第22話 間に挟まれる者の気持ちもわかってほしい

 ゴブリンの大半は武器を手に持ちこちらへと向かってきた。

 ここは接近してくるゴブリンを1匹ずつ冷静に対処してた倒していこう。俺はそう決意したがルルさんは颯爽と駆け出し、ゴブリンの群れに対して走り出していく。


「ルルさん!」

「ここは私が!」


 迎え撃つことを選択した俺とは違い、ルルさんは自分から攻撃することを選択したようだ。

 そしてルルさんはゴブリンの群れの中を風のように駆け抜けていく。しかもすれ違いざまにキッチリ3撃食らわせているため、ゴブリンは次々とその場に倒れ、絶命していく。


 やはりルルさんの剣の腕は確かだ。ものの数秒で10匹全てのゴブリンが全滅してしまうだから。

 だけどそのせいで俺のデビュー戦はただ立って見ているだけという間抜けなものになってしまった。


「ル、ルルさんお疲れ様。けど無理はしないでね」

「いえ、この程度の敵にユウト様や姉さんの手を煩わせる訳にはいきませんから」

「ま、まあ頑張りすぎないように。次から俺も一緒に戦うから」

「わかりました」


 そしてこの後ゴブリン、犬の頭を持つ人型のコボルト、通常のネズミの数倍はあるオオネズミなど低ランクの魔物が複数現れたが、俺とルルさんの剣の前には相手にならず、容易に討伐することができた。


「あんた達本当に変人みたいな動きね」

「神器の魔力が低いから他のことでカバーしないといけないから」

「私だったら一瞬で討伐することができるわ。それと瀕死の状態でもない限り、今の戦い方で魔物を倒すことが出来るのはせいぜい2ランク上くらいまでよ」


 今の俺ならDランク、ルルさんならCランクまでと言いたいのだろう。俺は奥の手があるけど今のルルさんだとBランクやAランクの魔物が来たら余程弱っていないと魔力フィールドを打ち破ることができない。


「何か拍子抜けね。弱い魔物しかいないじゃない」

「実技の授業は今日が初めてですから仕方ないと思います」

「おそらく強い魔物は先生達が間引いてくれたんじゃないかな? もしくは元々この29区画には強い魔物がいないから今日の授業の場所に指定したとか?」

「そうね。でもこのままだと張り合いがないからAランクの魔物が魔人が来ないかしら」

「フラグを立てるようなことを言わないでくれよ」


 だけどその気持ちはわかる。願わくはヘカテスが俺の前に現れてくれたらと思っている。

 奴だけは絶対に仕留めてみせる。どんな手を使っても⋯⋯。



 そして周囲から魔物がいなくなり約束の1時間が経とうとした頃。


 バーン!


 突然西側の空からけたたましい音が聞こえてきた。


「これは信号弾?」

「近いですね」


 信号弾はここから数百メートルの所で上がったということはエライソ達のチームか。


「ソニア先生からは信号弾が上がった際には速やかに城門まで戻るようにとのことでしたが⋯⋯」

「何言ってるの! こんなに面白そうなこと⋯⋯じゃなくて私達が1番近い所にいるのよ。急いで行かないと手遅れになるわ」


 確かにAランクのララさんがいるなら助けに行くのもありかもしれない。それにスリエやハーカスのことも気になるしな。けしてエライソのことが心配で行くわけではない。


「姉さんならそう言うと思いました」

「それなら早く行こう」

「あら? ユウトなら反対してくると思ったけど意外に話がわかるわね」

「一刻を争う事態かもしれないしね」

「それなら急ぎましょ」


 こうして俺達はソニア先生の言いつけを破り、信号弾を上げたエライソ達の元へと向かうのだった。


 エライソside


「なあなあ。お二人さんもう少し楽しくやらないか? せっかくの外の世界だぜ」


 チームで動き始めてからスリエとエライソは一言も喋らずにいたため、ハーカスはたまらず声をかける。


「それに少し飛ばし過ぎじゃないのか? 俺なんか魔物を1匹も倒してないぜ」


 エライソやスリエの周りには低ランクの魔物の死骸が無数に転がっていた。


「はあはあ⋯⋯この⋯⋯程度。大したこと⋯⋯ないぜ」

「わ、私は⋯⋯強くなるん⋯⋯です」

「2人とも息が切れっ切れじゃないか。そんなんじゃ⋯⋯」


 ハーカスは突然言葉を止める。そしてボソッと誰にも聞こえない声で呟いた。


「おいおい。このタイミングで来るのかよ」

「あん? 何言ってん⋯⋯」


 しかしエライソが言葉を言い終わる前に突然黒い影が現れスリエへと剣戟を繰り出す。


「えっ?」

「ボサッとしているんじゃねえ!」


 しかし黒い影に逸早く気づいたエライソがスリエにタックルをして何とか剣をかわすことができた。


「エ、エライソ様」

「立て! 次が来るぞ!」


 だが黒い影⋯⋯いや黒い禍々しい気配を持つ者は襲いかかってくることはなく、こちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。


「お前はBランクのスレイヤーか」

「しゃ、喋った!?」


 スリエが驚くのも無理はない。目の前にいる者は人間ではなく、普通の魔物は喋ることはないため結論は1つしかない。


「魔人だと⋯⋯」


 エライソは魔人を見てかすれた声を出す。普段のエライソなら弱気になることなどないが、魔人の圧倒的な存在感とこの場からすぐにでも逃げ出したくなるような殺気を向けられているため身体が震えていた。


「へ、へへ⋯⋯ちょうどいい。俺が臆病者じゃない所をみせてやる。一昨日だって親父に止められなきゃ⋯⋯」

「エライソ様⋯⋯それはどういう⋯⋯」


 だがエライソはスリエの言葉には答えず神器に魔力を込める。


「人型の魔物がなんだ! 俺は強い! それを今証明してみせる暗い森ダークフォレスト!」


 エライソが声高く叫ぶと一瞬で辺りに森が形成され魔人を取り込む。


 こうして今、Bランクスレイヤーであるエライソと人型の魔物の戦いが始まるのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る