クリスマス
瑠奈
クリスマス
すっかり暗くなった道を、バスが走る。
バスはバス停で止まった。そして、二人の男女が降りてきた。
男の方は、気温が0度に近いというのに防寒着を何も着用していない。そして女の方は対象的に、ふわふわのコートとマフラーを身に着けていた。
ヒュッと冷たい風が吹く。
男女は歩き出した。無言で。
息を吐く度に、女がかけている眼鏡が曇る。
十字路を左に曲がり、長い上り坂を登り始める。無言で。
女が右手に持っている紙袋が揺れる。
風は容赦なく男女に吹き付ける。
女の中途半端な長さの髪が風にいじられる。
先を歩いている男はチラチラと振り返りながら、ズボンのポケットに手を突っ込んで歩いていた。
段々と、二人の間が離れてくる。
男はふと立ち止まった。
「大丈夫?」
「うん」
女はうつむいたまま頷き、足を早めた。
更にしばらく歩いた二人は、ファミリーレストランに入った。
時計は、もう9時過ぎを示している。
店員に案内されて席に座り、テーブルに置かれたメニュー表を開く男だったが、女はうつむいたまま座っている。
やがて二人の元に料理が運ばれてきた。
男はパスタ、女はドリアだ。
しばらく無言で食べていた女だが、男が元々辛いパスタに唐辛子をかけるのを見て、
「辛いの好きだっけ?」
やっと口を開いた。
「うん、好き」
男が頷く。
「……今日はごめんね、振り回しちゃって」
「いや、いつも俺が振り回してるようなものだし」
「ううん、私がイルミネーション見たいってだけだったから……」
女の声がどんどん小さくなる。
男が会計を終え、二人でレストランを出る。
「元気ないけど、どうした?」
男が訊く。
「あ、もしかしてイルミネーション混んでたから……」
「うん、それもある。まあ、もう一つの原因これだけど」
女は右手に持っていた紙袋を軽く持ち上げた。
「――カフェで2回渡そうとしたのに、途中で喋りだしちゃうんだもん」
「え、嘘。そんな気を使うような関係じゃないでしょ」
「まあそうだけどね……」
少しの間の後、女は紙袋を男に差し出した。
「ありがとう」
男が紙袋を受け取る。その瞬間、女の心は軽くなった。
クリスマス 瑠奈 @ruma0621
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