これはそうなる可能性がある事が想定出来たのであえてそうしたのだが、我々がイクシ氏と交わした契約では期限の設定を行わなかった為、製薬会社が残りの報酬を支払わなかった場合でも、氏はうちのダンジョンを荒らす事は出来ない。もっとも、精神的なダメージを継続的に受けながらダンジョン探索を成功出来れば可能かも知れないが、契約に基づくダメージは違約状態が撤回されるまで継続して発する上、その蓄積ダメージは数日で当人を真面に集中して行動する事ができなくなる程度に蓄積される。結果、高度な神経の集中を必要とするダンジョン探索には向かない。約束を守らないと言う事は事実上、探索者を廃業する事に他ならない。
既に製薬パートの初期段階でレシピの公開を行い、製薬会社に提出したものと相違ない事を示しており、製造風景の公開で手順に問題が無かった事もしてしている。
生産した薬液をその場で服用してもらっており、後は1日程状態をチェックできる状況下でのんびりしてもらった上で、効果に顕著な害が無い事を示す事が出来ればOKと言う事になっている。
これだけやって製薬会社側が、氏に約束の報酬の半金を渡さないのであれば、それは製薬会社側の問題だと判断するしかない。
少なくとも、うちとイクシ氏との間ではそう言う判断をする約束になっている。
薬液服用後は1日のモニター期間と言う名目で、風呂やトイレ、更衣時間を除けば極力モニターの前で過ごしてもらう約束となっている。また、体調の変動を公開する為と言う名目で某スマートウォッチを装着してもらい、その情報を連動させてWebで確認できる様にした。
これでストリーミングの視聴者は任意の立会人のバイタルデータを任意で自由に随時確認出来る様になる。
やがてモニター期間と言う名目の晒時間は時間は過ぎて行き、何も起きることなく、公開終了の時間となった。
エンディングでは、薬液を服用する前に会場で撮影した姿の写真と今の姿の対比を行うと言う名目で晒を行い、運営(俺)を挟まずに立会人全員と配信の視聴者との間で予定の時間ギリギリいっぱいまでQ&Aと言う名の意見交換が行われ、かなりのヒートアップを見せた。
ぶっちゃけこのままでは色々な意味で収拾がつかなさそうだった事と、元々内緒でそう言う予定にしていたのだが…、
サプライズと言う名目でお土産として、維持液1か月分(5回分≒1週間分×5)を(希望者)全員にプレゼントした。
また、非公開ではあったが、妻と相談の上で、立会人全員にSNSサークルへの招待状(期間限定付き)を忍ばしておいた。
増加分については妻のステータスだと作り切れない可能性が高いのだが、今回のイベントで俺のスキルが大きく伸びた事から、今後は俺が作る方向での対応を検討している。
兎にも角にも、さほど大きなトラブルも無く公開イベントは終了し、薬液の効果の妥当性を世界に訴える事が出来た。イクシ氏も結果に納得し、製薬会社側がこの結果を受け入れなくとも、こちらの責任は追及しない事を約してくれた。
はぁ、疲れた。
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