第4話
やはり人混みの中にいるのは体力を使うらしく、私は就寝の準備をしてすぐに携帯も見ることなく眠った。
翌朝、目を覚ますと時間は朝八時。
夏休みも終わり際である今日は、特に部活があるわけでもないので、一晩中エアコンがかかっていた涼しい部屋から出ることをためらったが、空腹には耐えられずリビングの方へと向かう。
まるで鍋の中にいるかのような蒸し暑さだったので、リビングにもエアコンをつけた。
今日は平日。
どうやらもうすでに両親は仕事に行っているらしかった。
起こしてくれてもいいのにな。
私はテーブルの上に置かれている冷めたご飯を食べ始めた。
行儀の悪いことではあるが私はスマートフォンの電源をつけ、Safariを開く。
私はGoogleマップをインストールしていないため、フリック入力でそれを打ち込み、サイトを開いた。
見たいのはストリートビュー。
そう、あの神社付近のものだ。
とはいえその神社の名前などわからないわけで、私は昨日通った商店街の店の一つ、近藤商店にマップの標準を一旦合わせた。
そこから歩いた方角へとどんどん視点を動かしていく。
スライド、移動、拡大、縮小。
どれだけ指を動かそうとも、どれだけ目を凝らそうとその神社が姿を見せることはなかった。
私はこう結論付けた。
あれは幻影だ。
私たちは何かに魅せられたのだと。
そしてもうこれ以上考えるのは毒にも薬にもならないようなものなので、私はこれが実在するかについての思考を打ち切った。
結論、ただ見えただけのもの。
「ごちそうさまでした。」
流しに食器を置き、ふと携帯を見ると何やら蛹から『写真を送信しました』との通知が来ていた。
六桁のパスワードを打ち込み、画面を開く。
そこにはランニングを行っていたのだろうか、額に光るものを浮かべ、青の身軽な服装で、満面の笑みを浮かべる蛹が目立っていた。
朝からよく走るなぁ。
だが、蛹がこの写真で伝えたいものはきっとそんなことではなかった。
写真の背景はコンビニ。
きっとここで買ったのであろう、青の服と対象的でアクセントになっていた赤い箱。
蛹の火照った体を冷やすアイス、『ピノ』。
これだけなら、ピノと健康的な美少女の謎ツーショットだが、残念だがより大きな謎にそんな感情はかき消されるだろう。
今昔、ピノというものは六粒だ。
これは不変のものであり、きっと値上げがされようとも、その数が変更されることは無いだろう。
チョコの『DARS』の数が増減するのと同じくらいありえないことだ。
しかし蛹の手元にあるそれは通常のものより一つ多い七つ目が左下のものに重なるように写っていた。
まるで合成写真のような不自然さだったが、昨日起こった現象と蛹が願ったこととを考えると、私にはやはりそれが増えているように思えた。
願い事が叶っている。
あの神社は凡百のありふれたものではない気がした。
私はそのメッセージの返答に、「エグくね?」「一個ちょーだい」と送る。
一分ほどして既読がつくと、蛹はピノの空箱の写真を私に送りつけて来た。
ごちそうさんという言葉と、私を軽く煽るようなスタンプと共に。
そして蛹はまた走り出すのか、会話を締めにかかる、「じゃ、また学校で」という言葉を放った。
「本当なのかな、あの神社」
私は誰もいない部屋で一人呟く。
……あ、そういやもうすぐ学校始まるじゃん。
宿題しなきゃ。
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