四つの心の物語
小道けいな
パンとレシピ
貴族の少年ブレは菓子やパンが好きでした。
「いつでもたくさん食べたいけれど、いい子でいるためには仕方がないよね」
菓子ばかり食べていては、父親みたいな立派な領主になれません。この国では、王様に代わって地域によっては貴族の領主が治めているのです。
領主によっては好き勝手して住んでいる人たちをないがしろにする人もいますが、ブレの父親は立派な領主です。住んでいる人たちのことを考え、治水をしたり、道をきれいにしたりと仕事をしていました。
ブレはそのような父親を尊敬していたので、大きくなったら立派な領主になりたいと考えていました。
ブレは食べるだけでなく、菓子やパンの作り方を料理長や村の人に聞いたりしました。いつか作ってみたいと思いましたが、貴族のブレに作る機会はありませんでした。
そんなある日、悪い領主に頭に来た、民衆が革命を起こしました。ブレたちにとってはびっくりする出来事です。村の人たちの多くはブレたちを守ろうとしましたが、悪い領主たちと一緒くたにされて、貴族は貴族でいられなくなりました。
国王や貴族たちが殺されたり、国を出ていくことになったのです。
国の上に立つ人たちが変わったのです。
ブレたちをかばっていた村の人たちはこう言いました。
「あなたたちに恨みはない。でも、もし、従わなかったらひどい目に合うかもしれない。」
村人は革命を起こした人たちを恐れていました。領主だったブレの父も話を聞いているので、村人の気持ちはよくわかりました。
「貴族のあなたはではなくなるなら、森の奥の家に住んでいい……とみんなで決めたんだ」
村人たちは不安そうでしたが、決めたことを言いました。
「仕方がないことだ。君たちが私たちによくしてくれたのだから、迷惑はこれ以上掛けられない」
領主は静かに言いました。村人たちはその領主の姿に涙をこぼしました。
ブレたちは屋敷を出ていく時、使用人たちには暇を出しました。できるだけお金や、お金になるような装飾品を渡し、これまでのお礼を言いました。
ブレは菓子やパンのレシピは持っていきました。
森の家は小さく、屋敷のブレの部屋よりも狭いのです。
「お母様、おなかが空きました」
ブレの妹オルジェが泣きそうな顔で言いました。でも、料理を作ったことのない母親は困るだけです。元領主もできません。
ブレも知りませんが、持ってきたレシピがあります。
「お父様、小麦粉は手に入りますか?」
「入るけれども、お金は限られた分しかないよ」
「それで構いません。私に考えがあります」
ブレは小麦粉からクッキーを作ることにしました。ただ、竈の使い方が分からず、真っ黒こげにしてしまいました。
失敗しても次頑張ればいいのですが、材料も、燃料も限りがあります。そのため、失敗しすぎると困ることになると気づき、村に行きました。
「できたお菓子をあげるから、竈の使い方を教えてくれませんか」
ブレは頼みました。
頼まれた村人は簡単だと教えてくれました。
ブレはパンを焼きました。さらに、パンと引き換えに、料理の作り方を教わってきました。
一つのレシピにつき、一山のパンをあげました。そのパンを食べた村人は、ブレのパン焼きの技術に感心しました。
また、パンでなくクッキーを焼く日もありました。
ブレのパンやクッキーは美味しいと評判になっていたので、料理を教えたいという村人はたくさんいました。また、料理を教えると共に、その材料だって提供します。
ブレは料理を覚え、家族と共におなかも心も満たされていきました。
ある日、料理もほぼ聞き終わったので、パンを配る必要がなくなりました。
そうなると、楽しみにしていた村人は寂しくなります。
「ブレ様の作るパンはおいしいのに、もうもらえないなんて」
「クッキーもおいしかったんですよ。作り方を聞いてもいいのかしら?」
村の人たちはブレの作った菓子やパンについて語りました。
「そうだ、お店を開いてもらえばいいんじゃないか!」
村人たちは気付きました。
領主だった人は新しい仕事を見つけたと聞きません。それならば、家にパンや菓子を作ってもらえばいいのです。お店を開けば、一家も稼げるし、村人も購入できてうれしいのです。
そのことを村の代表は言いに行きました。
ブレは驚きましたが、美味しいと言われて嬉しかったのです。
父親は「ブレの好物が役に立ったな」と微笑みます。
仕事をしないといけないという事はわかっていた元領主は、
「なら、ここで店を開こう。私たちも頑張るから」
というのです。森のパン屋ならば、村の中でパンや菓子を作る職人と争いにならないと考えたのもあります。
ブレは家族と一緒にパン屋を始めました。村だけでなく、近くの村にも評判は広がりました。
ブレは毎日、大好きなパンや菓子に囲まれる生活を手に入れました。
また、もともと貴族であるとあちこちに伝わりましたが、誰も文句は言いません。むしろ、素敵なパン屋だとほめるのでした。
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