第27話 製薬レシピ公開6・イベントスタート
やがて、悪あがきする暇も無く時間は無情に過ぎて行き、イベント開始直前となっていた。
イベントとしては未だ始まっていないけど、配信自体は始まっている。
流れているのは、開始前のややダレた立会人の姿だけだけどね。
結局、昨夜は立会人全員ゲストルームに泊まって、イベントの開始を待つ事にした様だ。
正直、イベントは始まっていないと言う事で、食事などの用意も一切していなかったのだが、泊まると言う以上何も無しと言う訳にはいかない。
ただ肉などについては、宗教的なタブーがある場合も多いので、用意したのは食物由来の代用肉を使用したベジタリアン?料理をメインにした、イベント用に出す予定だったものを流用する事になった。
ほんと、近所にそういう料理を出前してくれる店があって助かったわ。
もっとも、参加者の中にヴィーガンが居たら、それでもアウトの内容だったんだが、そこまでは世話できんわ。事前に連絡も無かったし。
一応、コアに参加者全員を監視と言うかイベント開始前に問題をおこさないか動きをモニターさせていたんだが、少なくとも、昨夜の時点ではダンジョンの危険性の低いエリアを軽く散策する程度の事以外、動きらしい動きは無かった様だった。
もしかすると、製薬会社から依頼を受けたスパイがいるかも、とか思ったんだけど、いなかったのかな?
それとも未だダンジョン内の案内も無い状態だから、動いていなだけなのか…
まぁ、探られて困る様な事は一切無いから問題無いと言えば問題無いんだけど、気分は良くないよね。
あくまで気分の問題だけどさ。
やがて定刻となって、配信を開始する事になった。
司会は自ずと知れたわたくし、ダンジョンマスターの高橋博だ。
立会人抽選の時と同様、ド●・キ×ー△で買ってきたイベント用のラメ付きコスプレジャケットやら色眼鏡やらの胡散臭いグッズを身に付けての登場である。
何となく、汚れ芸人を彷彿させるカッコで、センスを疑われそうではあるが、素顔をさらすとイベントの後に街中での買い物が後ろ指さされて出来なくなる可能性もあるので、このカッコのまま行くしかない。
若干切れ気味のオープニングに続いて、勇気ある立会人の紹介だ。
紹介の順番は、昨日番号の入った札を引いてもらって決めさせてもらった。
公開するのは、名前と出身国、年齢だ。
イベントがアンチエイジング関連のイベントなので、見た目や実年齢も重要なポイントとなる可能性があるからな。
「それでは、勇気ある被験者…、もとい立会人を紹介しよう。
先ずは、インドから来られたミズ、ダーシャ・ラルー、54才だ。
続いて日本からミズ、佐藤凛、39才…」
紹介を受けた立会人の面々が、カメラに向かって手を振るなりお辞儀をするなり、自分なりのやり方で挨拶をしていく。
「…9人目は、インドネシア出身、ミズ、アティカ・ハーマン、32才、
最後に、米国出身、ミスター、ジェームス・ジョーンズ、29才。
この10名が、自らの身を賭して、アンチエイジング液の有効性を実証してくれる。」
最後のジョーンズ氏が軽く手を振って、挨拶を終えた所で立会人紹介を終了した。
続いて、これからの段取りの紹介だ。
イベント自体は、足かけ3日、実質2日強に及ぶ長丁場のリアルタイム配信だ。
途中、特に薬液を服用後の立会人は、ダンジョン内ならどこにいて貰っても良い事にはなっているが、トイレや風呂、就寝などの重度なプライベート時間を除けば、極力イベントルームで姿をネット上に姿をさらしてもらい、少なくとも短期間で重度の副作用が現れる様な事が無い事を公開してもらう約束になっている。
これでもだめなら、製薬会社はカワゴエ氏に後金を払う気が無かったと判断するしかない。何せ、世界中の人たちが見守る中で薬液を作って、それが間違いなく効果がある事を証明するのだ。
それで納得してもらえないなら、それはもう、納得する気が無いと判断するしかないという事だ。
段取りの説明の後は、実際に魔草などを栽培している農場エリアの視察だ。
この移動に関しては、コアの能力を使って跳躍してもらう事で時間の短縮とリスクの軽減を行う。ダンジョンと言うものは、基本的に現実世界とは別の次元に存在する別の現実世界で、そこには時空連続体との断絶がある。
よって、wifi等の無線通信はどうやっても繋がらないだが、どういう訳か有線の形で端末を引き込んでおくと、その端末との間では同じ階層限定ではあるが無線通信が成立する。
うちは、弱小ダンジョンなので複数の階層を保有できる程大きくない。
よって今回は、普段配信に使っている機材に無線通信機材を接続くして配信を行う。
農場エリアでは、ここで栽培している作物と言うか薬液の原料について期待できる効能などの説明を行い、目の前で採取を行ってみせる。
まぁ、説明と言っても、簡単な説明でさほど突っ込んだ内容を含まない。
せいぜいがこの薬草の葉には高い保湿性を持つ成分が含まれていますとか、本来は毒物なのですが魔化した事によって微量ならこんな薬効が期待出来る様になった、等と言った程度の内容だ。
実際に視察を行って見ると、誰も材料自体についてはさほど興味が無い様で、殆ど質問らしい質問は無かった。
農場エリアはそれなりに広大はエリアになるので、簡単に視察するだけでも1時間以上の時間が必要になった。
また、一部の原料については、育成状態で高い毒性を有する物もあり、遠場から視察に限定せざるを得ないのだが、これも実地で採取して見せた。
農場での視察が終わると、製薬パートとなるのだが、これが視察に輪をかけて地味な作業になる。
なにせ、葉っぱや茎を細かく切ったり、それを煮出したりして薬効成分を抽出すると言った作業だ。
先ずは、先ほど採取した魔草類を洗う。
この際、薬効成分が無駄に流出しない様に傷付け無い様に丁寧かつ素早く洗ってやる必要がある。
汚れを落とした魔草類を軽く拭いて余分な水気を落とす。
この後、薬効成分を抽出する順番に種類毎に仕分けながら細かく切り刻んでいく。
刻んだ魔草類から薬効成分を抽出する為には、基本的に火にかけてやる必要があるのだが、この時に投入する魔草類にも順番やタイミングがあるのだ。
これを間違うと、材料の魔草類の成分同士がバッティングしあって効果を打ち消し合い役に立たなくなってしまうばかりか、毒性を強めて危険物を生成してしまう可能性すらある。
また、物によっては別枠で成分の抽出を行っておいて、タイミングを見計らって投入する必要がある場合もある。
成分を抽出し終えた材料の残骸は、その後の工程の邪魔にしかならないので、丁寧に漉しとって除去しておく。
ぶっちゃけ絵面が地味な事この上ない。
実は、この後で混ぜ合わせた成分を沸騰しない程度のトロ火にかけながら薬効成分を馴染ませると言う工程があるのだが、同時に魔力を成分に浸潤させて薬液を魔化力させてやる必要がある。
イメージとしては、魔女が大鍋を火にかけて謎の液体をかき混ぜている様なシーンなのだが、実際には、イベント用のラメ付きコスプレジャケットやら色眼鏡からをの胡散臭いグッズを身に付けたおっさんが、材料の入ったビーカーを火にかけてのんびりかき混ぜていると言う、意味不明な絵面になってしまう。
だが、ある意味この工程こそ薬液作りで最も重要な工程で、スキルを有する者が薬効成分に十分に魔力が浸潤するまで延々に行う必要がある。具体的には、嫁なら3日、俺でもほぼ1日以上魔力を投射しながら薬液をかき混ぜてやらなければならない。
碌にトイレにも行けない状態で、薬液を煮立たない様に火力を調整しつつ延々かき混ぜ、同時に魔力の投射する事約1日、ようやく薬効成分に魔力がなじみ、薬が完成した。
混ぜ始めのた頃は、緑色をした葉っぱなどのかけらが浮かんでいる何かだったものが、時間が経つにつれて緑色をしたドロドロの何かへ変じ、遂には青味がかった緑色の何かに変わる。
この状態で薬液としては完成しており、後は真面に飲める様にする為に、材料として投入し、薬効成分を吐き出した魔草などの残骸を漉し取っててやれば良い。
ビーカーに荒い濾紙をあててざっくり材料の魔草の滓を漉し取ったら、目の細かい濾紙で細かな滓を漉す。
後に残ったのは、きれいな薄青色をした薬液、アンチエージング原液だ。
ちなみに薬作りに使っている容器の事をこちらの都合でビーカーと呼んでいるが、大きさはちょっとしたラーメン店用の寸胴鍋ほどの大きさがあり、その中の半分程まで、原液が溜まっている感じだ。
原液の事を見知っている某サークルのメンバーなら兎も角、この状態の謎溶液を、どうぞお飲みください、と言われて飲める人間などまずいないだろう。
仕方がないので、俺が飲んで見せるが、未だ動かない。
会場に一般のイベント見学者として入れた運の良い見物客の中から試し飲みの追加希望者を募ると、…結構いるな。
ひの、ふの、みの…ざっと会場に居る一般見物客の中の女性の半分位が、試しに飲みたがっている感じかな?
変に適当に選ぶと恨まれそうだしな…
少し余分に時間がかるが、早めに薬作りも終わった事だし、ちゃんと手順を踏んで選び出すか。
…
希望者を3人限定で抽出して選び出して、魔法契約の上でその場で飲ませる。
…を、効いてる、効いてる。
何がどう変わったか言えと言われても困るが…
一人は、肌の張りが戻った感じか?!
一人は、元々若いからか、そんなに変わった感じはしないが…
おぅ!
最後の一人は、結構来てるな、明らかに若返って見えないか?
このまま1時間だけ待つことにするか…
それでも飲まない様なら、失格だな。
その場合権利は、会場内に居る別の人間に移動する事にするか。
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