第7話 第4段階ダンジョン①
うちのダンジョンが3回目の急成長をして3年が過ぎようとしていた。
その間、ダンジョンは順調に成長を続け、長さは総延長で400mを超え、部屋も7部屋を数える様になっていた。
ダンジョン運営の基本方針として、周辺の魔素と産廃、食品廃棄物の受け入れで得られるエネルギーを基本に、発生させる魔物も殺意低めのものに抑え、ポップさせる資源や宝物も程ほどにする事でバランスを取って、リスク低めで殺意の殆ど無いダンジョンとして、初心者のチュートリアルダンジョン等と呼ばれる様になっていた。
ただし、魔物と戦うと言う事は負ける可能性を負ってもらうと言う事で、100%安全とは言えない。また、時として無謀な突進をする人物もいるもので、実際にそういう人物がいたおかげでうちのダンジョンも第4段階に達する事が出来た以上、無理に逃がす様な事まではしていない。
そう言う自殺志望の無謀な突進者はどうやっても避けられない訳で、入口に入場時の注意事項として掲載している以上、仕方が無い事だと割り切っている。
加えて最近研究者達等の間で、死後の埋葬地として注目を浴びる様になっていた。
これはどういう事かと言うと、うちのダンジョンが第4段階に達した時の事情に起因する。
今も余裕綽々で運営出来ているとは口が裂けても言える経営状態ではないので実施しているが、当時は本当に金銭的に厳しい状況にあって、少しでも運営費の足しになればとインセンティブや投げ銭目当てでコア等の状況をストリーミングでダンジョン研究者達にリアルタイム配信していた。
そんな状況で1年半程立った頃、コアから暫くダンジョンに立ち入らない様に警告を受け、立ち入りを制限した上で状況の推移を見守る事になった。
結果、ダンジョンが第4段階の成長をして驚かされる事になったのだが、研究者達からのリクエストに基づいて事情聴取を行ったの結果判明した事は、ダンジョンの成長には幾つかの重要なステップがあって、成長にはある程度以上の知性を有する存在を吸収する必要があるとの事だった。
うちは、運営開始時点から低リスク低リターンを旨にダンジョンの運営していたので、ダンジョン内で人が死ぬ様な事は無く、中々その条件(最低でも類人猿クラスの知性体を吸収しておく必要があったらしい)をクリアする事ができなかった為、ダンジョンが成長する事が出来なかった様なのだが、偶々その時、ほぼほぼ自殺志願者としか考えられない様な無謀な行為をする冒険者を吸収する事になり、その問題をクリアする事が出来たとの事だった。
その結果、ダンジョン並びにコアの能力に格段の成長がみられ、スムーズなコミュニケーションが取れる様になった。
成長前はせいぜい2~3歳児程度の語彙と知能しかなかったコアが、推定で15~16才程度の知性を有する様になったのだから、大幅な成長と言って良いだろう。
因みに、うちのコアの3回目の進化だったので便宜的に第4段階と呼んでいるが、能力の上昇値が大きかった事から、もしかすると第5段階、第6段階に相当するステップアップが同時におきた可能性も否定できない。
これによって、コアが吸収した冒険者の知識や知能をある程度得る事が出来る事が判明した。
始めは純粋にこの事実を知る事が出来た事を喜んでいたダンジョン研究者達だったが、やがて一つの疑問い行き当る事になる。すなわち、ダンジョンはどこまで知性を向上させる事が出来るのか、である。
この時を皮切りに幾多の議論が世界中で重ねられていく事になったが、何分、研究者たちと言葉を交わせる程友好的なダンジョンと言うものは殆どいない。
有ったとしても研究者にそこまで協力的なマスターと言うのも殆どいない。
マスター業と言うのは文字通り業であって、ボランティアでは無いのだ。
つまるところコスパが悪い仕事にはあまりかかわりにならない。
更に実験を行う為には何某かの死体をダンジョンに吸収させる事が出来なければならないが、死体の処理に関しては国や地方によって取り扱いが相違しており、総じて死体をダンジョンに遺棄する事を認める規定があるところは無い。
これらの事実が、完全に議論を行き詰まらせていた。
ここでマクヌート・ジダンと言う人物が登場する。
この人は、長年にわたってダンジョンの研究を続けて来た事で世界的に有名な人物であり、自身も国際免許を取得して世界中飛び回りつつ冒険者としてもやって来た人物でもある。
この時既に老境に達し第一線を退いて悠々自適な生活を送っていたはずだったのだが、ここへ来て死病に侵されている事が発覚した。この病気は早期に治療始めれば決して治らない様な病では無いのだが、発覚が遅かった事もあり既に手遅れの状態となっていた。
第一線は退いたとは言え、研究者として世界で交わされている議論の大筋位は把握していたし、若手から助言を求められる事も多々ある。そんな人物が、既に余命幾ばくも無いと言うその病身を押して来日を果たし、寄りにもよってうちのダンジョンを訪ねて来たのだ。
その日の朝、うちではその後で起きる大騒ぎを予兆させる様な事は無く、何時もの様にまったりと時間が過ぎていた。
何せ通称が初心者用チュートリアルダンジョンである。
余程の事が無ければ騒ぎなど起きようがない。
何時もの様に経験を積みに来たニュービー(新人)達と挨拶を交わし、産廃や食品廃棄物の搬入に立ち会う、そんな穏やかながらも忙しい日常の中、やってきましたよ騒ぎのタネが。
いや、別に当人が騒がしかった訳ではない。
まぁ、彼も研究者であり、知識の源泉とまでは言えないまでも、新しい知識を与えてくれる可能性のある存在が居るのだ、心が騒がなければ嘘だろうし、それ故に全く騒がしくなかったと言えば嘘になる。
自分の研究課題について、幾つか件でコアの見解を糺されたが、世界的に知られている程の大物としては、十分に穏やかな人物の様に思えた。
ただ、周りにいるマスコミが何かと騒がしい。
曰く、ジタン氏から金をとる心算か、だの
曰く、取材なんだから無条件で俺たちも入れろ、だの
ジダン氏が偉いからって、一緒にいる思えらが偉くなるじゃないだろう。
「何か勘違いでもされてるんですかねぇ?」と言いたくなる様な事をまぁ言うわ言うわ…
法律って物があるんだから、それに従って手続きを取ってもらわないと、色々不味いんだよと言っても聞きゃあしない。
仕方がないのでこっちで関係各所に連絡を取って確認してやれば、それが当たり前だって顔して踏ん反り反ってくさる。
散々すったもんだした上げくに漸く入って行ってくれて、こっちとしてはやっと一息付けたと思っていたら、今度は、ジダン氏がやらかしてくれた。
ダンジョンの最奥、コア部屋のコアの前まで行って、コアに攻撃?
…いやこの場合、自殺と言うべきなのか?!
しかもご丁寧に遺書やら何やらをマスコミや研究者仲間に渡していてくださった上での行いだ。
後に遺書の内容と、ストリーミングの動画を確認して検証した結果、かなり計画的な行動だったと言うか綿密に計画されて実施された、推論の実証実験を兼ねたパフォーマンスだったと言う事が確認され、合わせてうちは過失は無く完全に被害者だったという事が証明された。
奴がこの行為を行う事でやりたかった事は、
・人生の終りを他者の世話になるのでは無く、自分の手で終わらせる。
・ダンジョンコアが知性体を吸収する事でその知識や知性を増やせる事がどの程度可能なのかの検証する。
・人生のお終いを自分の好きなダンジョンで演出する。
・うちへの迷惑料として、それなりの額の支払い(寄付)を行う。
等々だ。
実に迷惑な話である。
特に最後の下りのせいで、完全にうちは仲間…一味扱いの嫌疑をかけられてしまった。
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少しストックが溜まってきましたので、暫くの間更新ペースを上げさせていただきます。設定ミス笑笑)ではありませんので、ご了承ください。
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