第25話 製薬レシピ公開4・イベント前日1
回線の増強が間に合わない?
どういう事だ?
イベント直前に飛び込んで来たビックリニュースに硬直しながら馬鹿みたいに復唱していると、
「そうでは無いんです。」
と通信事業者の社員が詳しい説明を始めた。
詳しく聞いてみると、話としてはまぁ妥当と言えば妥当な話だった。
そもそも、通信回線と言うものは、一つの会社が占有的に利用する様な物ではない。…と言うか、それではトータルでのパフォーマンスが悪すぎて、商業的に成り立ち得ない、と言うべきかも知れない。
もともと情報通信網と言うものは、世界中の通信事業者が互いが提携している事業者との間で繋いで情報のやり取りをするのに使っているもので、特に高速で時間単位で扱える情報量の多い回線を上位回線(バックボーン)と呼ぶが、これらの通信網は国ごとに1本設定できないのでは無く、複数の事業者が互いの提携相手先に敷いて相乗りする様な形で世界中とつながっているのだ。
勿論、国によっては予算などの関係で1本しか設置できず、さほど太くも早くも無いモノしか扱えない等と言う場合もあるのだろうが、複数の回線事業者がコストの許す範囲でそれぞれのパートナーと提携して回線を敷き、利用している事の方が多い。
2020年代の日本で言う前提ならば、OCN(NTT)、IIJ、KDDIなどがバックボーン運営元として有名だ。
一般に、各個人と契約しているIPSとかプロバイダーと呼ばれる事業者は、この上位回線を運営している事業者と契約して相乗りさせてもらう形で利用させてもらったり、相乗りさせてもらっている会社の更に相乗りさせてもらう様な形で情報通信網を利用している。
当然だが、この上位回線は大抵とても通信速度が高速かつ大容量な回線で、そこに近い部分から高速な機器経由で子亀の様に接続出来ればそのパフォーマンスを十分に実感できる形で利用できる。ただし、最高のパフォーマンスを利用しようと思えば、最高のお足が必要になる。
そこで、そういう環境にいる業者に頼んで、孫亀の様に接続出来れば、若干パフォーマンスは落ちるが、そこそこのパフォーマンスで利用できる様になる。ただし、そこそこのパフォーマンスで利用できる様になるには、そこそこのお足が必要になる訳だ。
そこで更に…と言う具合に、自分の財布と相談して、納得のいくパフォーマンスで利用できる様になる着業者と契約して情報通信網を利用する事が肝心になる。
うちは、ハッキリ言って業界でも最下位辺りをチェックした方が良い位のかなり弱小ダンジョンで、配信を始めた当初を含め今でも資金力が高いなどとはとても言える状況にない。なので、取り合えず使えれば良い程度の格安業者を利用して配信を行ってきたし、それで困った事もほとんどない。
また、物理的にダンジョンがあるこの街も、この弱小ダンジョンの上りの一部にインフラの整備を依存している程度の大して大きな規模と言える様な街でも無い。
更に、回線を敷設・維持するだけで結構なコストのかかる高速・大容量回線を利用できる様な企業体が居を構えている事も無い。
当然、そんな状況で維持できる回線はかなり下流と言うか支流に相当する回線で、業者も回線の質の割にコスパが良い事が売りでやってきた様な業者になる。
それで今までは問題無くやって来れた訳だが、今回のイベントを配信する関係で一時的とは言えうちから流れる出る情報量が爆上がりする可能性が想定された。そこで色々調整した上で、業者に一時的な契約通信データ量の増量を依頼したところ、今後の恒久的な通信量の増大を期待して回線を増強する事業計画の前倒しを検討してくれる事になったのだが、如何せん、弱小事業者が急に増強の舵切をしたからと言って、プラットフォーム用の機器メーカーが綿密に組まれているの生産計画を変更して、優先的に機材を回してくれるはずも無く、イベント実施の日程をにらんでギリギリの調整を行う事になったらしい。
そしてついに今日、先ほどの時点で、どうやっても間に合わない事が確定した、と言う事になった。
とりあえず、今のままでも配信は出来るらしい。
ただし、世界中から寄せられるリクエストに対して、どの程度のパフォーマンスで対応出来るかが、かなり心もとないと言う事だ。
だからと言って、通信事業者と言うものは今日の今日で急に切り替えれるものじゃないし、切り替えれたからと言って、いきなり通信速度が増速出来る物でもない。
その為にはあらかじめ相応に対応して、準備を重ねておく必要があるし、その為に必要な時間もコストも人員も全く足りていない。
俺も、今日はこれから世界中からやってく来てくれる立会人との対応する必要があって、これ以上、業者との打ち合わせに時間を取る事が出来ない。
妻も当然、イベント対応の為にダンジョン中を駆けずり回っている。
仕方が無いので、業者側で可能な限りの帯域確保とプロキシなどによるデータの流量調整、配信用機器の設置等を委託して、その場を後にする事になった。
まぁ、仕方が無いだろう。元々契約しているのはコスパ優先のベストエフォート型の通信回線だ。回線の帯域を占有して確保いる訳ですら無いんだから、後は運を天に任せる位しかする事が無い。
しかもやる事は、イベントに必要な費用は参加者が各自で持ち出しする事を前提にしたほぼアマチュア団体が公園などを借りて実施する自主イベント的な感じのものであり、その内容はうちのダンジョンの無実を証明する為のアリバイ作りみたいなものになのだ。
これから全世界に流れる映像がどんなものになるかは、自分が出演する以上想定できてはいるのだが、どんな品質の映像になるかは全く見えてこない。
まぁどんなものになってたとしてもオリジナルのデータは残るのだし、時間がかかったとしても回線の増強が予定されている以上、リプレイなりなんなりの形でしっかりした提供する事は可能なのだ。
その辺を踏まえてイベント中のを進めて行こうと割り切るしかない。
そんな感じでドタバタしている内に、時間は経過して行き、立会人たちがダンジョンを三々五々に訪い始めた。
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