第3話 ダンジョンの成長
そんな感じである意味まったりと、ある意味頭の痛いダンジョンと過ごす事になった訳だが、半年ほど過ぎたある日ダンジョンから連絡?が届く様になった。
連絡と言ったが、これは何らかの音や電波などによるものでは無く、テレパシー的な何かによるものだった。
そして、ダンジョンコアの形が変わった、と言うか育った。
出会った当時からずっと崩れかけた石仏と言うか道端にある形の崩れたお地蔵様や道祖神的な感じのもので大きさも50~60cm程しかなく、特に動く様子もなかったのだが、産廃を吸収する様になってから少しづつ大きさが大きくなっており、全体として一回り程大きくなっていた事には気が付いていた。
ただ、それ以上何かが起きる訳でも無かった事から特に気にすることなく、ストリーミングの視聴者(主に研究者)へのサービスとして、定期的に大きさの測定などを行っては、Web上で公開していた程度だった。
それがこの日を境に少し形が整ったもの(と言っても、少し壊れ方がマシな石仏的なもの)に変わり、何某かの有意の情報を伝える様になったのだ。
もっとも、有意の情報と言っても、「もっと(産廃を) 食べたい」であるとか「(おなかがあるかどうかは兎も角として)満腹」であるとか、「食べもの 無い」であるとか、そういう生存欲の発露的で断片的な情報を1~2wordくらいで発する程度であったが、何かが伝わってくるようになったのは確かだった。
当然、その情報もネットで確認できる様にアップする様にしたのだが、何分研究者の固定層を相手にしたドマイナーな発信等に特に大きな反響が起きる訳も無く、地味に産廃の吸収速度が少し早くなったので、契約した産廃業者がかなりの頻度で来るようになって周辺住民との軋轢を気にする必要性は出てきたのが変化と言えば変化だった。
こんな感じで比較的穏やかに日常は過ぎて行くのだった。
そして、ダンジョンマスターとなって1年半が過ぎた頃、またもダンジョンに変化が訪れた。
実はダンジョン自体も、コアの変化に合わせて、少しづつ長く大きくなっていく傾向にあり、そのおかげで産廃の運び込みがしやすくなっており、処理(吸収)速度も徐々に上がっていたのだが、この日生じた変化は、コアの更なる変形とコア部屋の生成と言う形で現れた。
その日までダンジョンは徐々に長さを伸ばしており、概ね100m程の長さになっていた。概ねと言うのは、どこを起点に図れば良いのかわらないのと、コア自体があまり複雑な事を理解できない為、基準点を恒常的に設置する事が出来ないからだ。
コア自体は入口から凡そ100mほどの長さの洞窟の行き止まりにある朽ちかけたお地蔵様と言う風情で存在していたのだが、コアの手前数mほどの所に洞窟のくびれの様なものが生じ、手前と分ける様な構造を形作っていた。
既存のダンジョンにある構造と比較して、コア部屋が派生したと判断した。
まぁ、部屋といっても扉がある訳では無く、壁に見えなくもない様な出っ張りでくびれを作り、手前と後ろの仕切りが出来たとしか言い様がない訳だが、それまで入口部分で斜めに下る以外の変化が殆どなかったダンジョンに変化が現れたと言う事で、ストリーリングを閲覧していた研究者勢は大喜びをしていた。
そしてコア自体も、壊れたお地蔵様のモノから、子供が粘土細工で造った何かの像的なモノに進化を遂げていた。まぁ、進化と言って良いか退化と言って良いか良くわからない変化であるが、何かの像的なモノを感じさせる造詣で、神像であるとか仏像であるとか、はっきりわかるものではないのだが、形状的に何かのポージングをしていそうである風に見えなくもないものになっていた。おかげで単に大きさを図るだけでは無く、画像を撮るアングルのリクエストなどもそれなりに出てきて、ちょっとした投げ銭でお小遣い程度の稼ぎが出来る様になった。
まぁ、一時的なものだろう。
そして、コアが発する情報もかなりはっきりしたものになりつつあった。
それが、「もっと 欲しい」「満腹」「食べもの 無い」から「鉄 食べたい。」「油 食べたい。」と言う名詞が付く様になった程度の変化であって、語彙も少ない上に名詞と言っても明確に何かを意味するのでは無く、鉄=金属系の固形物程度の曖昧なものでしかない。
また同時に、ダンジョン内に魔物(スライム)が湧く様になっていた。
スライムと言っても、某国民的人気RPGに出てくる様な最弱のマスコット的なモンスターの類ではない。ダンジョン内環境のメンテ係と言うか、ダンジョンが比較的吸収するのが苦手な(吸収に時間がかかる)金属廃棄物の類を軟質化させ吸収を助ける役割を持つ酵素だか乳酸菌的な役割を果たすゲル状の魔物だ。
俺の方針と言うか、好みの問題でこのダンジョンは自主的に人間を食物としてターゲットにする事は殆ど無い。だがそうすると、ダンジョンが喰うものが無くて(魔素があるので飢える事は無い)成長に差し障りが出てしまう。その対策として産廃や飲食店や食品工場等から出る廃棄食品等の処分を業者から安く引き受ける形で請け負い、餌として与えている。
業者にすれば、頭の痛い産廃や食品廃棄物の処分を安くする事が出来るし、うちにすればダンジョンの餌を手に入れる事が出来る上にお金迄手に入れる事が出来てその収入を周辺の生活インフラの整備に使う事で周辺住民との軋轢を防ぐ事が出来る、周辺住民にすると自己負担なしで生活インフラが整備されて行くと言う三方良しのwin=win=winな関係となっているのだが、食品廃棄物などの有機物や、プラスチック類などは良いのだが、金属ゴミの吸収は得意では無い様で、若干時間がかかっていたのだ。
一応、時間がかかる事を踏まえて出入り業者の選定や搬入量の調整を行っていたのだが、中々に質の悪い業者と言う者はいる様で、契約外の搬入や契約外の量の搬入で処理量を大きく上回ってしまう事もあり、頭を痛める事もしばしだったのだが、こいつらのお蔭で、かなり余裕をもって処理を請け負う事が出来る様になっていた。
因みにこのスライムの体は、殻と言うにはやや柔らかい外質(細胞膜)に覆われていて、偽足(仮足)を体の前に出してそれに引きずられる様にして移動する。体内は恐らく酸性よりの内質や核、食胞、ミトコンドリア、収縮胞や種々の線状や顆粒状の組織を含んでおり常に流動し蠢いている。
この様な生命体でも、ダンジョン内に金属類があれば取り付き、体液をにじませ、金属をダンジョンが吸収しやすい状態にする役割を果たしている様で、同時に同じ体液で有機物を分解吸収してエネルギー源としている様だ。
動き自体はかなりのんびりしているので、よほど油断でもしない限り捕捉される事はありえなさそうだが、かなり細い隙間でも体を流し込む事で入ることができる様なので、天性のサイレントキラーなのかもしれない。
必ず何体かがコア部屋にいてコア付近を徘徊している事から、コアの防衛も担っているのだろう。
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次話から3日更新の予定です。
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