第16話 ヒールポーション3

多少無理をすれば、採取物、採掘物、宝箱の中身などをもう少し良いものにしたり、良いものが得られる可能性を増す様に当たり外れの振れ幅調整する事が出来るのだが、所詮うちレベルのダンジョンでそれをやっても出来る事は焼け石に水程度の差にしかならない。

そうする事に殆どメリットが無いので、その辺の調整は見送っているのが現状だ。


もっとも、魔物3種だけで妻がアンチエイジング溶液を作成できるのかと言えば、出来るはずも無く、そこは、一般の探索者達が容易に入り込めない様に作った難到達エリアを利用した農地とも言える領域で一般に公開していない魔物(妖木、魔草、魔茸等)を10種類以上を育成・栽培していると言う事実がある。

妻はコアからの情報を元にこの魔物達から抽出した成分を掛け合わせて、アンチエイジング原液を作成しており、また、作成した原液に幾つかの抽出液を添加し、精製水とグリセリンで割る事で維持液(希釈液)を作成している。ただし、維持液は単純に抽出液を追加したり精製水とグリセリンで希釈すれば良いと言うものでは無く、それらがうまく原液に馴染む様に相応の魔力を同時に混ぜ込む必要がある。


なお、妖木、魔草、魔茸と言うのは、魔素を吸収して魔物化した植物類の事で、魔物と言いながらも植物でもあるので、基本的に移動能力や攻撃能力は無いらしい。

根本的な部分で大本になった植物の性質を残しながら、虫媒花・風媒花等の特質を大きく強化する様な方向で魔物化している場合が多く、花蜜や果実に栄養価に富んだ成分がより多く含まれる様になったり、保湿性等の機能性に優れた成分が樹葉に含まれる様になったり、細胞を活性化させる様な樹液成分を持つようになったり、魔化に伴って多種多様な変化を遂げるものらしい。

中には、冬虫夏草の様に他の生物に寄生したり、食虫植物の様に他の生物などを捕らえて吸収する様な性質のもの、人にとって強い毒性を持つ成分を果肉の中に仕込んで種子を食べようとしたモノを殺し逆に自身の栄養にしたり、毒性のある胞子などを空気中に放出して敵性生物を近づけさせない様にしたり、種子の部分を硬い殻に包んでその後ろに気嚢を形成して気嚢内に十分なガスが溜まったら爆発させてかなりの速度・強さで遠方に射出する様なもの(種子は射出された先で定着出来たら発芽するらしいが、近くでそれを喰らう事になると洒落にならない怪我を負わされる事になる。)もいるらく、これらの特殊な植物を育成するには事前の情報確認と注意深い対応が必要なのだそうだ。


現状でそれをまともに出来る可能性があるのは、十分な情報のやり取りをコアとの間で出来るマスター・サブマスターしかおらず、しかも必要なだけのコミュニケーションをコアとの間でとれる関係性を保っているマスターとなると殆どいないと言う状況にあるらしい。

その辺の情報さえ確認できるのであれば、植物を育成出来るスキルを持つ探索者・冒険者で育成だけは出来るらしいが、成長した魔物達から必要な成分を変質させずに抽出したり混ぜ合わせたりするには、これとは別の製薬系乃至錬金系のスキルが必要になる様で、一般にこの様な探索・冒険に直接関係しない支援系スキルを持ち、それを育てている者は殆ど確認されていない状況の様だ。

もしかすると単純に世間で取り沙汰されていないだけで、探せばいるのかしれないが、これらを兼ね備えている存在となるとマスター等の万能職を除けばかなり希少性が高い人材となると思われるので、雇うとなるとかなり大事になりそうだ。


情報開示を求めている連中がそれをわかっているとも思えない。

と言うかわかっていたらこんな形で騒ぎたててに、うちとの関係性を悪化せさせるのが良策と考えるとも思えないのだが、人間、視野狭窄を起こすと何をしでかすかわからないからな。

まぁ、少なくともうちではこう言う態度に出てくる輩に対して、友好的な対応は出来ないので、関係性を改善する事は困難と言わざるを得ない。

恐らくは、と言う条件が付くが、世界でもここだけでしか採れる事がわかっていない希少な植物・菌類系の魔物素材と言う意味でもそうなのだが、妻の育成スキルや製薬スキルが絶望的に成長していない状況にあって、作れる素材原料数と生産できるアンチエイジング薬液の量が頭打ちでギリギリなのだ。

生産できる薬液は、現状のサロンのメンバーに供給分だけで、生産量の8割以上消費してしまう事がわかっており、その中から維持液を生産するのだが、保存性が悪いため作り置く事が出来ないので、出来たら即発送と言う作業の繰り返しになるそうだ。残りの原液はいざと言う時の為にストックするらしいのだが、元々奥様方の使い方が微妙に不安定らしく、なかなか貯まらないと言うのが現実らしい。


それなのに研究と言う名目で、材料やら生産物やらをただ同然で渡せと言うのだから、真面に相手に出来る訳が無い。

何よりそんな事になれば、また、前の時と同じ様にセレブな会員様方が暗躍する事が目に見えている。

それがわからないと言うのだから、色々終わっているとしか言い様がない。

うちとしても農業&製薬エリアを荒らされる訳にはいかないので、いざと言う時の対応の為、進入路を現行の侵入困難型(うちではS〇S●K◎型と呼んでいるが、比較的小柄な探索者しか入れない様に進入路を狭隘で曲がりくねった構造にして装備の持ち込みも制限し、侵入に失敗しても殆ど死なないが池に落ちて水浸しになる罰ゲームの様な構造)から、殺意マシマシの侵入困難型(前述の構造で、農業エリアに近い所で失敗すると罠にはまって死亡リスクが高くなる構造)に切り替えざるを得なかったのは、仕方が無いだろう。

何せ、ダンジョンの進入路の設定の最低条件は、マスターが出入り可能か否かを基準にできるので、俺を基準に比較的小柄でひょろい体形のものが通れるか否かを基本条件に出来るのだ。


もっとも、今までのS〇S●K◎型侵入路で初心者を振り落としていたのは、下手に農業エリアに侵入した挙句に菌類の放出する胞子等に侵されてしまうと、耐性スキル持ちのある程度以上のベテランでも無ければより自身が危険な事になりかねないのと、下手に影響を受けた状態で外に出られてしまうと、胞子等が拡散されて色々な意味で取り返しが効かない事になってしまう可能性があり、保護する必要があったと言う意味合いが強かったのだ。

この騒ぎで製薬会社が約束したらしい懸賞金につられて入って来る想定外のベテラン達を潰す為にダンジョンの構造を変えざるを得ないのだから、困ったものだ。


因みにうちの夫婦は2人ともマスターなので、デフォルトで初級の耐性スキルと同等の耐性があるし、必要な情報は確認し放題で、農地エリアへはコアの力を使って転移で直接出入りできる。

また、農業エリアで育成をしている植物類の世話は基本的にガーデン・ノームと言う小型の魔物に行わせている。

彼らは体長が約30cm程しかない人型の魔物で、攻撃系の魔法もあまり得意ではないと言うダンジョン生の魔物としては最弱クラスの戦闘力しか持っていないが、植物・菌類等を主食としており、自らの食べる食物を自ら育てるだけの知恵を有している。それ故に植物や菌類由来の毒などへの耐性もある程度持っていて、うちの農業&製薬エリアでの作業に向いているのだ。

また、ダンジョン生の魔物の常として基本的にマスターの指示に従う性質を持っているので、うちでは妻が製薬作業の合間に必要な農作業の指導を行って、必要な作物の育成を行っている


尚、知能や器用さなどの身体的能力に関しては種族的特性の他に個体差も大きい。

また、レベルが高くなるほど高いスペックを持つ傾向にあるが、どんなにレベルが上がって数値的に同等になっても、知能が高くない魔物は高くないなりの行動をする傾向にあり、あまり複雑な命令を実行出来ない魔物も多い。

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