第26話 製薬レシピ公開5・イベント前日2
公開イベントを目前に控えながら、と言うか碌にその種の事を仕切った経験も無い状態で目前に迫って来ているのだからこそなのだろうが、全く現状に安心できない状態であっても時間と言うやつは無情に経過して行くもので、立会人たちが三々五々ダンジョンを訪い始めた。
今回のイベントへの参加は、完全自費制となっており、参加する為に必要とされる費用に対して一切の補助や援助を行わない。ただし試飲する薬は無償で提供する、と言う条件になっている。
この条件で碌にイベント迄に時間が無いにも関わらず来訪出来ると言う事は、みんなそれなりの資産を持っているセレブな人たちなのだろうか?!
立会人候補の抽選は完全に無作為に行い、その光景はストリーミングで公開して、即時連絡の上で提示した参加条件に同意した者だけが参加できる形にした。
それなりに辞退者が出たり、連絡に時間がかかるかと思っていたのだが、全く出なかったばかりか、こちらの都合で抽選をして連絡をしたにも関わらず、殆ど時間差無しで返事が来て同意が得られたのには驚いたな。
そんな面々が今日、うちのダンジョンにやって来る。
流石に物がアンチエイジング関連の薬液と言う事で、参加者の男女比は女性7名男性3名で年齢は20代2名30代3名50代4名60代1名となっており、この比率は抽選への応募者の男女比、年齢比とそう大きく違わない。40代が居ない事を除けばだが。
正直、自分があまりそういう事に興味が無いので、応募者の男女比はもっと女性が多く、応募者の年齢層ももっと高目、ジジババが多いかと思っていたのだが、案外そうでもなかった事に応募者のデータをチェックしながら驚かされた記憶がある。
また、これは嫁さんのSNSサークル方面からの情報なのだが、参加者の中には所謂セレブリティと呼ばれる層に所属していてサークルのメンバーとも交流がある方がいるらしい。
どうも、元々サークルへの参加を希望していた人の様なのだが、嫁さんの薬剤の生産能力では現状維持が精一杯と言う事で、サークルへの新規入会はお断りしている状態になっているらしく、その辺を踏まえて効果の確認がてらイベントに参加を希望したらしい。
と言う事は、薬液の効果を実感する事で入会希望の圧力が強まるかもしれないと言う事で、場合によっては認めざるを得ない可能性があるそうだ。
どうしたもんだろうな、嫁さんには製薬・錬金関連の適性は無いみたいだ。
何せ、今までサークル向けの薬液を散々作って来たのに、未だ初級クラスのものですらスキルが生えて来ない。
対して俺は、イベントで使う分を作る為に少しやっただけなのに、スキルが生えてレベルも上がった。
おかげで、製薬にかかる時間を3日半(77時間)から約1日(26時間)と大幅に短くする事が出来て、イベントの開催期間を短くする事が出来た訳だが、今後も薬液を作る為に、1日使えと言われてもなぁ…、
確かに妻がやるより大幅に短い時間で作れるのは事実だし、もしかすると、回を重ねれればもっと短い時間で作れる様になるかもしれないんだが…、
丸一日魔力を薬液になじませながら、謎液をかき回しつつ煮込むなんて作業はうんざりなんだよ、さすがに。
そんな感じでいささかげんなりしつつも待ち受けていると、いらっしゃりやがりましたよ、立会人様方が。
最初にいらっしゃったのは、米国のエマ・ウィリアムズ(34才♀)とジェームス・ジョーンズ(29才♂)の2名だ。
どちらもかなり良い身なりをしていて、連れ立ってのご来訪だ。
それなりに親し気な雰囲気があり、にこやかに会話を交わしている所を見ると、元々知り合いだったのかもしれない。
イベント用にダンジョン内に急造したゲストルーム(個室)に案内して、ウェイティング用のラウンジ兼メイン会場も教えて、時間になったらここに集まる様に頼んで、時間を潰しをしてもらう事にした。
次に到着したのは、中国から来られた王浩然/ワン・ハオレン(55才♂)だ。
中国人と言うと人民服や女性ならチャイナドレスを着ているイメージがあったのだが、パリッとしたスーツ姿がかなり堂に入った雰囲気の人で、向こうはそんな気は無いとは思うんだが、ちょっと威圧された気になってビビったのはナイショだ。
