第28話 VS魔人戦(6)

「バカめが! このまま斬り裂いてくれるわ!」


 俺はヘカテスの剣をかわすのは不可能だと考え、サウザンドブレードで受け止めることを選択する。

 そしてヘカテスの黒い剣がサウザンドブレードと交差する瞬間、俺は黒い剣を絡めとることで打点をずらし地面へと導く。


「こ、これは葉桜崩し!?」


 そう、ルルさんの言うとおりヘカテスの剣を受け止める状況に追い込まれたため、俺は以前ルルさんが使っていた葉桜崩しで攻撃を回避することにした。

 だが重力に縛られていた状態だったので剣を巻き上げることはできないと判断し、打点をずらすことにしたのだ。

 咄嗟のことでうまくいくか不安だったがどうにか成功したようだ。


 そしてヘカテスの剣をかわしたことが正解だったということはすぐに理解できた。

 ヘカテスの剣で地面を斬った所を見ると縦一閃の空洞が出来ており、底は暗くて見えない程だった。

 もしあの一撃を受け止めていたら間違いなく俺の魔力フィールドは破られ、命を失っていただろう。

 だがこれでヘカテスの奥の手を防ぎきった。もしまた重流星絶断メテオスラッシュがきたとしても葉桜崩しで対処すればいいだけだ。後はどうやってヘカテスを倒すかだが⋯⋯。


「ちっ! かわされたか! だがまだ終わりではないぞ」


 ヘカテスは重流星絶断メテオスラッシュではなく、普通に下段から斬りつけてきた。

 これなら受け止めることができるしかわすこともできる。

 俺はそんな甘い考えを持っていたが、剣が予想を上回るスピードで迫ってきたため、腰の部分を斬られてしまった。


「どういうことだ」

「どういうことも何もお前が俺より弱いというだけだ」


 そしてヘカテスは次々と攻撃を繰り出してくるが俺はその素早い斬撃に対処できず、とうとう魔力フィールドが破られてしまう。


「何故急に速くなった!」

「これがお前の言う奥の手だ。重流星絶断メテオスラッシュを回避したことで勝てると思ったんだろ? この希望を見せて一気に地獄へ叩き落とす瞬間が気持ちよくて思わずイッテしまいそうだったぞ」

「趣味の悪いことを!」


 だがこの重力化の中で速くなったヘカテスの剣をかわすのは現実的に考えて厳しい。

 もう魔力フィールドはないため、これからは俺の身体は直接ダメージを受けてしまう。

 そのような中でヘカテスの攻撃を防ごうとした時に右手に持ったサウザンドブレードがヘカテスの剣を受け止めた。


 ん? この感触は⋯⋯。


 ヘカテスはこのまま追撃をかけてくると思ったが何故か後ろに下がった。


 どういうことだ? このまま高速の剣で俺を斬り刻むと思っていた。だが実際は後方に下がった。

 いや、それ以前にヘカテスの剣を受け止めた時に妙に軽かった。まるで重力など感じない程に⋯⋯まさか!


「なるほど⋯⋯そういうことか。重く出来るなら軽くもできるよな」

「⋯⋯気づいたか」

「剣を受け止めた時、あまりにも軽かったんでね。それなら剣速が上がるのも頷けるものだ」

「バレる前にお前を片付けたかったんだがな。だがそれを知ってどうする? 重力化の中で俺の剣をかわすことはできまい。魔力フィールドもない貴様などこのままなぶり殺してやる」


 4倍の重力化に高速の剣、このままではヘカテスの剣をかわすのは至難の業だ。それに俺の身体を護ってくれる魔力フィールドももうない。そして使


 再びヘカテスがこちらに接近し、上段から高速の剣を振り下ろしてくる。

 奥の手を使った俺にはもう対抗する手段がないと考えているのだろう。ヘカテスはニヤリと笑みを見せ、勝利を確信しているかのような表情を浮かべている。


 だがさっき俺は言ったよな? 奥の手は最後まで取っておけと教わっているって。


 俺は何もない空間から剣を取り出し、


「なん⋯⋯だと⋯⋯」


 ヘカテスは何に驚いているのだろうか? 俺の? それとも攻撃を先読みされて斬りつけられたことだろうか? いや、その両方だろう。


「何故貴様は神器を2つ持っている! 神より授かる神器は1つのはずだ!」


 俺の左手にはブラウン色の武器⋯⋯が握られている。


「えっ? どういうこと?」

「ユウト様の両手にそれぞれ神器があるなんて信じられません!」

「それにユウトの左眼の色が黒から銀に変わってるわ」


 ララさんとルルさんからも驚きの声が上がる。

 魔人から見てもそして人間側から見ても今の俺の状態は異常なのだろう。


「確かに神から授かる神器は1つ。だけど時には例外というものがあるんだ」

「例外だと? いやまて⋯⋯その左眼にその神器⋯⋯見覚えがある。まさかお前は⋯⋯」


 ヘカテスは俺の状態を見て、1つの仮説を立てるのであった。

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