第12話 ヒールポーション(魔法薬)
この世界にダンジョンが出来る様になって一番大きな革変を強いられたのが、ある意味製薬会社では無いだろうか。
宝くじの様な確率で、動植物などから未知の成分を抽出し、効果を調べ、動物実験を行い、ある程度の安全性を確認出来たら治験と言う名目で人体実験を行う。
一定数人体実験を行って効果がありそうなら薬事審議会で審議してもらい、効果ありと認められたら、やっと薬として売れる。
昔は大変な仕事だと思っていたのだが、covid-19と言う病気が流行った時に色々調べてみたら、そうでもない事がわかった。
かなりいい加減なものもある様なのだ、特に薬事の審議に関して。
治験中のもので効果がかなり怪しものでも、認可した事例がある様だし、医療現場での治験薬の投与の判断がかなり曖昧で恣意的な部分がある様なのだ。(効果が認められる薬でも、力関係でみとめられなかったり、効果が無いかかなり低い薬でも認められたりとかもあるらしい。)
また本当かどうか知らないが、聞いたところにによると、日本では昔、生理食塩水を内分泌薬だと言って結構な値でぼったくっていた事例すらあるそうだ。何でも薬事審議会ににらみの効く✖大の教授が生理食塩水を内分泌だと信じて働きかけを行い認可をもぎ取ったそうで、その人が死ぬまで認可が取り消される事も無く、結構な金額で薬として売られていたらしいと言う。医者も製薬会社も薬事審も何をやっているのかと言いたくなる様な話だ。
その信じて良いのだか悪いのだかわからない薬の世界に一石を投じる事になったのが、ポーション(魔法薬)だ。
現時点で明確な薬効成分は不明、入手先はダンジョンの宝箱の中と言う完全に運便りな状態にあり、当然薬として薬事の審議さえなされていないらしいが、最下級の低レベルポーションでもちょっとした怪我なら極短時間で直してしまう。
中クラスのポーションがあれば、ちぎれた腕位なら繋げる事が出来るらしく、本当かどうかわからないが、最高品質の高レベルポーションなら、欠損した四肢や内臓すら再生するらしい。
実際に、うちでも妻がケガをしてそれを直すのに使った事例があるし、何かのトラブルで対応が必要な時用に、最下級の低レベルポーションではあるが、何本か常備している。
普通はなかなか入手し難いものらしいが、うちの様にコアとの関係性が良いと多少の融通は利かしてもらえる様になる。エリクサーもかくやと言うクラスの高レベルポーション等は、そもそもうちレベルのダンジョンではポップさせること自体出来ないが、最下級の低レベルポーションの1~2本なら、魔力に余裕があれば下手な絆創膏を作ろうとするより簡単にポップさせる出来ると言う事だ。
実は、妻のアンチエイジング絡みの暴走で分かった事なのだが、ポーションと呼ばれるものには幾つかの種類があり、一般的にポーションとして知られているものは、怪我を直してくれるヒールポーションの事を指す。
このポーションは、基本的に人体の再生力を高める事で怪我を直す働きをもたらすのだが、そもそもヒトの再生力と言うのは細胞分裂によってもたらされる。そして、その回数は本来有限でテメロアと言う遺伝子の末端構造体の状態に左右される。
所謂ガン等と呼ばれる病気はそのコントロールが部分的に効かなくなる事で生じる異常増殖が原因の病気な訳だが、ポーションは限定的にテメロアに変動をもたらさずに細胞分裂を促す事で、人体に高い再生能力をもたらすらしい。
これが一般的に知られている短期的にポーションを使用した場合の効果だ。
今回、妻の暴走でこのポーションを長期的に継続して摂取した場合、その間ヒトの再生力が賦活化される事がわかった。
分かり易く言ってしまえば、継続的にポーションを飲んでいる限り、細胞の再生能力が引き上げられ続ける。すなわち、衰えた新陳代謝が活性化された状態を維持し続け、徐々に若い頃の元気を取り戻すのだ。
正確には、最も細胞の活性がバランスの取れている時期、個人差があるので一概には断言出来ないらしいが、概ね10代後半から20代前半頃の状態を維持する様になり、姿も細胞の活性を追いかける様に若返り、その姿を維持する事ができる様になる。
