第13話 こわっ!

最近世間が少し騒がしかった。

何故かと言うと、うちなら低レベルポーションを意図して生産できる事が暴露されてしまったからだ。

正確には、うちでポーションに類似したものを生産出来るらしい、とばらしてしまった人がいたらしい。

一応、うちの公式見解として、ダンジョンコアの保有する魔力に余裕がある場合、コアがダンジョン内に宝箱を生成する事があるのだが、その中身がポーションになる確率を高める事で、意図的に入手率を高める事が出来る、また、一度生成した宝箱はマスターであろうとなかろうと、拾った者の物になるので、必要なら宝箱をポップさせた場所に行って優先的に入手する事ができ、事実それを販売していると説明している。


実は、妻のやっているアンチエイジングがらみの業務で生産している商品の生産量だと数量的に全く辻褄が合っていないのだが、そんなもん公開していない以上、なんぼでもとぼける事は出来ると判断している。



それなのに、何故情報が洩れてしまったのか…

事の起こりは、妻がWeb上で運営しているアンチエイジング関連のSNSサロンだ。

元々、妻が同好の士と語り合う為に立ち上げたものらしいのだが、自分の怪我をポーションで治癒した結果、再生した皮膚に若返り効果が見られた様な気がすると言う話から、ダンジョンで採取できるものから何かそういう効果のあるものが作れないかと言う話に発展して、研究を行う事になり、世界中のセレブと呼ばれるご婦人方と情報交換などをしながら運営し、実績を上げていた。

その過程で、幾人かのコアでセレブなメンバーが、パトロン的な役割を果たしていく様になって行ったそうだ。言ってしまえば、金を出す事で自分はリスクを負わずに人体実験が出来る訳で、当人たちはそこまで恣意的な意識は無かったかもしれないが、要はそういう関係が形作られて行く事になった。

当然、こういう特別な立場の会員には、より詳細な研究結果のフィードバックが行われる事になる。すなわち、ポーションを使えば一定の期間細胞の活性化の効果が期待できそうだであるとか、その間若返り効果も得られそうだであるとか、更に研究が進んで1回の服用で1~2週間の間細胞の活性化の効果が期待できそうだであるとか、1回の服用量は1/10本程度で行けそうだであるとか、そういう話だ。


この件に関しては、最終的に自分がサブマスターになった事でポーションの服用を不要となっていた事が発覚して、解散したのかと思っていたのだが、少なくとも一部のパトロン的な役割を果たしていたコアなメンバーとに関しては、自分の都合で一方的に切る訳にはいかず、関係が継続していたらしい。

また、研究の成果として、老化防止や若返り効果維持用の希釈ポーション、通称、維持液については、当時、研究の為にも一部メンバーに有償で販売していた経緯があり、サロン解体後も相応の守秘義務契約の締結の上で、継続して販売を続けていたそうだ。

ぶっちゃけ、相手が凄すぎて切る事が出来ないらしい。


ところが、女性の美しさを維持する事にかけての執着と言う凄いものの様で、ナイショにしていたはずが、アッと言う間に、『ポーションは美容にも良いらしい。』と言う正しくは無いが間違っているとも言い難い情報と共に世界を駆け巡る事になった。

これは別に彼女たちの誰かがばらしたと言う話では無く、彼女達の日頃の動向を見ていた誰かがそういう事ではないかと言い出したのが始まりだったらしい。


結果どうなったのかと言うと、世界中でセレブと呼ばれる女性たちによってポーションが買い占められる事になり、世界中の市場からポーションが払底する事態となった。

市場に出回ると即売れてしまう事から、ただでさえ高かったポーションの価格の高騰が起こり、プロの探索者達ですら入手が困難な状態になってしまったそうだ。

ここで、うちの妻も世界の動向に合わせて薬代の値上げをサロンに打診しておけばよかったのかもしれないが、元々商売っ気の無いうちの妻の事、そう言う発想に至らず、碌に値上げもせず供給を続けたそうだ。


基本がCtoC(Consumer to Consumer)の商売である以上、何も無ければそのまま収まった話だったのかもしれないが、ここで、どうしても(ヒール)ポーションが必要になる事態が、メンバーの一人に発生したらしい。

しかも間が悪い事に本来の目的に使えるポーションに手持ち分は無く、市場では高止まりで入手困難な状態が続いていた。

そこで、本来の目的を外れるのを承知で非常用原液が使われ、妻に対して補充の要請が行われた。要請を受けたうちの妻は、原液の補充の名目で、高騰前に設定した値段で売ってしまったらしい。


ここからが頭の痛い話で、請求を受け取った奥様は、低レベルポーションと同等に機能する液体が、市場価格の1/10をはるかに下回る安い値段で入手できる事に気が付いてしまったらしい。その結果、原液をポーション(代用品)として市場に流し、小遣い稼ぎを始めてしまったそうだ。


ここからが少しややこしい話があるのだが、実はこのサロンには以前からこの原液を維持液代わりに使用している本当の意味でのお金持ちな奥様達がいた。所謂パトロン層の方たちだ。彼女たちは、金にあかして結構なペースで原液を服用しており、その補充分の注文ペースもかなりまちまちだったそうで、妻はその人たちにも同じ値段で補充分の販売していたと言う。

その為、普通なら気が付きそうなものではあるが、彼女も原液派になったのかな程度の認識した持たなかったそうだ。


そんな状態で時間が経過し、彼女が転売目的でかなりいい加減に注文をする様になって、ようやく、妻が彼女が本来の目的で使っていない可能性に気が付いたそうだ。

そこで過去の注文履歴や市場動向等とも照らし合わせた結果、かなりひどい転がしをやっていたらしい事が見えて来た。

この件に関して、かなり細かなやり取りがあったそうだが、結果、彼女の行為は規約違反であるとサロン内で認定され、アンチエイジング液の提供を停止し、サロンから脱退させられる事(事実上の追放)になったそうだ。


これに対して、彼女は情報をマスコミに漏洩する形で対抗措置を取ったと思われる。

思われると言うのは、同然の事として、彼女は認めていないからだが、ただし、状況的に彼女以外ありえないのだから、そう言う事なのだろう。

因みに彼女がそれを認めると、守秘義務契約に基づき大きなペナルティを受ける事になるので、身の破滅だそうだ。


これに対して、うちは公式にポーションを作れる事を認めていない。何せ、情報ソースが実例を含めて公開されていない以上、相手側がどんなに信頼のおけるソースがあると主張しても信頼性の低い言いがかりであると主張できるので、認める必要が無いのだ。

因みにダンジョン産のポーションは、妻産の物であっても成分の分析は出来ていない状況にあり、成分の一致を理由に反証する事は出来ないそうだ。

しかも、うちは恩恵を受けている世界的なセレブ女性達を通して、世界のセレブ達から支援が得られる立場にいる。対して向こうは世界中のセレブを敵にした状態になっている。

黙っていても負ける可能性はまず無いと言えるだろう。


むしろ騒ぎの原因を作った女性とその一党は、世界中のセレブ達からそっぽを向かれ、孤立無援の状態で事実上な破滅状態にあるそうだ。

なにせ下手に支援の手を差し伸べようなどとすると、うちがそっぽを向いて原液やら維持液が手に入らなくなる上に、わずかながら出荷しているうちのダンジョン産のポーションすら世に出なくなってしまう。

何をどうやっても誰にとっても良い事は無いので、誰も救いの手を出す事はなさそうだ。

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