第15話 奪う時間

僕は「よいしょ。」右手を上げる。白い世界が壊れる。いつもの2年4組のクラスではなく3年4組になった教室が現れる。生徒の一年分の時間を回収してしまったからだ。生徒は止まったままだった。オレンジが言う。「ねえ、ケイ、さっきの時間戻せない?せっかくテスト勉強してきたのにちょっとチャレンジしたかったなあー」A18が「オレンジ馬鹿ない?私達は時間回収に来たのよ。なんで返すの?」僕の冷たいブルーの目が光った。「奪った時間は戻せない。回収のみだ。宇宙の秩序の元、アトリナのために。戻せない。」更に小声で「時間は一方向のみだ。」ヌコがうなずいた。「時間は一方向のみ。そうだ。」かぶせるようにA18が「その通り。早く回収し帰還しましょう。」アルクが僕に「ケイ、時間が止まったままだと回収に都合が悪い。地球人が動かないと時間が動かない。早く時間を動かしてくれ。」「了解。」そして僕は両手を広げ天井へ一瞬大きな光が・・・すべてが動き出した。生徒たちは何事もなかったように動き出した。ただし1年の時間を奪われたことにだれも気づくものはいなかった。菊、カイトは3年1組。アルク、A18、リサ、ケイは3年4組にそして空は2年1組になっていた。時間回収がはじまった。クラスメート1人ずつ時間を抜いてゆく。そしてだれも気付かないまま1人、また1人と消えてゆく。はじめからいなかったように。リサは地球人だ。時間を回収する能力は無く、ただ日々を過ごすだけだった。その代わりにヌコのお世話をしている。なんとなくうれしそうに見える。僕はいけないと思いながら能力をつかってリサの心を読んだ。”怖くもない。前と何もかわらない。はじめから無いのだから。時間は過ぎてゆく、失われるのみ。いくら昨日にもどりたいと願いっても昨日は来ない。明日は来るけど。でももうすぐ、明日さえも来なくなる。けどなぜか落ち着いている。私の感覚が狂っているのか?違う。私は正常だ。きっと大きな危険も大変なことも目の前の、目の前まで来ないと、きっと人はわからない。私は正常だ。”オレンジたちは毎日、回収任務でかなり疲れているようだ。ただ相変わらずが、見た目はただの女子だ。きゃーきゃー”騒いでいる。僕の頭の上部が動いた。”監視対象”僕はリサに「リサ、どうだい?消えて行く生徒たちを見て。」「別にこれが現実でしょう。それだけの事。ケイくん、なぜ私を気遣うの?私のこと好きなの?」僕は全身からブルーの光を放った。冷気が僕の瞳を覆い「二度と言うな。お前を消す。」リサがすぐさま「ごめんなさい。ちょっとからかってみたかの。まあ、状況からみて・・・いいや。じゃ。」そういって女子達に紛れた。グーにした僕の右手から白い光が漏れ出した。僕のバグが動いた。”儚い”にしか反応しないはずのバグが。バグが壊れる前にこの回収任務と並行して僕には確認しなくてはいけないことがあった。この地球に居ついたアトリナ人について。なぜ彼らは地球から帰還できなかったのか。なぜ母だけが帰還出来たのか。理由を。

手のひらの星。明日僕は京都に飛ぶ。

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