第15話 ヒールポーション2
ポーション疑惑について、某夫人一党の破滅で幕を閉じたと思っていたのだが、そっちの方は兎も角、製薬会社やマスコミ側が納得していなかったらしく、暫くしたら蒸し返す様に騒ぎを更に大きくしてやって来た。
騒いでいる側は、うちに、
「お前たちはポーションを作って荒稼ぎしているんだから、そのレシピを一般に公開しろ。(公開して、分け前をよこせ。)」
或いは、
「お前たちが作っているポーションが本当に効果のあるモノなのか確認してやるから、そのレシピを一般に公開しろ。」
と言っている訳だが、うちではポーションをコアから教えられたレシピで本当に作成できるのかを試した以外で作成した事は無く、また、それを販売した事実も無い。
俺は、基本初心者向けダンジョンのマスターとして、ダンジョン内でポップする宝箱の罠を無しにする、かなるべく殺意の低いものを設定する様にしている。
その結果、ダンジョン自体のレベルの低さと相まって中身にあまり良いものを設定する事が出来ない。
実を言えば宝箱に関しては、内容物を固定して生成する事が出来る。この場合、ダンジョンのレベルに応じて生成出来る内容物に制限があったり、生成する内容物のグレードに応じた魔力を消費が必須となり、相応にダンジョンに負担をかける事になる。
逆に内容物を固定せず生成する事も出来る。この場合、投入する魔力に応じてランダムに内容物が自動生成されるのだが、やはり生成内容はダンジョンのレベルに応じたものがメインになる。ただし、あくまでもメインになるであって、ランダム生成である以上、それなりに良いものが出る事も稀にはある。
或いは、宝箱に罠を『有り』に設定して、その罠を殺意の高いものにすれば、バーターで内容物に良いものが出る確率を上げる事が出来る。
『有り』でも殺意低めの罠の場合、さほど内容物のグレードを上げる事は出来ないが、『無し』よりは多少は良い内容物が出る様に調整出来たりはする。
うちは、初心者向けのダンジョンをモットーにしている低階層のダンジョンなので、宝箱には罠無しにしたり、罠有り宝箱にしても殺意の低い低ランクの罠をランダムに設定して初心者に慣れてもらう程度がせいぜいだが、殺意の高い罠の場合、解除に失敗したり解除せずに開けてしまうと大怪我や死傷をする事もあるらしい。
そして、罠有り宝箱の目玉がうちの場合ポーションだ。と言っても低レベルポーションが出せる限界で、ダンジョンに過度の負担を強いない為、ポップ率もさほど高くない。(確率を高くする様に設定しているが、それはコアに無理をさせない範囲で調整を行う為、上げる事の出来る確率はお察しだ。)
どうも、マスコミは、低レベルのダンジョンにしては、良い確率で低レベルポーションがポップするし、不定期ではあるが、うちからオークションに偶にポーションが出品される事がある為、うちで生産しているのではないかと疑っているらしい。
だが、うちがオークションに出品するポーションは、ダンジョンが宝箱の中身として生成しているものだし、それを回収して販売しているのは、一定期間以上発見されずに放置される宝箱を放置しない為の対応で、ある種の間引きに類する行為になる。
よってこれはダンジョンの運営に類する行為にあたる為、ポーションの作成にはあたらないと判断している。
また、妻はアンチエイジングの効果が期待できる美容液の研究をダンジョンから採取できる魔物由来の成分から抽出して使っており、研究の結果出来た溶液をSNSの同好会的なサロンのメンバーに頒布しているが、これはそもそも研究資金的な意味で協力(パトロン)関係にあったサロンのメンバーへの謝礼的な意味合いが大きく、またメンバー間で情報を共有する為の行為でもある。
実際に薬効を約束して儲けを製造コストに大きく上乗せして販売した事実は無いし、むしろ、人体実験とまではいかないが、個人差による効きの良し悪し等の確認する為のテスター的な意味合いの強い行為になるそうだ。
そもそも妻がポーションに目を付けたのは、怪我の治癒でつるつるの皮膚が再生した事が始まりで、コアに情報を確認しながらそういう効果を期待して作ったアンチエイジング液の効果の一部として、細胞の活性化が期待されるのは当たり前の話なのだ。
あり体に言えば、ポーションをカスタマイズして作っているのだから、その部分のみをピックアップした場合ポーションと類似した効果があるのは当たり前と言えば当たり前なのだ。
ただし、美容方向にカスタマイズを行った為にポーションとしての汎用的な効果の有無の確認していないし行う予定も無い。また、保存性(モノホンの未使用ポーションに使用期限は無いそうだ。)についての検証も行っていない。
ポーションと類似した効果が期待できるかもしれないが、それを研究するつもりもましてやレシピを公表する予定も無い。
つまるところ、某夫人のやらかしで、彼女がどんな話を世間に吹聴していたかが問題なのだが、それを調べる事は今更出来ないし、する予定も無い。
と言うか、この件に関して真面に相手にする必要は無いと考えている。
どうせ向こうもこっちを調べる事は出来ないだろうと言う判断もある。
どういう事かと言えば、うちのダンジョンの基本設定および構造が本格的な攻略に向いていないのだ。
うちのダンジョンは、言ってしまえば初心者向けのダンジョンだ。ダンジョンコアのレベルは高く無く、ダンジョン自体のレベルは更に低い。
どうも、ダンジョンと言う奴は成長にマスターの性格が多きな影響を受け、また、性能の向上には生餌を必要とする可能性が高い。
ぶちゃけ、マスターが食欲などの生存本能優先の生き物ならそう言う風に育っていくし、そうでないならそうでないなりに育っていくものらしい。特に最初のマスターによる影響が大きく、それによってダンジョンの基本的な性向の方向性が大分変わってくるものらしい。
うちの様に既に枯れたロートルのおっさんがマスターになるとどうなるかと言えば、お察しの通りそんなにガツガツしていないオッサン臭いコアになる様で、結果として、あまり殺意の高くないダンジョンが形作られる事になってしまった。
まぁ、これはこれである意味貴重な実験結果と言えるのかも知れないが、殺意が高くないと言うことは探索によるリターンも大きくないと言うことで、所謂ガチ層にはすこぶる評判がよろしくない。
この世界にダンジョンが生える様になって数十年程は経過しているはずだが、その間この世界ではダンジョンを探索して得られる成果物を換金して糧を得る冒険者若しくは探索者と呼ばれる職業の者達が誕生していた。
彼らは、ダンジョンを探索し、魔物と戦う事で得られるドロップ(注参照)や採取物、採掘物、宝箱などから得られる拾得物等を換金したり、或いは探索を行ったダンジョンの情報を売り買いする事で生活をしている。
実は、ある程度成熟したダンジョンは、その構造を大きく変える事は稀である。
同じダンジョンを何度も繰り返し探索するのであれば、ダンジョンの構造が大きく変動する様な事は滅多にないので、ある程度土地勘が働く様になるし、情報を同業者間で売り買いする事も出来る。
問題は、ダンジョンの探索によって得られる成果にかなり運次第と言うべき部分が大きい事だろうか。
同じダンジョンで同じ魔物と戦って得られるドロップは、最低で魔核(最低品質のもので小指の先サイズの完品なら100円程度で換金可)のみから運が良ければその魔物から獲れる某(最低評価額≒0(ドブネズミの毛皮的な物=ガラクタ)~最高評価額≒10億円以上(魔物を倒したら宝箱がポップして中から最高レベルのポーションが出た。このポーションは、死病にかかってお迎え待ちの状態で臥せっていた人物をたちまち回復させたらしい。)などになる。
彼らにしてみれば、ダンジョンとは生活する為の糧を得る場、即ち、職場の様なものなのだ。
そう考えた時にうちのダンジョンは、出現する魔物は、スライム・妖虫(妖蚕)・妖木(妖桑)程度で、倒しても得られるドロップは低品質の魔核位で稀に魔絹糸(妖蚕)が混じる程度だ。採取物、採掘物、宝箱等から得られるものもダンジョンのレベルに応じた低レベルなものばかりで、稀に低レベルポーションが混じる程度でしかない。
と言うかそうなる様に設定されているダンジョンなので、所謂プロには魅力的に見えないらしい。
--------------------------------------
ドロップ:魔物を倒した事で時に得られる某かの事。某RPGやマンガ等の様に何かを残して消えて行く様な事は無く、ダンジョンが魔物の死体を吸収するまでの間に剥ぎ取りを行い回収しておく必要がある。
--------------------------------------ある程度ストックの整理が付きましたので、今後3日更新に戻します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます