第11話 アンチエイジング

実を言ってしまえば、ダンジョンコアの進化は第5段階どころの話では無く、それだけであれば第10段階以上の段階に達しているらしい。

ただし、圧倒的にダンジョン全体を進化させる為のエネルギーに不足があって、足踏みをしている状態だ。


ついでに言わせてもらえれば、エネルギーさえ許すのであれば、ダンジョン内に生息する魔物の種類ももっと増やせるそうだ。

ダンジョン内に生息できる魔物の種類は、コアのレベルが第1段階で0種、第2段階で1種、第3段階で2種、第4段階で4種、第5段階で7種、第6段階で11種…、以後段階がn-1段階からn段階に1つステップアップする度にn-2種類づつ増やす事が可能だそうだ。

ただし、ダンジョン自体のレベルによって生息できる種類(強さ)に制限がかかる。

要するに、しょぼいダンジョンにはしょぼい魔物しか出現できないのだ、どんなにバリエーションが豊富であったとしても。


現在、うちのダンジョンに生息している魔物の種類は、公式には3種類と言う事になっているが実際には、目立たない様に隠しながら10種類以上が育成されており、まだまだ増やす事は可能だそうだ。

密かに飼育している魔物は、主にポーションなどの魔法薬の材料となる植物系の魔物で、これで何をしているのかと言えば妻のアンチエイジングの研究に使われている。


事の起こりは偶然の事故だった。

妻がダンジョン内で何かの拍子に転んでしまい、そこが産廃の廃棄場だった事から、結構派手に怪我になってしまった。

うちではそんな時の為に低クラスのポーション(魔法薬)を常備しており、当然の事として妻の治療に使用した。

その結果、ポーションの効果で再生した部分に著しいアンチエイジングの効果が表れたのだそうだ。

そうだと言うのは、それを言っているのが妻であって、俺はそんなに劇的な効果があったとは思わなかったからだ。

当然だろう。

何かの拍子で怪我をしたとする。それなりに広い範囲に瘡蓋などが出来たとして、それが治った時に妙につるつるな皮膚が出て来る。

別に普通の事だろう。


俺はそう思ったのだが、妻はそう思わなかった。

そして、幸い?な事に今のうちにはその種の実験を許容できる程度の余裕があり、また、その為に植物系の魔物を飼育する程度の裕もあった。

そもそも植物系の魔物と言うのは、能動的に動ける極一部の例外を魔物を除けば、魔物の食物連鎖の最下位に位置する存在で、ぶっちゃけ、他の魔物に喰われる為にいる様な存在だ。

その中にあって、一部の魔物は自衛や繁殖の為に自身の体内にある種の栄養や薬物・毒物を貯める習性を持っている。所謂、虫媒花等の花蜜であるとか果実の類らしいのだが、余り詳しい話は確認していない。その成分の中にアンチエイジングの効果が期待できるものがあるらしいのだ。

妻はサブマスターになった事でコアとの間で情報のやり取りをする事が出来る様いなっており、直接その辺の話もコアから確認した様だ。

また、サブマスターと言うかマスター系の権能の一つとして、未取得スキルでも初級クラスまでなら使う事が出来る様になっており、製薬スキルを使ってポーションを作る事ができるらしい。

ただし、スキルの常として、熟練度やレベルが低い場合、成功率や効率がお察しらしいく、ポーションなら低レベル・ポーションが限界らしいが。

元々、熟年女としては、子供を産んでいなかった事もあり、若々しい姿をしていたと思うのだが、最近磨きがかかってきている気がする。

…いや、自分をごまかすのはやめよう。明らかに若返ってきている。世間では年齢不詳女性に対して、美魔女なんて言葉が使われているらしいが、そんな感じになりつつある。

ただ、そんな事(研究)なんてしなくとも、マスターになった時点で若返り、と言うか最盛期の肉体に戻ろうとする働きがあったので、特に何もしていない俺でも結構若々しい感じにはなってきていた。

だから、それがどれほどの効果が期待できるものなのかが今一つわからない。

が、それで、妻の気が済むなら好きにさせようと判断して放置ていた。


していたのだが、どうも暴走が始まってしまったのかもしれない。

詳しくは深く立ち入っていないので分からないが、L●m〇と言うSNSを利用して、アンチエイジングの話をするサロン的なものを立ち上げ、情報交換をしているのは知っていた。

最近、それが高じて何かの売買を始めたらしいのだが、大丈夫だろうか…

たしか、厚労省絡みで、薬事法だか薬機法だかと言う法律で、下手に効能を歌うと手が後ろに回る事になると聞いたが…

そうで無くとも、ネット界隈は公取がうるさ…パンピー保護の観点から過剰広告などの精査していると聞いた気がする。


あんまり深入りしないで欲しいな。



いよいよ妻の年齢がわからなくなってきた。

ただの若作りでは済まないレベルだと思う。ともすれば20代に見えなくもない感じになって来ている。

相変わらず、手製の魔法薬を使っているらしいが、もしかして使用を止めると一気に老けるとか副作用があるのだろうか?



妻の暴走が止まらない、既に20第前半からともすれば10代後半位に見えなくもない程に若返りをしている様に見える。ぶっちゃけ出会った頃の妻の姿を見ている様で懐かしいと言う思いもあるのだが、言ってる話はいい歳をしたおばさんの話なので、正直気味が悪い。

もし、常用しなくても問題ないのであれば投与を止めさせ様と思うのだが…

コアと相談してみるよう。



コアに確認した結果、妻が今使っている薬は急に服用をやめると、細胞の活性が正常値に戻るので本来の状態に戻る為、老化が加速した様な錯覚を起こす可能性があるとの事だった。

薬は若返りに近い効果をもたらすが、実際には遺伝子レベルで若返りしている訳ではなく、テロメアの長さなども本来の長さのままらしい。ただし、投与中は細胞の活性が上がり再生力が上がるので、本来細胞が分裂するごとに短くなるはずのテロメアも含めて分裂が起こり、加齢が停止した状態になるらしい。

ただし、あくまでも年齢によって制限される新陳代謝の活性が一時的に上がる事でそう見えるだけだ。

人体の活性のピークは諸説あるが、10代後半から20代前半位の頃にあるとされている。

個人差がある程度見込まれるれる事ではあるが、幾ら魔法薬を服用してもこれ以上の活性化はありえないのでこれ以上の若返りは見込めないそうだ。

うまく服用量を調整する事で見た目年齢を維持したままでの老化の停止効果は期待できるらしいので、その辺を示唆しておくことにした。


それと、マスター・サブマスターに関しては、こんな薬を使わなくとも、魔素の影響?で時間はかかるが疑似的なアンチエイジングの効果が期待できたのだそうだ。

要は、時間はかかるが同程度には若返れるらしい。

なんだかなぁ。


結局、嫁さんに関しては、完全に空騒ぎになってしまった。

SNSで同じグループに参加していた人たちには、効果についての正確な説明を行い、

納得してもらったそうだ。

また、希望者には有償で魔法薬の送付を続ける事になった。


嫁さんには、こういう事をする時にはきちんと確認できる事を確認してからやる様に、と言うお説教をする羽目になってしまった。

叱られて、シュンとした姿がかわいい等と思ったのは内緒だ。

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