第22話 魔法契約2・製薬レシピ公開1
その後、直ぐに引き渡し可能なレシピやレジュメは無いので、取りまとめにに時間が必要な事を説明して、引き渡し日時に関して約束を交わして、かの御人をコアの力でダンジョンの入口近くまで転送してあげてその日の対応は終了となった。
その後、暫くの間は、約束のレシピ・レジュメの取り纏め以外については平穏な生活が続いたが、とうとう約束日時になって、受け取りに来たので、準備したレシピとレジュメ、それと魔草類のサンプルを引き渡して取引は完了した。
本来ならば、それで終わりになるはずだったのだが、今日、再びかの御人の来訪を受ける事になった。
契約違反に関するクレームだそうだ。
勿論、そんな事はありえない。
魔法契約は、基本的に魔力を媒介に魂を直接縛るものなので、破る事は出来ない。
実際に、レシピ作成時に内容を少しぼかそうと意図的に記述を曖昧にしようとしたり、書き出しをさぼろうとした時に、ペナルティの発動で精神的なダメージを受けて、慌てて書き直したり、執筆を再開したりした事が何度かある。
完全に適正に契約は結ばれており、今の時点でペナルティが発動していないと言う時点で、少なくとも俺が果たすべき義務は完全に履行されていると判断できる。
そう説明したがどうやら納得できないらしい。
まぁ、確かにそう言うスキルを所有していない者のしてみれば、魔法契約なんて実効性の無いペネルティしか設定されていないゆるゆるの契約にしか見えないだろう。
実際には、魔力によって魂が縛られているので、とんでもなく強い強制力を発揮するんだが、契約を破らなければペナルティを経験する事は無いので、それはわからない。
暫く問答を重ねた挙句に、お互いこのままではらちが明かないと判断して、一つの提案をする事にした。
そう、ダンジョン内をさまよっている魔物を討伐し、ドロップを取得して、そのままダンジョンを出てみる事を提案したのだ。
前回、諸々の状況から判断して、レシピやレジュメをきちんと渡したとしても、その後確実に揉める事になるだろうと思えたので、魔法契約書にはあえて強制期間の設定をしなかったのだ。
その結果、今の時点でも彼(イクシ・カワゴエさんと言う)にも俺にも契約に基づく強制力がはたらしている。
だから、この状態で契約違反行為を行えば、彼に強制的にペナルティが発生する事になる。これを経験すればいくら何でも、俺が嘘をついたとは考えないだろう。
何せ契約に基づくペナルティは、10分経過毎に自然回復力を3%上回る、蓄積型のダメージの継続だ。
単純計算で、8時間も経過すれば、MPが最大値の8割減程度まで削られる事になる。
この段階で常人なら人事不詳に陥ってもおかしくないダメージだ。
しかも、約束を守らなければと言う強迫観念が付いてきて、這ってでも約束を守ろうとする様になる。
一度経験すればわかるだろうと言う事で、理由を説明せずに実践してもらう事にした。
結論から言えば大正解で、試してもらって直ぐに謝りに来た。
ペナルティは、大分きつかったらしい。
「何故そんなはずは無いと言ったか、ご理解いただけた様で何よりです。」
と言ったら、しきりに恐縮していたな。
だが、問題は、何故彼が俺が嘘を付いたと思ったか、だ。
そうなる原因は二つしか考えられない。
契約条件に何か問題があったか、情報を受け取った側の確認作業に問題があったのかの何れかだろう。
そして、こちら側に問題は無かった事と、契約条件に問題が無かった事は証明された。
となると、問題があったのは確認側と言う事になる。
こちらと確認(製薬会社)側が直接交渉できる状態にない状況である以上、こちらとしては、イクシ氏とその方向で話をつめてもらうしかないのだが、向こうもそんなはずは無いとかなり強硬な姿勢らしい。
となると、向こうが慌てて強硬姿勢を改める様な手を取るしかないのだが、どうした物か…
ふむ、少し妻と妻の同好サロンとの間で話をする必要があるかもしれないな。
先ずは、イクシ氏との間で事前にコンセンサスを得ておく必要があるか…
氏を呼び出して、今回の問題について対応する為には、レシピやレジュメの一部を公開して、第三者委員会的な感じの検証チームを立ち上げてもらって、確認してもらうしかないんじゃないかと思う旨を伝え、その対応をする為に必要な作業を検討する事になった。
細かい部分は、この後でもっと詰める必要があるが、流れとしては大まかに、
1.先ずSNSのアンチエイジング同好会にレシピの一部公開に関する同意をもらう。
2.うちのダンジョン発のストリーミング配信受信者経由で世界中の研究者に、うちのダンジョンで作成している薬液のレシピの一部を公開する旨の伝える。
3.ストリーミング配信受信者主体でレシピの妥当性を検証チームを募ってもらう。
4.こちらが指定する会場で実際に薬液の作成を行いその工程に問題が無いか見学してもらう。
5.実際に目の前で作成した薬液を確認してもらい、妥当性の確認が出来た事を公表してもらう。
と言う風に考えている。
イクシ氏は既に前金の形で製薬会社から半金を受け取っており、今後話がこじれても半金がもらえなくなるだけで、ぬしろ、意趣返しに製薬会社側にダメージを与える事が出来そうな状況を愉しみにしている様である。
俺としても、何かと言ってうるさい製薬会社を黙らせる事が出来るのであれば、金銭的な物は兎も角精神的にはかなりメリットを感じるので、嫌がらせの実施に嫌は無い。と言うか、むしろこんな提案をする程度には積極的だ。
細かい話は省くが、パトロンとして某レシピの権利の一部に関与するSNSサロン(同好会)からも、薬液の提供に影響が出さない事を条件に、同意が得られる事になった。
彼女たちにしてみれば、レシピ自体についてはどうでも良く、今と同じ(金銭的な)条件で同じ(タイミングと供給量を維持できる)様に薬液が手に入るのであれば問題ないとの事で、上流階級の奥様方相手にもっとシビアな交渉をする事になるんじゃないかとビビり倒していた俺としてはある意味拍子抜けだったが、楽に済んだことに感謝しかなかった。
今度機会があったら、長期保存用の原液を贈呈しようと心に誓うのだった。
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