第10話 第5段階?
その後何がどうなったのかわからないが、ダンジョン研究者が中心になって、ダンジョンへの土葬を認めさせようとするムーブメント(運動)が世界中で勃発し、世間を大いに騒がせる事になった。
彼ら曰く、人には自身が埋葬される場所を自由に選ぶ権利があり、また、疫病等を引き起こす可能性が考えられるなら兎も角、そうでなければ葬られ方を選ぶ権利があってしかるべきである、との主張であった。
俺に言わせれば、こいつらの要求は、ダンジョンのコア部屋の床に死体を放置して吸収させたいって事なんだから、埋葬じゃなくて野晒しじゃないの?と言う気もするが、もしかしてコア部屋の床を掘って埋める心算なのだろうか?、とても正気の沙汰とも思えないのだが…
どうも前例(最後に吸収する事になった人物)が悪すぎたのかもしれない。
ダンジョン自体は、相変わらず微増を繰り返しており大きな変化はみられないが、確かにあれ以来微妙にコアの態度が生意気になった気がする。あるかどうかは知らないが精神年齢が上がって反抗期に入った為かもしれない。
その上で、確かに氏の知識の一部は継承された様で、最近研究者達からの質問リクエストに妙に専門的な内容が混じる様になってきており、それをコアが妙に的確に答えられているらしいのが実に苛立たしい。
らしいと言うのは、私は専門家ではないのでその答えが正しいかどうかはわからないが、質問者が喜んでいるらしいことは反応でわかるからだ。
お蔭で報酬(投げ銭)額も増えているのだが、何か喜ぶ気になれない、仕事なのできっちりは対応しているが。
そんな感じで時が流れて行ったのだが、結果、話は正気か?と聞きたくなる様な事になった。そう、ダンジョン葬が認められたのだ。しかもこの国に関して言えば、その為にならば死体を海外からでも持ち込む事が比較的簡単にできる様になるそうだ。
明らかに海外で亡くなった学者を荼毘に付さずにダンジョンの葬る為の特例的法整備だ。
以前、国際条約か何かで国をまたいでの死体の移動は、遺骨の状態でなければ非常に手続き面倒だ聞いた気がする。その辺もクリアしたと言う事だろう。
紙一重の向こう側に渡っちまった奴らって怖いな。
つくずくそう思うわ。
等とお気楽に考えていた自分を、今となってはぶん殴ってやりたい。
その後、国内法なんかの整備を含め、ダンジョン葬に関する国際条約?にこの国が批准するのに半年程かかったろうか、遂にそれが出来る日がやって来た。
始めは様子を窺う様にポツリポツリ、と言う感じだった。
うちもこんな話がビジネスとして成立するとは考えていなかったので、特段準備する事無く申し入れがあれが法や規約に基づき、産廃搬入用ゲートを使ってもらう形で対応をしていた。
それがやがて、割とコンスタントに来る様になり、遂にはコア部屋に放置する形での葬うには場所が足りなくなり、出来る葬儀数が頭打ちになったので、断りを入れる事が増えたり、待ってもらう場合の葬儀までの待ち時間がかなり長くかかる様になって行った。
そんな状況でとあるご家族から、コア部屋以外、比較的コア部屋から近い別の部屋で弔いを行いたい旨の申し出があった。
考えてみれば、某氏が自殺を試みたのがコア部屋だったので、葬儀はコア部屋でと考えていたが、別に法的に葬儀をコア部屋で行わなければならない、と言うものはない。
それでは、コア部屋以外で葬儀を行った場合、個人の遺志を酌んだ葬儀がが出来るのか、確認した結果、ご遺族のご同意が得られたので実施したところ、問題ないらしい事が判明した。
そこからは、これをビジネスチャンスと判断した葬儀社の主導でそれ用の設備を整備していく事となった。
要は、産廃用とは別にそれっぽいゲートを設けて、何件かのお別れ式やら儀式やらを並行して出来る様に個室や、遺体が吸収されるまでの間遺体を安置する為の霊安室的な小部屋を設けると言う事になった。