無制限に若返って赤ん坊の状態に戻る訳では無いらしい。
ただし、ポーションの効果は一時的なものなので、継続的な服用を止めれば効果は無くなり、本来のあるべき姿に戻る。
流石にテメロアを若い頃の状態に戻す事は出来ないそうだ。
だから、50台の人がポーションの継続服用で20台の体を取り戻しても服用を止めると50台の体に戻ってしまうそうだ。
また、一度賦活化して若返った状態になってさえしまえば、その状態を維持するのには、1度に多量のポーションを摂取する必要は無く、また、それほど短いスパンで摂取する必要も無いとの事で比較的楽に維持できるらしい。
ついでに言ってしまえば、一般に材料も製造法の不明とされているポーションだが、最下級の低レベルポーションなら、材料も製法がわかっているし、うちのダンジョンに生えている非動物系魔物の素材を使えば、生産する事も出来るそうだ。
もっとも、今の時点でこれを公表する予定は無い。
正直、うちのスキルとうちクラスの規模のダンジョンで採取できる原材料の量で造れるポーションの量を考えると、物すごくコスパ…生産量/時間のパフォーマンスが悪いのだ。
ぶっちゃけ今の状態だと、1瓶分のポーションを作るのにも、1樽分のポーションを作るのにも同じ時間がかかる。
今の俺のマスターや探索者としてのランク(階位)で、保有している製薬スキルのレベルだと、ポーションの精製に必要な時間はほぼ丸3日、その間継続して魔力を注ぎ続ける必要があるらしい。
妻がそれを出来たのはひとえにアンチエイジングへの執念故だ。
不要となった現在でも続けていられるのは、自分のレベルが多少上がって時短できるのとサロンのメンバーの殆どは、本当の意味で世界的なセレブと呼ばれる様な人達で、今更切れないと言う事情からだろう。
何せ、一度何かの都合で発送したポーションが行方不明となり、到着が遅れた事があったらしいのだが、モノを取りにご当人が緊急来日する事になって、かなり世間を騒がせる事にになったそうだ。
効果維持に必要なのは、原液を1/100程度に希釈した希釈ポーションで、せいぜい1週間に1度1本ほど服用すれば効果を継続できるらしいのだが、一度効果が切れると一気に活性が低下し、低下した活性分本来の老化した姿に戻ってしまうらしい。
そうなると、希望の活性化した状態に戻るには、希釈ポーションでは足りず、原液をそれなりの期間継続して服用する必要が出てくる。
また、希釈ポーションも単に水で希釈すれば良いと言う訳では無く、薬効をある程度維持した状態で希釈するのにそれなりの手間と魔力とスキル、溶剤が必要になるらしい上に、通常のポーションの様に使用期限が長くは無く、せいぜい2か月程しか持たないので、管理に注意が必要らしい。
その為サロンのメンバーは、緊急時用のアンチエイジング原液1本(素人には希釈出来ないので効果を発揮させるために1回に1/10程度の量を服用する必要があるが、それによって2週間程度の賦活効果が期待できる。続けて服用する事で前提で最大10回継続できるので約20週間の維持効果が期待できる。ただし1度でも使ったポーションは使った者との間に魔法的な紐付けが発生するのでその人以外使えなくなるし、開封した事で半年程度の消費期限が生じる。)を確保しておいてもらい、普段使い用には効果維持用の数本の希釈ポーションを古い順で服用する形にで廻す事なったそうだ。
これなら、万一補充用が届かない状態になっても、4~5か月程は効果を維持できる計算だからだ。
最も、マジモンのセレブは、うちの希釈液を使うなんてけち臭い事は言わないで、原液のポーションを使って、ガンガン若作りしているいるらしい。
ただ、そのせいでただでさえ出現率が低く希少価値のあるポーションが、最低レベルの物であっても高騰する原因になった様で。顰蹙を買う事になってしまったらしい。
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