ミチのタネ
学校に行く途中、アスファルトの上に、鳥の落とし物か、近くのごみ集積場から落ちたのか、種が落ちていた。
リンゴの種みたいな色と形をしているの。
でも、わたしはそれ以上、気にしなかった。
ただ、ゴミが落ちているだけなのだから。
ある日、アスファルトの割れ目に、双葉が出ているのに気づいた。わたしの小指の先程しかない。
ふと思うのはあの時のタネかなということ。土があるところに移動していって芽が出たのかな。
そんな面白い話はないだろうけど、そう思うと、楽しかった。
双葉が踏まれたら可哀相。でも、道の端っこだから余程でない限り踏まれることはないかもしれない。
学校に行く途中だから、足は止めずに考えた。そして、満員電車に乗ったころには忘れた。
梅雨が来た。この年の梅雨は梅雨らしい梅雨だという。
しとしと、しとしと……雨は続く。
アスファルトの隙間にちょっと立派な茎が見えた。
以前見た双葉?
わたしが毎日、気づかなかったとしても、少しずつ、少しずつ、成長をしていたんだ。
アスファルトの下でどのように根を張っているのかと疑問を持つ。その疑問の答えは出ないけれど、街路樹の根っ子が道に向かって伸びたとき、凸凹になっているところがあることから想像はできる。
この小さなものも、成長するとそうなるのかな。
雨が降って鬱陶しいけど、少し心の中がふわっと温かくなった。急いで学校に向かう。
熱い夏が来た。
それに加えて、台風が来た。
風と雨が強くなるため、わたしは慌てて家に帰る。
下を見て、傘を抑え必死に歩く。
こんな時に歩き回る生き物は人間くらいだと何かで聞いた。本当にそうだって納得する。鳥は飛んでいないけど、ここにいるわたし。
下を見て歩く視界に、風になびいているあの木があった。
それどころか、それの周りには囲いがあった。かなりしっかりしたつくりで、風でもびくともしない囲いだった。
覆いに誰かが躓いたら危ないかも?
と、ふと思った。
でも、あんなにしっかりした囲い出来る人、すごく器用なんだね。
誰かもあの種に注目していたんだね。
わたしだけ知っている物ではなく残念だけど、誰かがその植物を守ろうとしてくれていることが嬉しかった。
わたしは何もせず、見ているだけ。
台風一過、囲いは消えていた。風で飛んでいってしまったのかな。
囲いを作った心優しい人は、そこらへんもわきまえているだろう。だから、片付けられたのだ。
その植物は、太陽の光を受け煌めいていた。
わたしは笑みで手をパンとたたいた。なんとなく拝んだり、なんとなく囲いを作った人へのお礼。
秋になるとその植物は葉を落とす。落葉樹なので当たり前とはいえ、お別れのような気がしていた。
芽が出て、花が咲いて、散って終わり。
でも、ここに生えているのは花が咲いか疑問だね。なら、しばらくここにいるのかな?
冬が来て、春が来た。
忘れていたけど、その植物は新芽を出して、アピールしてた。いや、勝手にわたしがアピールしていると思うだけだよね。
植物は気にしていないだろう。危害を加えられるという事がない限り。
徐々に植物は大きくなる。その成長は明確じゃないけど、なんとなく見える。
その植物の前に足を止める背広を着た男性がいた。
別の日、小さな子を連れた女性がそれを見ていた。
ふと気づいたら、人がその近くにいる。
見ている人の誰かがあの台風の日の覆いを作ったのかな?
声をかけることもないけれども、わたしのような人がたくさんいると気づいた。
アスファルトの隙間に生えたその木が、何の木かわかるのはしばらく先だよね。
その前に、切られてしまうのか、誰かが保護して移植されるのか。
わたしは心配と期待を持つとともに、何かできることをしたいと考え始めていた。
あの、覆いを作った人のように。
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