第20話 製薬場
製薬場は、農場エリアの最奥、作物を育てている場所から少し離れた場所に構築されている。
理由は簡単な話で、ここで諸々の材料から成分抽出を行ったり、混ぜ合わせたりするのだが、その際にいささかヤバめなアレやコレやが発生するのだ。
そもそも、普通に市販されている薬であっても、適正用量を考慮せずに過剰に摂取し過ぎれば副作用などでやばい事になる。
服薬と呼び服毒と言うが、これらは表裏一体の関係にあって、適正な量を適切なタイミングで飲むことを服薬と呼び、量やタイミングを無視して服用すれば、それは服毒と呼ばれる行為となる。
ぶっちゃけると、薬とは特定の毒を害にならない程度の極低用量でタイミングをはかって使う事に他ならないのだ。
それが魔化した事で効果が強化された薬効成分ともなれば、想定以上の反応を引き起こす可能性がある。
また、調合に伴って発生する事のある中間生成物などにも、強い毒性を示すものが含まれる場合が多い。
具体的には、製薬過程で発生する煙などに結構な毒性を持つ成分が含まれる場合が多くあり、製薬場所と畑との間に十分な間隔を開けておかないと、育成中の作物に毒性のある成分が沁み込んだり、作物中の成分と反応してとんでもない謎物質を生成してしまう可能性があるのだ。
大体、不測の事態と言うものは、あらかじめ予測できないからこそ不測な訳で、それが予測出来ていたら不測とは呼ばない。
と言う事で、万が一にも何か不測の事態が起きない様に、ダンジョンの製薬区画は物理的に農場エリアから隔離されて設置している。
ここで、もし、この施設に入るのなら言っておかないとまずい事がある。
要は、この中には魔化して毒性が強化されたモノも多いので、入る場合、命の保証は出来ない云々と言うアレである。
この件についての同意を取っておかないと、製薬中に発生する中間生成物などに侵されたとしても、自己責任と言う事で罪を問われない(可能性がある)。
また、最悪中毒の影響で暴れられた挙句に施設を壊されたとしても、責任を問われないのはもとより、賠償責任を問える可能性が出て来るので、気休めでも伝えておいて、同意を得ておく必要がある訳だ。
そう言う訳で、
「ここから先にある施設が、製薬場です。
ここで使っている薬剤の原料の殆どは、基本的に今通って来た農場エリアで育成している魔草の類から抽出しています。
その為、同じ様な成分であっても、一般に流通している和漢薬の類と比べてもかなり薬効が強くなる傾向があるとの事です。
それを、乳鉢や薬研などですりつぶしたり混ぜたと言った事をしつつ、魔力をなじませています。
イメージとしては、時代劇などで療養所で処方した薬を薬研などで作るシーンが偶にあると思いますが、あんな感じですね。」
そう言って、少し肩をすくめる仕草をした上で、
「…申し訳ないですが、ここは初心者向けに開放している小さなダンジョンの中にある非公式で私的な製薬場に過ぎません。
ダンジョンの外の様にある様なHACCP認定工場等の様に、衛生的で効率的な工場を期待されても対応できるものではありません。
しょせん、個人が自分を含むサロン内でお試しで使う分の薬もどきを作る為だけに私的に使っている施設ですから。
しかも、自分たちの分だけ作れれば良いと言う考えで、とりあえず使えれば良いと言う判断ででっち上げた設備も多いんですよ。
正直、まともな製薬工場などではどういう機材や設備を使われているのか知りませんが、普通は使われていない機材、と言うか、想像もつかない様な機材なんかも多いと思いますよ。」
そう言って、手を伸ばし、施設を指さす様にしながら、
「あぁ、それと…、ここで使われている機材に関してですが…
先ほどの説明通り、ただその用途で使えれば良いと言う考えの基に、やっつけででっち上げた様な機材が結構あります。
これに関しては、何分、この製薬場が私の知る限りこの世界でただ一ヵ所だけある事が確認されている魔力を薬に馴染ませて薬効を強化する事が出来る場所だからです。
まぁ、それほどしっかりと確認をしている訳ではありませんので、実はここ以外にもあるのかもしれませんが、私が知る限り眉唾なネタ以外で、ここ以外で魔法薬の生成をしていると言う話を聞いた事は有りませんし、それ用に作られて市販されている機材と言う物も見た事は有りません。
その為ここで使われている機材は、自己製のワンメイクの機材ばかりなんですよ。しかも、下手に壊れると再現できるかどうかも分からない様な物も多いんです。壊さない様に気を付けてください。」
「最後に、先ほども言いましたが、ここで使われている薬材等には、魔化する事で効能が強くなっている物も多いです。
スキルとして耐毒性や、耐薬性等をお持ちでは無い場合、最悪毒に侵されたり、身体機能に支障が生じる可能性を否定できません。
それでも、この中の見分を希望されると言うのであれば、それを妨害する術を私たちは持っていません。
因みに、私と妻、助手として使っている魔物たちは耐性を持っおり、入場しても問題ありませんので、特に対策などせずに出入りしています。
ヘタに触ると、命の保証が出来ない事もあり得ますので、内部を見廻るのであれば十分にご注意ください。
では、ご自由にどうぞ。
私はここで休憩しがてらお待ちしてます。終わりましたら声をおかけください。
対応いたします。」
そう言って、製薬場の手前に設置してあるテラス席につき、農場の世話係として使役しているガーデン・ノームにお茶を用意させるのだった。
探索者君は、暫く何か言いたそうな顔をしてこちらを見ていたが、結局何も言わずに製薬場に入って行った。
さて、このまま死んでくれると楽なんだけどな。
そうは問屋がなんとやらってか?!
どうなるかねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます