第29話 VS魔人戦(7)

「その銀の眼、その剣、4年前に見たぞ! 俺が殺し損ねた1人、こちらの攻撃を悉く読んで撤退に追い込んだ女のものだ!」


 確かに4年前、記憶にないが俺がルルさんを庇って左眼を負傷した時に助けてくれたのはスルンさんだ。


「まさか⋯⋯いや、だが⋯⋯眼を移植してその能力が使えるようになったとでもいうのか!」


 ヘカテスの考察は当たっているけどそれを教えてやる義理はない。それに今そのことを口にしてしまうのはタイミングが悪い。


「移植で神器を使えるようになるなんて聞いたことないわ」

「スルン先生がスレイヤーを引退したのは私の⋯⋯せい⋯⋯」


 やはりルルさんがショックを受けている。だがきついことを言うようだが今は戦いの最中、呆然自失になられては困る。


「お喋りをしているなんて随分余裕だな。もうお前の攻撃は俺には通じないぞ」

「神器を2つ持っているからといって調子に乗っているようだな。なら俺の剣を防いでみるがいい!」


 ヘカテスは激昂しながらこちらへと向かってくる。

 しかしこの先の未来⋯⋯時間にして数秒先の世界だがヘカテスの行動を左眼が教えてくれる。

 右から胴をなぎ払ってくるつもりか。

 俺は左手に持ったユグドラシルの剣でヘカテスの攻撃を受け止め、右手のサウザンドブレードで斬りつける。


「くっ! まぐれ当たりがあっ!」


 ヘカテスは攻撃を食らい我を忘れたかのように剣を振り回してくるが、俺は先程と同じ様に片方の剣で受け止め、もう片方の剣で斬りつける。


「何よこれ! 圧倒的じゃない!」


 ララさんの言うとおり傍目から見ると俺が押しているように感じるかもしれないがこちらも余裕がない。

 何故ならユグドラシルの剣による覚醒能力、万物を見通す眼プロビデンスを使用する度に左眼が焼けるような痛みが走るからだ。まだ俺の身体に眼が定着していないのかそれともしょせんは借り物の神器だからなのかなるべく早く決着をつけないとこっちが先に力尽きてしまう。


 そしてヘカテスは右に左にとあらゆる方向から剣を繰り出してくるが、俺は全てカウンターで返し、魔力フィールドにダメージを与えていく。


 くっ! 痛みのせいか左眼がよく見えなくなってきたぞ。まだ魔力フィールドは破れないのか!


「同じだ⋯⋯4年前あの女と戦った時と⋯⋯俺の攻撃を全て読んでいる」

「だがあの時とは違って今度は逃がすわけには行かない!」


 4年前何も出来なかった自分とは決別するためにもヘカテスは必ずここで仕留める!


 だが万物を見通す眼プロビデンスを使うのももう限界だ。俺は最後の力を振り絞ってこの先の未来を見通す。


 すると十数秒後の世界では神器を失った俺が血だらけになりヘカテスの剣を手で受け止めている姿が見えた。


「ぐあっ!」


 そして限界を越えて万物を見通す眼プロビデンス使用したため、ユグドラシルの剣は消え、俺の手にはサウザンドブレードのみとなる。


「力の使いすぎか? 2つの神器を使えないお前など!」


 ヘカテスがユグドラシルの剣を失った俺を見てチャンスとばかりに襲いかかってくる。

 この後ヘカテスは上段から剣を振り下ろしてくるはずだ。


「死ね!」


 俺は予想通りに来たヘカテスの剣を右手にもったサウザンドブレードを使って受け止める。


「このまま斬り殺してやる!」


 ヘカテスは軽くしていた剣を重くし、そのまま力と重力を使ってサウザンドブレードごと俺を押し潰そうとしている。


 このままだと俺はヘカテスの言葉通りいずれ斬り殺されてしまう。

 だが俺はそのような未来を回避するために空いている左手を使って剣身を掴む。


「そのようなことをしても手が斬れるだけだぞ!」


 俺は剣身を掴んだことによって左手の指から血が流れて地面に滴り落ちている。


「確かにこのままだと指が斬り落とされるだろう。それならこうすればどうかな⋯⋯ルル! 今のうちにヘカテスを!」

「バカめが! この重力化の中で動けるやつなど⋯⋯」


 だがそこでヘカテスの言葉は止まる。何故ならルルさんが背後からヘカテスを斬りつけていたからだ。

 そして俺はヘカテスがルルさんの存在に驚いている間にサウザンドブレードを手から離し、右手も左手と同様にヘカテスの剣身を掴む。


「先程まで震えていた小娘がまさかこの重力化で動けるとは。だが小娘からはEランク程の魔力しか感じない。いくら剣で斬ろうが無駄な足掻きを」

「ユウト様に命令されたなら私はどんなことでもしてみせます! それにもし左眼の負傷が私のせいなら震えている場合ではありません!」


 模擬戦で俺と渡り合ったルルさんならこの重力化の中でも動けると信じていた。そしてヘカテスが言っている言葉に1つだけ嘘があることを俺は知っている。


「強がるのはやめた方がいいんじゃないか? 魔力フィールドがもう限界に近いことはわかっているぞ」

「くっ! 何故それを!」


 ヘカテスはまずはルルさんを倒そうと考えたのか、掴まれた剣を振りほどこうとする。

 もしルルさんを攻撃されたらあっという間に魔力フィールドが砕かれてしまうため、例え指が斬れようとも絶対に剣身を離さない。


「貴様! 離せ! 離しやがれ!」

「ルルさんを殺らせるわけにはいかない!」


 俺がヘカテスをこの場に止めて置けばそれだけルルさんは背後から攻撃し続けることができる。


「やめろ⋯⋯やめろぉぉ!」


 そしてヘカテスの絶叫が木霊する中、遂にルルさんのブラッドソードが魔力フィールドを破る。


「これで最後です!」


 そしてルルさんの剣がヘカテスの背後から心臓を貫くのであった。



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