第17話 農場エリアへの道程

ある意味想定通りと言うか、何と言ったら良いのかわからないが…、こちらの想定通りにうちのダンジョンの秘密を暴く目的で中堅層と思われる探索者がダンジョンの探索にきて、トラップに引っかかってダンジョンに吸収された様だ。

何故分かったのかと言えば、こちらの想定通り、ここにきてダンジョンのランクが上がった為だ。と言うか、現在も継続して爆上がり中だ。まるでパチンコのフィーバータイムの様に日々ダンジョンの能力とランクが上がって行く。

敵は相応の懸賞をぶら下げたと見て良いだろう。


因みに、同じ農業エリアへの進入路でも、初心者が比較的早い段階で構造トラップに引っかかって脱落する場合、今までの通りS〇S●K◎型対応で池ポチャ&初めからやり直し系の比較的安全なトラップで心を折る構造を維持しながら、一線を超えて侵入した者だけが高殺意エリアで歓迎を受ける構造に変更している。

このエリアまで入って来れた者は、細く曲がりくねったトンネルを通る為に基本的に俺と同じかそれ以下の体格の柔軟な体の持ち主でなければならず、しかも柔軟性の無い鎧などは装備している状態では細いトンネルを通過出来ないのでせいぜい鎧下か平服・肌着か程度しか身に付けておくことが出来ない。

その状態で散々体力を削られた上で、最後の方のトンネルでは、これも妖木由来の低粘度・低摩擦性の樹液まみれになっている床と壁のエリアを通り抜ける必要があり、しかも攻略に失敗して滑り落ちると串刺しや溶解液の沼に浸かる様なトラップが其処彼処に仕組まれていて、生きて戻る事すら困難な構造になっている。

それすらも突破して農業エリアに侵入を果たすと、胞子による永眠トラップ(誘眠効果のある無味無臭の胞子を周囲に放出する妖茸で、胞子を吸い込むと肺を経由して胞子に含まれる疑似ホルモン様物質が脳に到達して、徐々に無気力状態や眠気を促す。)で注意力を奪った上で、木の実による狙撃トラップ(スナバコノキの妖木で、近くを不用意に通り抜けようとすると、その振動で潰れたカボチャの実状の種子が破裂して毒入りの尖った種子を周囲に射出する。)が歓迎の準備を整えて待っており、今の段階でここを超えて製薬エリアまで到達した探索者はいない。


まぁ、簡単に言えば、進入路の狭く曲がりくねったトンネルを抜ける為には、俺と同等以下のシルエットを持つ者がほぼ防具や装備をどこかに置いて潜り抜ける必要があり、途中の滑る樹液トラップなんかを含めて考えると、ほぼほぼ着の身着のままと言うか下手をするとマッパの状態にならざるを得ない。

その状態で眠気を誘って周辺に対する注意力を奪っておいて、狙撃トラップでとどめを刺す算段になっている。

はっきり言って、これを実力でクリアできるレベルの探索者なら、製薬会社がかける程度の懸賞金など、はした金として見向きもしないレベルと言えるだろう。


そんな風に考えていたのだが、どうも見通しが甘かった様だ。


遂に、トラップを抜けて侵入してきた者が出たとコアから知らせが入った。

コアからの画像で確認できる範囲では、俺と比べても小柄で瘦せぎすの体形をしていて、とても運動が得意の様に見えないが、探索者である以上、必要な部分に必要なだけの筋肉はついているのだろう。

それなり以上の俊敏性と反応力・筋力が無ければ進入路を抜け、抹殺エリアを通り抜けて農業エリアにり込む事は出来ないはずなのだ。

体型的に戦士職や騎士職等の前衛職は無理だろう事は一目見れば分かるので、恐らくはスカウト職とか斥候職とか呼ばれる、偵察系特化のサポート職なのだろう。

そうであれば、罠満載の通路を抜けて来れた事も、一応納得できる。


ここがダンジョン内にある空間で以上、攻略を目的にした探索者が到達出来ない構造にする事は出来ない。

ダンジョンがダンジョンである為には、絶対に守らなければならない理が幾つか存在する。正直、何故そんなルールが必要なのか全く理解できないし、そんなルールの理由のも見当もつかないのだが、現実としてそういう制約を無視してダンジョンを構築する事は出来ないのだ。

その中に、『ダンジョンは、自らの中に入り込んだ存在を吸収する事で成長する事が出来るが、その存在が生命を持たない事が必須である。』と言うものがある事が凡そわかっている。

より正確には、『その存在の肉体とそれの持つ精気(エーテルボディ)によって覆われている範囲に含まれる諸々は吸収する事が出来ない。』らしい。

そうで無ければ、装備やドロップ、採取品、採掘品がダンジョンに吸収されない理由が無いからだ。実際に、ある程度以上長期に渡ってダンジョンを探索する者は、体から一定範囲を超えて身に纏えなかった分の採取品をあきらめて放置すると言う。

実際に個人差がある様だが、一定範囲を超えて持ち運んでも、そういう品は放置された品と同様にダンジョンに吸収されてしまうらしい。

だからと言って、マッパでダンジョンをうろつく探索者などいない以上、吸収されない何がしかの線引きがあり、それがエーテルボディの範囲ではないかと考えられているのだ。


そんなルールの中に、『ダンジョン内の探索者が侵入出来ないエリアはダンジョンとして成立せず、構築する事が出来ない。侵入の可否の判断は、そのダンジョンのマスターの体型を基準とする。』と言うものがある。

要は、マスターがその場所を通る事が出来ればダンジョンとして成立するので色々仕込む事が出来るが、通る事が出来なければダンジョンとして成立しないので作り込む事が出来ないのだ。当然、アンチエイジング用の各種素材を栽培する場を農業エリアとして成立させる為には、ダンジョンとして成立している事が大前提となるので、最低でもマスターと同等の体型の人間が入る事が出来る可能性のある構造にする事が前提となる。

その結果、遂に入り込む事が出来た探索者が誕生した訳だ。


彼は、いきなり魔物達の殺戮に走る様な事をせず、入り込んだ農業エリアの中を見回している様だ。

まぁ、製薬会社などから頼まれて調べに来たのであれば、いきなり農業エリアを荒らすと言う事はありえないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る