第5話 ターニングポイント
そんなある意味穏やかな日常に、遂に変化が訪れる日がやって来た。
そう、過去に二回程あった、ダンジョンの成長が生じたのだ。
前回の成長から約2年ほどの時間が経過していた。
その間、ダンジョンはより広く長くなり、長さだけは約200m近くまで延びていた。
コアも更に大きくなって、全長が1.5m近い謎の石像風のオブジェっぽいものになっていた。
実は、この数日前からダンジョンの産廃類の喰いが悪くなっており、ダンジョンからのメッセージとして『居る 危険 出る』と言った感じの立ち入りを控える事を要望する意思の発露が行われていた。
ダンジョンからのメッセージは相変わらず明確な言葉では無く、イメージの投影に近いものなので意訳が必要なのだが、俺が受け取ったイメージを分かる様にすると『今、ダンジョン内に立ち入るのは危険なので入らないでくれ。』
だろうか。
一応、ダンジョンの意思を尊重して、産廃等の搬入も止めて、立ち入りも原則禁止にしてた。
そんな状態で数日経ったある日、ダンジョンから大分明確なメッセージ届く様になった。
今回の異変が終了した、と言うか成長が終了した様だ。
誘われるままにダンジョン内に入り込むと、通路とコア部屋だけだったダンジョンに分岐が生じて、コア部屋以外にも幾つかの部屋が生じていた。
コアも高さ1mほどの石仏風の何かから、1.5mほどの仁王像風の何か(未だにディテールがはっきりしない。)になっていた。
その後のコアとの会話?…念話?で分かったのだが、ダンジョン自体にせよ、コアにせよ、成長は吸収した何某かの影響が大きいのだそうだ。
特に知能の成長には、マスターの影響もあるが、ある程度以上の知性を有する何某かを吸収する必要があるのだそうな。
よくよく詳しく聞いていくと、最初の成長の時には、迷い込んできた鼠(ドブネズミ)を吸収した結果だそうだ。
2回目の成長は食品廃棄物に含まれていた食用動物達がネタで、今回の成長は冒険者を吸収出来た事が大きな要因となったそうだ。
基本、うちのダンジョンは、人は喰わないと言う俺の意向で、スライムも人を襲わない。ただし、自衛のための行為は認めている、と言うか本能に根差す行為なので止められない。
大抵の冒険者は、スライムに逃げられて、他に魔物がいない事を知れば、終いに不満を吐き出して行くにせよそれで終わりであるが、今回の冒険者はそれであきらめなかったらしい。
何度もスライムに逃げられ、武器や防具を壊された挙句に、あきらめず、八つ当たり気味にコアの破壊を試み様としたそうだ。
その結果、何度も入口に飛ばされる事になったのだが、それを何度も繰り返し、とうとうコアの防衛用の魔力が枯渇した。
そのタイミングで、コア部屋に侵入しコアを破壊しようとした事から、スライムに襲われ、とどめをさされる事になったのだそうだ。
正直、同情する気にすらなれない話である。
そのおかげで再成長する準備が整い成長に至ったと言うのが、今回の顛末との事だった。
早速、その辺の経緯をWebに掲載して、判明した情報も載せる事にした。
吸収された冒険者については、ゲートに情報が残っているはずなので、役所に連絡して然るべき手続きを取ってもらう。
ゲートに関しては、基本管理者も触れない事になっており、実際触る事が無い部分なので、管理者用マニュアルに記載されている内容に基づく対応しかできない。
そもそも冒険者の生き死にはダンジョンに入る者にとっての最初の同意事項になるので、暴走した挙句に死んだとしてもでも問題無い。
後日の話だが、今回の成長で大分語彙も増え、意思の疎通も出来る様になったので、研究者たちからのインタビューのリクエストが凄い事になってしまった。
何分、今までが今までなので、主たる職業は別にある副業ダンマスの俺は、空き時間を使って対応をする様にしてはいるが、ひっきり無しの要望に応える為には、暫く寝不足と戦う日々が続きそうだ。
もっとも、おかげでインセンティブも投げ銭も連日最高額を更新している。
(まぁ地味ダンジョン故に、額としては大した額ではないが…)
ただし、死者に鞭打つ様な話になってしまって申し訳ないが、今回吸収された冒険者はあまりクレーバーなタイプではなかった様で、少しややこしい話になるとコアの回答があやふやになってしまい、質問の中身を分かり易く整理する等の聊か面倒な手間が必要になっている。
今回の成長で分かった事は、
・コアは、未成熟な状態でマスターを持つ程、マスターの性向の影響を受ける。
・普通、ダンジョンは誕生からある程度成長するまで人が出入り出来る様な入り口を公開しない。また、その間にある程度自我が固定される事になる。
・ダンジョンは、魔素が溜まり易い場所に発生する事が多い。この場所を魔素溜まりと呼ぶ。
・魔素溜まりは、人が多数いる場所に出来る事はめったに無い。
・マスターとなるものは生き物であれば何でもいいので、虫系のマスターや4足動物系のマスターなどあまり思考力が高く無く、本能に根ざした思考しか出来ないマスターも多い。また、その影響で本能的な動きしかしないダンジョンも多い。
実を言えば、ダンジョンがある程度育つまで、入り口を開放しないのは、このマスターの影響を遮断する為の本能的な働きの様だ。
ただしダンジョン自体が生きて成長していく為には魔素の吸収が不可欠で、魔素を吸収する為には入り口をある程度以上の広さで開放しておく必要がある。
その為あまり他の生命体が入り込まない地中等に入り口を設定する事が多く、そのせいで虫や蛇、小型の地中生の4足動物などに入り込まれる事ある。
その影響で本能的に殺意の高い(食欲優先)のダンジョンになってしまう事が多いのだそうだ。
因みに、マスターになった生き物は寿命が延びる(コアによって延命される)が、元々小型生物はセミの幼虫などの例外を除き短寿命で思考力が低い物が多いので、生存本能などの影響などで殺意多めのダンジョンになる以外での影響はあまりないらしい。
うちのダンジョンは、生まれて直ぐに俺と言うマスターが出来て、餌も十分に与えられていたので、ダンジョンとしてはものすごく穏やかな性質を持っているし、生き餌が与えられる事はほぼなかった上に、日本の外食産業の状況を考えれば、養殖系の生き物が廃棄物の大半を占めるので、生存競争にさらされてきた生き物の脳部分の廃棄物が与えられる可能性は魚とかジビエとかの廃棄物位に限定される。そもそも性格への影響はマスターの性質による部分が最も大きいそうなので、影響は極めて限定的だと判断して良いだろう。
コアの話を聞く限りでは、この段階になれば、ある程度魔物を召喚したり、資源や宝物を出現させる事が出来る様になるらしい。
ただし、コアのレベルが低いので召喚出来る魔物や出現させる事の出来る資源や宝物はお察しレベルのものになるらしいが…
やっと、真面な意味でのダンジョン経営が出来る様になるのか、一安心だな。
その後も、研究者達からの質問などを交え、何のかのと聴き取りを行っていくのだった。
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