第14話 ダンジョンの昇格条件?

結局、何のかのと大騒ぎした割に、うちのダンジョンでは何がどうなったと言う様な動きになる事は無く、相変わらず表向きは産廃受け入れ&初心者用&葬儀用のダンジョンとしての運営を停めることなく継続している。

結果として、うちが行ったのは、妻のSNSサロンのメンバーの一部をパージした位で、影響らしい影響は殆ど無いと言って良いだろう。残念ながら、妖絹・碧絹売却による収益は、単価レベルで考えれば十分おいしいのだが、量が大したことが無い事もあってかなり限定的と言わざるを得ない。


相変わらず製薬会社などからはポーションが欲しい等とオファーが来ているが、うちが希に出荷するポーションは、基本的にダンジョンでポップする宝箱からゲット出来る希少品で、精々月ベースで数本程度のものでしかない。

しかも、いずれもオークションを通せば製薬会社からのオファーを遥かに超える金額で取引される事がわかっているものなので、折り合いが取れず、お断りする事になっている。


因みに、妻のSNSサロンのメンバーに提供しているものは、公式には研究中のアンチエイジング効果が期待される魔物からの抽出成分液(通称、原液)と、同じく研究中のアンチエイジング効果の維持が期待される魔物からの抽出成分液(通称、維持液)と言う事になっており、ポーションやポーションの類似品だと認めた事実は無い。

実際、今はもう社交界でも見かける事の無い某夫人にもアンチエイジング原液と維持液と言う名目で販売しており、うちから表に出ている書類・文書の中にポーションである事を認めたものは1つも無い。


ただし、サロンのパトロンメンバーに向けた研究の報告書に、

・ダンジョンから採取出来たモノの中に新陳代謝の活性化が期待できそうなものがあったので実験を行う。

・実験の結果、新陳代謝の活性化がかなり期待できそうなので有効成分の抽出実験を行う。

・抽出実験の結果、有効成分の抽出が出来た様なので、動物実験を開始する。

・動物実験の結果、副作用等の大きな問題は出ていないので、自身に対する服用実験を開始する。

・服用実験の結果、副作用等の問題は確認できなかったので、試験的に希望者に限って提供を開始する。

等の内容(実際にはもっと詳しいレポート)のとなっているそうだ。

”新陳代謝の活性化”と言う表現が、ポーションと関連付ける事も出来ないくないと言うレベルではあるが、薬効を約束した文言は無いとの事なので、セーフの様な気がする。実際、薬事法や薬機法違反には問われていない様であるし、公取からの警告も無いのでセーフなのだろう。


この原液と維持液の生産量は、現時点でサロンのメンバーに提供する分だけで生産できる限界量近くに達しており、これ以上はスキルの取得・向上を成し得ていない現状では、難しいと言わざるを得ない。

これは、マスター・サブマスターと言う職種がダンジョンの総合管理に特化したものである為、特定分野に特化した部分を持たないものである事に加えて、妻の基本的な性向・資質が製薬に向いていなかったと言う事に拠る様だ。


マスター系の特性として、総合的な管理遂行の為、どの様なスキルでも初級クラスレベルまでなら未取得の状態でも行使でき、資質的に向いたモノであれば比較的簡単に取得できると言うものがあるが、初級を超えるスキルの取得には補正は無く、個人の適性が必要となる。

そして妻には適性は無く、むしろ、俺の方が向いている位なのだ。

結果、初級クラスで製薬量が頭打ちにならざるを得ないと言う状況となっている。

今後、信頼できる製薬向きの人材が得られなければ、この状況の改善は難しいと言わざるを得ない。そして、ダンジョンにそう言う性向の人間が出入りする事は多くないのが現状だ。


ついでに言わせてもらうと、ダンジョンによるサポートも頭打ちの状態だ。

某氏の自殺によって、著しい性能の向上が見られたコアであるが、どうも、死体の吸収によって得られる性能の向上は、限定的か、何らかの条件がある様で、その後多数の葬儀の引き受けによってコアの持つ情報量の向上は見られるものの、思考能力の向上などの影響は殆どで見られない。

例えるならHDD等のメモリー部分の増強は行えるのだが、CPU等の基本的な処理回りの増強は出来ていない感じなのだ。


可能性として考えられるのは、あの性能の向上が偶然、要は偶々階位が上昇して性能が向上するタイミングで氏の自殺騒ぎがあったと考えるか…

これは実証しようがないのだが、生き餌、ある程度以上の思考能力を持つ生きた存在の死が必要かもしれないと言うものに行き当たる事になる。


確かに、第1段階から第2段階、第2段階から第3段階へのステップアップには人以外の生命(ネズミ等?)が、第3段階から第4段階(冒険者)・第4段階から第5段階(学者)へのステップアップには生きた人の死がかかわっていた。

しかも、第4段階から第5段階へのステップアップで使われた人の頭脳は、相当優秀だったものと想定される。

もし、今後のステップアップに優秀な頭脳…思考能力が必要だった場合、相当に難しいと言う話になるし、そうでは無くて、単純に人の生き死にが必要と言う事だけでも相当な難易度が想定されるのだが。(うちは初心者向けダンジョンなので)


そう言えば、人は死ぬと20g位体重が減ると言う話を聞いたことがある。

これが所謂魂の重さではないかと言う話なのだが…

どう考えても真面な実験ではないだろうし、恐らく反証実験を含め、真面な検証なども行われていないと思われるので、信憑性の低い話だと思うが、もし本当に人の死に際して魂魄が人の体から離脱し、それをダンジョンが吸収する事でダンジョンの性能が上がるのだとしたら、うちのダンジョンでかなりの量の葬儀や食品廃棄物の吸収を行っているにも関わらず、ダンジョンの階位がなかなか上がらない理由が、すっきり説明出来てしまう事になる。

もっともだからと言って、検証の為に此処(ダンジョン)で誰かに死んでくれ等と頼めるものでもない。

だから確かめようがないのだが…

願わくば、ジダン氏の様な冒険心に富んだ研究者が現れない事を祈るばかりだ。

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