第4話 なぜ僕

「ねえ、お姉さん。僕の前を歩いているあの影、もしかして僕?」僕は分かっていた。あれは僕だ。間違いなく僕だ。「あらあら、ケイさん、見えたのね。はーい、よく出来ました。あの影はケイさんです。でも一つ間違いがあります。影ではなくて、本物のケイさんですよ。時空が違いますがね。ケイさん案外負けず嫌いですね。いけませんよ。事実を認めましょうね。」お姉さんはかなりの上から目線で僕を見下ろした。悔しいが、あの影が僕自身だと僕も分かっていた。ただ同じ空間に同一人物は存在できないと思っていた。どちらかが消えるとか都市伝説で言われている。と頭の中で思っていると。「そうね、ケイさん」と僕の頭の中にお姉さんが入って来た。「私達は同じ民。意志伝達は脳内でも人間的に言葉、口から耳への聴覚でも大丈夫。どちらも適応できるのよ。」「はーあ。」僕は諦めに近いため息をついた。これも小さい時から時々起こる現象だった。雑然としてた人混みの中や電車の中、たまに学校でも頭の脳内で話せる時があった。右か左か道に迷う時も携帯でググるよりも早く「左だよ」と答えが頭に響き。僕も当たり前のように「ありがとう」と頭の中で答えた。ただその時、会話、頭の中での交信相手は近くにいるのになぜか顔を識別できない。学校の中でも交信相手の顔は分からず、今のこのお姉さんと同じ感覚だ。「ケイさん、今のは違いますよ。私達に感覚はないです。すべてデーターで回答がでます。情報処理は宇宙の中でも私達はトップクラスです。私達は時間売買を生業とする気高き民。アトリナ。この地球で例えるならそう神。神様よ。」「アトリナ?」あまり聞きなれない言葉だが、そういえば母さんがギリシャにある島でとてもきれいな島があって以前いたとか行かないとか言っていた島?地名?なんとなく記憶にある言葉だ。「ケイさんのお母さん、アイさんからアトリナの言葉が...ね。ねえ、ケイさん、ほかに何か思い出すことはない?名前のこと何か言っていなかった?そういえばその時「私の名前ホントは逆さまなの。」って変なこと言ってたような。「アイ。イア。」

「お父さんは?何か名前で気になることはない?」「父さん?タロウ。父さんはタだけで。」僕は会話に飽きてきた。頭が熱くなってきた。水、水、喉がカラカラだ。久しぶりにこんなに喉が渇く。「ところであの僕とこの僕、時間操作で同時空間にいて大丈夫なんですか?」「大丈夫に決まっているわ。だってよく見てて。」前方の僕が足から光の霧に包まれ消えていった。「これでわかったでしょう、この空間もあの空間も操作しているのは私達。個別操作もできるのよ。今みたいにね。まるで玉ねぎの千切りみたいに時間は縦に切れる。」「で、お姉さん、ほんとは誰?なぜ僕を、呼ぶの?」

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