「三十日間のペアリング」18(九月十八日~九月二十四日)――笠地蔵六140字小説

笠地蔵六 @kasajizorock


ちさとのモニター試用は二十九日で終了した。彼女のボディが受けたダメージは思いの外大きく、ひと晩での修復は叶わなかったのだ。

終業式の後、サトルと母親は二人で外食した。手元にはアイムプロジェクトからの感謝状。


サトルの元義父とその仲間は逮捕され、後のサトルの人生に関わることはなかった。

―――――午後10:34 · 2023年9月19日



県立高校に通うサトルは十六歳になった。裕福ではないが、母との二人暮らしに不満はない。それでも街で誰かに連れ添うアイムを見かけると、やはりちさとを思い出す。

アイムはちさとが言った通り、あの年のくれに発売された。高価なサーバントだったが人気は上々。ラインナップにはちさとタイプもいる。

―――――午後8:50 · 2023年9月20日



ちさと28の消息はわからないままだった。あの日、最後にレイが告げた言葉の意味も。

「28が電源途絶直前に送った自分の状態情報プロパティから推測するに、28自身がサトルさんの前に戻ってくるのは難しいと思われます。ただそれとは別に、彼女は秘匿圧縮キーをちさと閉鎖クローズドクラウドにアプロードしていました」

―――――午前8:34 · 2023年9月21日



高一の春休み、サトルは旅に出ていた。一人用テントと寝袋を積んだ気ままな自転車旅行。旅程は決めていない。一年間のバイトで貯めたお金が尽きるまでが目安。街よりも郊外、海よりも山、そんな感じで数日間。気づくと馴染み深い匂いに包まれていた。沿道の並木に鈴なりで咲いている白と赤の小さな花。

―――――午後7:39 · 2023年9月21日



沈丁花。姉さんの木と同じ匂い。

自転車を停め、むせかえる匂いの中でしばし佇んでいたサトルは、道の端に何かが落ちているのを見つけた。片手サイズのそれはカードボックスだった。見るからにレアそうなトレカが束になって入ってる。

「失くした奴は悲しんでるだろうな」

サトルは撮影しSNSに上げた。

―――――午後10:45 · 2023年9月22日



水分補給を済ませ、自転車にまたがろうとしたらスマホにDMが届いた。

「十分以内にそこに着くので待っていていただけますか。お礼はいたします」

急ぐ旅でもないし。サトルは了解を返して路肩に座り直した。

それにしても反応が早い。いや早過ぎる。リアタイでクロールしてるのかな?

―――――午後8:25 · 2023年9月23日



ほどなく坂道の遠くに豆粒のような影が現れた。車並みの速さで近づくそれは、走りくる人影だった。上り坂をこのスピードで?

きっかり十分でサトルの前にやってきたのはちさとだった。

「カードボックスを拾ってくださった方で間違いないですね」

懐かしい声で尋ねられたサトルは、何も言えず頷いた。

―――――午後5:26 · 2023年9月24日



https://twitter.com/kasajizorock/

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