実を言えば、個室や小部屋作りは全く大変じゃない。
コアが何体もの人を吸収した結果、正式には確認していないが、恐らく幾つかの段階をすっ飛ばして能力が上ったのだろう。
その結果、これこれこう言う感じにダンジョンを整備してくれと図面を見せながら説明しておけば、ダンジョン造営用のエネルギーに余裕があれば数日もあれば整備してもらえる様になっていたのだ。
こちらは葬儀社の要望に基づいて部屋を整え、その手数料を頂くだけのお仕事だ。
結果、うちのダンジョンでは、コア部屋を囲む様にメインの通路とは別に蟲程度
しか通れない小さな空気口もどきでコア部屋と繋がった棺収納用の遺体安置室×20と、コア部屋とは逆向きで安置室と繋がっている葬儀用個室5室が葬儀用に整備された通路に繋がっており、(こんな言い方で良いのか知らんが)連日の賑わいを見せている。
コア自体も第4段階の頃は、石像風はと言っても武人天部や明王の様ないかつい雰囲気を漂わせる何かという感じだったが、葬儀関連で多用される事が多いからか、最近では菩薩や如来などの神々しい風格すら漂わせる石像風になっており、明らかに格が上がった感じがする。
産廃などの吸収に関しても、廃棄物に法的に問題がある様な物が混じっていた場合などについてもチェックが出来る様になっており、行政との連携を前提にしたチェックを任せる事が出来る程には能力が上がっていた。
ただし、色々と思うところがあって、公表はしていない。
もっとも、第4段階に上がった後、ダンジョン内で発生する魔物をスライムのみから、ジャイアントモス(妖蚕)と妖木(妖桑)と呼ばれる魔物も発生する様に増やしたていたのだが、最近キノコだの苔だのもはやす様になって来たので、気が付いた者はいたしれない。
ジャイアントモス(妖蚕)と言うのは、蛾の魔物の事で何百種ものバリエーションがある。うちに居るのは妖蚕と呼ばれる、蚕蛾の魔物の類だ。
こいつは、ちょっとした中型犬程もある体を持つ魔物で、コアが召喚した時には鶏の卵程の大きさの卵だったものが、ダンジョン内を漂う魔素などを吸収して成長し、芋虫となり、蛹を経て成虫となった。
成虫となった後単体生殖で卵を産み、そこから幼虫が孵って多数が繁殖し、ダンジョン内を徘徊する様にになっていた。
妖木(妖桑)と言うのは、樹木が魔物化したもので、これも何百種では効かないバリエーションがあるらしい。うちに居るのは妖桑と呼ばれる、桑の木の魔物だ。
基本が木なので俊敏に動くことは出来ないが、魔素とCO2を使ってO2を作る光合成もどきの働きをしたり、魔素を多く含んだ葉や実を茂らして、ダンジョン内の環境を整える働きをするので、酸素呼吸をする動物系の魔物と相性がとてもいいらしい。
魔茸や魔苔は、ぶっちゃけ魔素を多く含んだ茸や苔でこれもかなりの種類があるらしいがよく知らない。基本的な増殖以外の自発的な動きは殆ど見られる事はないが、ダンジョンの内で吸収されるでも無く、時として魔物の餌として喰われている事から、魔物の1種なのだろう。
また、ポーション(魔法薬)の原料として使われる場合があり、採取の対象となる事もあるようだ。
いずれの魔物も碌に戦闘力を持たない最弱、若しくは最弱に近い魔物ばかりで、初心者が戦いに慣れるまでの相手としては、戦闘に勝っても入手できる物もお察しだが、最適と言える魔物ばかりだ。
ただし、ジャイアントモスの幼虫は、動きが遅い魔物の中では、まれに魔絹糸をドロップする事から、見た目(でかくて白い芋虫だ)に反して初心者のアイドルの異名で呼ばれているらしい。
実は、うちはこのジャイアントモスが吐く魔絹の絹糸と、更に魔絹糸の中でもレアな碧絹糸を3本目の収入の柱としており、少し楽なダンジョン経営が出来る様になっていた。
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