第19話 ヒールポーション?
踏破者報酬と言う名の最終トラップは、聊かややこしい仕様にしてある。
三重トラップ、正規の鍵を使わずに一つ目のトラップを解除して箱の蓋を開けると、もう一つのトラップが作動する仕掛けになっている、それを回避して宝物を取ろうとすると、3つ目が作動するのだ。
これを全て回避できた者だけが、報酬を手にする事が出来る。
入手できる物は、うちのダンジョン内で入手できる他の宝箱の内容物より2ランク程良いものが出易い様に設定されている。
例えば、うちのダンジョンで言えば、ヒールポーションなら低級>低中級>中級クラスの品質になったり、武器類であれば、低品質通常品>並品質通常品>低レベルの付与付きのor高品質通常品のものが出やすいと言った具合だ。
通常、うちのダンジョン内にランダムにポップする宝箱には、良くても少し品質の良い程度の武器類であったり、低品質のヒールポーションまでの物しか出ない。
これはダンジョンの設定が初心者向きで収支がそういう形で固定されている以上仕方が無い事なのだ。
ただ、この農場エリアは、マスター権を有する者を除くと殺意マシマシのトラップゾーンを抜けて来れるだけの猛者しか入り込めない設定なので、得られる報酬の設定を上げる事が出来る。
まぁ、報酬をショボい物のままにして暴れられても困るので、それなりのものを出して気持ち良くお帰り頂こう、と言う心算な訳だ。
実際、ダンジョンに入って来た時点で、どの様な装備を持ち込んできたのかはチェックしていないので知らないが、トラップゾーンを抜ける為には、そのほとんどを放棄せざるを得ないはずで、実際、目の前に似る探索者は、裸とは言わないまでも部屋着とか薄着としか言えない様なカッコをしていて、探索者っぽいのは少しゴツ目のブーツを履いているだけだ。
正直、良くここまで罠解除の道具を持ち込めたな、と言いたくなる様なカッコではある。
これなら、うまく行けばここで終わってくれるかな、とそれなりに期待したのだが、それ程はうまく話が進んではくれなかった。
いや、向こうが一歩上手だったと言うべきか。
持ち込めた道具でアッサリ罠を解除して、戦利品を手に入れる事が出来てしまった様だ。
こうなってしまうと、この後農場の作物をごっそり持ていかれる可能性があるんだか、生憎とこれらは行き先と言うか使い道が決まっているので、持っていただく訳にはいかない。
からと言って、全く鍛えていない俺と妻で、ここまでこれる様な猛者に対応出来るはずもなく、作物の世話をしている魔物達も、最下級の戦闘力しかないので論外、全滅して世話役がいなくなる未来しか見えてこない。
仕方ない、あたって砕けるか…
「どうやら、うまくモノを手に入れる事が出来たようだね。
おめでとう。
因みに、何が入っていたんだい?」
と聞くと、いぶかしげな顔でこっちを見て来たので、
「生憎と、宝箱の中身はランダム生成、ややヒールポーション多め程度に設定していてね、何が入っているかは、開けてのお楽しみなんだよ。」
と答えると、呆れた様な顔でこちらを見て、物を見せてくれた。
「ほう、短剣かな?!
だとすると、そこそこの品質の品の可能性があるね。
まぁ、持ち帰った後のお楽しみって感じかな。
さて、じゃあ、この後は農場エリアの案内を再開するか、それとも休憩でもするかい?
生憎、此処ではちょっとしたハーブ茶程度のものしか出せないんだが、何かご要望はあるかな?」
と水を向けてみると、向こうからは
「それなら、此処で生産しているヒールポーションについて話を聞きたい。」
と答えが返って来た。
だが、残念ながら、此処でヒールポーションを生産している、と言う事実は無いんだよな、アンチエイジング薬液なら兎も角として。
「残念ながら、このダンジョンでヒールポーションを量産していると言う事実は無いよ。
これだけの広さで農場を運営して、これだけの作物を作っているのを見た上でこの答えを聞いて、それを信じろと言っても、真実味が無いと言うかもしれないが、此処にある作物の殆どは、アンチエイジング薬液の原料と、私と妻が日頃食べている野菜類が占めていてね。」
「あぁ、宝箱などに入っているポーション類は、ダンジョンが宝箱を生成する際に同時に自動的に生成される類のモノだから、こちらで作っている訳では無いんだ。」
「あるご婦人が、アンチエイジング薬液をヒールポーションと偽って販売していた事は知っているし、その薬液にヒールポーションと似たような効果があったらしいとは聞いているが、実際にその薬液がヒールポーションとどの程度同じで、どの程度の差があるのかを確認した事は無いので、うちでは別物だと考えている。」
「勿論、ヒール=再生と考えれば、アンチエイジング薬液と効果が似ている事は事実なんだろうが、残念ながら適切な検証も行っていない様な物をヒールポーションと偽って販売する気はないし、保証も出来ない。」
「元々、アンチエイジング薬液もWeb上に開設したネットサロンで同好の士どうしが情報交換がてら研究を始めた事が始まりらしくてね。
やがて、研究をする者と資金を提供する者とに役割分担が出来ていって…、
ある程度研究が進んだところで、個々のユーザーに対して効果の確認が行われて…、
成分の調整が行われたらしいんだよ。」
そう言って相手の反応をうかがうと、特に口をはさむ気は無いらしく、軽くうなずいて続きを促してきた。
「そもそも、研究する側は、まぁ、ぶっちゃけ、うちの妻な訳なんだが、ダンジョンのサブマスターと言う事で普通の人間よりかなり薬剤に対する抵抗力が高くてね。
基礎実験段階で自分の体を使って色々試したみたいなんだ。
その結果を参考に、美容に効果のありそうなものを組み合わせて、薬液を作り込んでいったらしいんだ。
その後は、個々の会員に少量使ってもらって成分調整をしたらしい。
だから、汎用と言う意味でも十分な検証は行われていないらしいね。」
もう一度相手の反応をうかがってみても、特に口を異論は無いらしく、軽くうなずいて更に続きを促してきた。
「それと、此処にある原料を持ち帰っても、ヒールポーションはもとよりアンチエイジング薬液も生産する事は出来ないそうだよ。
何故かと言うと、薬液の生産には農場で生産している作物が必要らしいけど、全ての作物が魔化した魔物で成長にダンジョン中の魔素(マナ)が必要な上に、有効成分を薬に定着させるにも魔素(マナ)が必要なのだそうだ。
しかも、それをする為には、少なくとも最低レベルの製薬スキルか錬金スキルを持つ者が必須になる。」
「それとね、このあとで案内するが、製薬場での作業は決して見て気持ちいい物じゃない。
よく昔話で魔女が暖炉の巨釜を使って謎の薬を作るシーンがあるだろう。
あれを想像してもらえれば、そんなに大きく違いは無わないんじゃないかなと思うね。」
そんな感じで、その後農場内を案内しつつ、製薬場に誘導して行くのだった。
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