その後は、本当に三々五々と言う感じで、バラバラにやって来た。最後に来た奴なんか、約束の時間の5分前になっても来なかったので、ブッチされたのかと思った程だ。
時間内だったから、文句は言わんし、誰だったかも言わんけど。
年齢の昇順に列記するとやって来たのは、アイラ・アミン(インド/22才♀)、アティカ・ハーマン(インドネシア/32才♀)、佐藤凛(日本/39才♀)、呉梓萌(ウー・ズムォン/中国/51才♀)、ダーシャ・ラルー(インド/54才♀)、ジゼル・シウバ(ブラジル/63才♀)、レオン・メイヤー(ドイツ/68才♂)となる。
日本で開催するイベントだからもっと日本人の応募が多くなると思ってたのだが、思っていたより日本人の応募が少なかったと言うか、日本以外からの応募が多かったので、こんな感じになって驚いたわ。
全員揃って、約束の時間になったところで、イベントの流れの説明を行った。
予定をざっと列記するとこんな感じだ。
・1日目 朝の9時~9時半位までにメイン会場に集合。配信開始までそのまま待機
・1日目 10時 メイン会場で配信スタート。オープニングでイベントの流れを配信
・1日目 ~12時半 農場(薬の原料になる魔草類の栽培施設)視察
・1日目 12時半 メイン会場で製薬開始 立会人は、製薬風景を含むダンジョン内を自由に見学
・2日目 15時 製薬完了 立会人に提供。立会人はカメラの前で即時服用
即時服用しなかった場合は、失効とし権利をはく奪する。
・~3日目 15時 立会人への効果確認期間
・15時 配信終了 解散
この間の各所の光景は、リアルタイムでストリーミング配信される。
基本的にこちらの製薬スキルありきのイベントなので、そんなんにせわしないスケジュールにはなっていない。
注意が必要なのは、
・基本的に立会人は、期間中、ダンジョン内の何処に行って何を見ても良いが、変な所に入り込んで、トラップなどに引っかかって、死ぬ目に合っても、こちらは一切補償しない事。
・期間中にダンジョン内で拾得・取得したものについて、服用、飲食、摂取したもの以外は持ち出し禁止である事。
・基本的にダンジョン内での行動になるので、ダンジョン法の規定が適用される事。
等になる。
命に関わることなので、改めて注意の喚起を行った。
要は、『ダンジョン内と言うのはある種の治外法権になるので、何があるか分からない。イベント期間中は、立会人が立ち入りする可能性が高いと想定される部分では、ルールの適用を若干緩めになる様に調整するが、絶対ではないのでちゃんと注意をしておかないと死んだり、怪我したりしても補償はしない。また、ルールゆるめにするからと言っても、立会人のダンジョンの探索は禁止。期間内にダンジョンで手に入れた何かも持ち出し禁止。イベント中の滞在場所・飲食についてはこの国で一般的と判断可能なレベルの物を用意する。宗教的な理由、信条多岐な理由で何かしらの対応が必要な場合はあらかじめ申し出る。立会人は薬液をカメラの前で飲む事ならびに服用後24時間の範囲で状態を適宜カメラの前で公開する事義務とする。薬液をカメラの前で飲まなかったり、服用後カメラの前に不自然に状態をさらさなかった場合は契約を履行なかったものとする。』程度の話だ。
正直、持ち出しをされても少量なら殆ど危険性は無いと思うんだが、魔草類と言うのは魔素によって薬効などが強化されているので、毒性のあるモノを持ち出されてしまって拡散されると、少量でもなにがしかの影響が出てしまう可能性が否定できない。
そこで、説明が終わったところで、同意書と言うか、期間中は身柄が緩やかに拘束されること、どんな結果になっても異議の申し立てを行わないこと、説明にあったルールも守ること、と言う内容の魔法契約書にサインをしてもらっった。これで今日のスケジュールはお終いだ。
明日、ここに再度来てもらう時間まで、このままダンジョン内に留まって探索するのもよし、どこかに観光に行くのもよしの自由時間となった。
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