第21話 感傷に浸る時間はなかった
城門の扉が開くと俺達が住んでいる区画と同じ住居に道路、商店会や飲食店などが視界に入った。
だがどの建物も破壊されて草木や苔が生えているため長い年月放置されていたことがわかる。
29区画が魔物に滅ぼされたのは5年程前か⋯⋯魔物の姿は見えないがここはもう俺達人間に取って外の世界であるという現実を突き付けられた。
魔物を倒し、この区画を取り戻したとしても復興するのにどれだけの時間がかかるのか。
だけど必ず俺が魔物を滅ぼしこの場所を取り戻して見せる。それがスルンさんから眼を受け取った者がやらなくてはならない使命だ。
「ちょっとユウト。何ボサッとしているの? さっさと行くわよ」
俺は外の世界の景色を眺め、改めて目標達成の決意をしていたがララさんとルルさんは既に20メートル程先に進んでいた。
「待ってくれ! こっちは初めて外の世界に出たんだ。少しくらい感傷に浸らせてくれてもいいだろ?」
ララさんとルルさんはドレストからクワトリアへ来た時に外の世界を体験しているからいいけどこっちは見るもの全てが初めてなんだからな。
「時間の無駄よ。壁の内側の世界だろうが壁の外の世界だろうが関係ないわ。私達がやらなくちゃならないことは一刻も早く強くなってこの世界を取り戻すことじゃないの?」
「確かにそうだけど⋯⋯」
ララさんの言うことは正しいけどでもなあ。
「早く行きましょ」
俺は何か釈然としなかったが、とりあえずララさんとルルさんの後を追うのであった。
「到着しました。ここが私達のチームが指定された場所ですね」
俺達が学園側から指定されたポイントは街の中央にある噴水だった。
平和な世の中であるならば待ち合わせに使われていたであろう場所だが、今は噴水は破壊され水が出ていないため見る影もない。
ここまでは魔物に会うことなく来ることができたけどこれからはそうもいかないだろう。
「みすぼらしい場所ね。どうせなら魔物に壊される前に来たかったわ」
「そうですね。こんなに綺麗な場所を壊さなくても⋯⋯とは思いますけど」
「魔物にそんな風情を求めるなんて無駄よ」
「そうですね。変なことを言ってしまいすみません」
魔物にはそもそも俺達人間の言葉が通じないから会話をすることができないためわかり合うことなど不可能だ。だが人型の魔物は⋯⋯魔人は違う。
俺は4年前に確かに聞いたんだ。残虐な言葉を発しながら俺の左目を奪った魔人の言葉を。
俺はその声をこの4年間1度も忘れたことはないし何度も夢に見た。ヘカテスは今どこにいるのだろうか? 願わくは今すぐにでも俺の前に現れてほしいものだ。そして必ず俺の手でヘカテスを倒して見せる。
「ユウト⋯⋯少し顔が怖いわよ。緊張しているの?」
「そうかもしれないけど大丈夫。早く魔物と戦いたくてウズウズしているだけだ。ルルさんは大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
ここまで魔物が来なかったのはおそらく学生に負担をかけないため、予め先生達が魔物を討伐していたのだろう。だがここからは違う。いつ魔物が来てもおかしくないはずだ。
「出でよ! サウザンドブレード!」
「
俺とララさんは神器を召喚して手に取る。そして⋯⋯。
「お願い! 力を貸して! ブラッドソード!」
ルルさんが言葉を紡ぐと黒赤色の剣が現れた。
これがルルさんの神器か。何だか思っていたより禍々しい感じだったので少し驚いてしまった。
ルルさん優しいからこう神器はもっと白く透明性があるものだと勝手に思い込んでいた。それこそララさんが持つクラウソラスのような白く輝く剣が似合っていそうだ。
「戦いは始まっているようね」
ララさんが視線を左側に向けたのでその方向を見てみると住宅地に木が次々と形成されていた。
「エライソか」
建物でエライソ達の姿は見えないが、500メートル程先に森が現れたことから
「ユウト様、姉さん。こちらにも魔物が現れたようです」
「えっ? どこ?」
確かに何かが近づいてくる気配を感じる。この規則正しいリズムからしておそらく⋯⋯。
「どうやら二足歩行の魔物のようだ」
「東側から数は10匹程ですかね」
「あなた達よくそんなことがわかるわね」
「相手の魔力というか気配に集中すれば、意図的に隠れていなければわかるようになるよ」
「⋯⋯私には一生無理そうだわ」
しっかりと武道の鍛錬を行っていれば出来そうだけどほとんどの人は魔力の使い方や高める方法を重視しているから、俺とルルさんなど一部の人が少し特殊なのだろう。
「あれは⋯⋯ゴブリンね」
ララさんの言うとおりこちらに向かってきた魔物はEランクの魔力を持つゴブリンだ。
俺の3分2程の身長で醜い顔を持ち、それぞれ手には剣や槍、斧や杖など様々な武器を持っていた。
「せっかく外の世界に来たのに拍子抜けだわ。ここは任せるからあなた達だけで倒しなさい」
「わかりました」
「わかった」
Sランクのララさんなら一撃食らわせれば簡単にゴブリンが持つ魔力フィールドを打ち破り倒すことが出来るだろう。
Eランクのルルさんはまともに剣を当てることが出来れば1~2回、Fランクの俺は4~5回当てれば魔力フィールドを破れるはずだ。
「来るぞ!」
そしてゴブリンは雄叫びのようの声を上げながらこちらに接近して来るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます