第20話 初めては緊張するもの

 そして俺達のクラスは29区画前の城壁へと移動した。


「よろしくお願いします」

「あなた達なら気兼ねなく過ごすことができるから楽でいいわ」


 スリーマンセルのメンバーは俺とルルさんララさんになった。


「親しい方達が同じチームになるように先生が振り分けをしてくれたのでしょうか?」

「いや、これはたぶん力が均等になるように組んでいると思うよ」


 このクラスで唯一のAランクであるララさんと1番下と下から2番目の俺とルルさん。そしてクラスで2番目にランクが高いエライソと下から3番目のハーカスが組んでいるし、他のチームを見ても俺の考えは間違っていないだろう。

 だけどエライソのチームは大丈夫か少し心配だな。何しろエライソのチームのもう1人はスリエだからだ。

 普段ならむしろハーカスがDランクであることをエライソとスリエに見下されて、転入初日からハーカスのことが心配になってしまう状況だ。しかし今はエライソとスリエは同じチームだというのに目も合わせず、トンゴの件が尾を引いているのは明らかだった。

 このままで大丈夫なのか? いや、今は他のことを心配している場合じゃない。今日は俺にとって初めての実戦だ。集中して望まないと痛い目を見るぞ。


「本日実戦訓練を行う場所はかつて第29区画と呼ばれた場所だ」


 ソニア先生がかつてと言ったのは今は魔物に滅ぼされた区画だからだ。今や22区画と25から30区画は壊滅状態で外の世界という認識になっている。


「それぞれのチームには指定されたポイントへと向かってもらい、一定時間その場所で魔物を討伐してもらう」

「も、もし強い魔物が現れたらどうするだ?」


 ハーカスの言うこともはもっともだ。いきなりの実戦で学生3人だけしかいないのは少し心許ない。確か例年通りだとまずはクラス全員で滅ぼされた区画で魔物の討伐を行うのが恒例になっていたはずだ。

 ソニア先生からスリーマンセルと聞いて驚いたがいったいどうして変わったのだろう。

 もしかして近年次々と魔物の侵略を許していることから強いスレイヤーの育成を急いでいるのかもしれないな。


「強い魔物が現れたら逃げろ。そして各チームに信号弾を1つ渡しておくのでこれを使えば我々教師陣がすぐに助けに向かう」

「すぐに来て下さいよ。なんてったって俺はDランクのスレイヤーですからね!」


 ハーカスは自信満々に答えるが胸を張って言うことではないだろう。まだ会って少ししか経っていないがこのハーカスという男は感受性豊かな奴のようだ。しかしだからといって本心を見せているとは限らない。こういう奴ほど心に隠したナイフを持っていたりするものだ。


「ユウト~俺のチームすげえギスギスしていて何か気まずいんだけど」

「え~と⋯⋯あの2人はちょっと色々あってな」

「なあ、頼むから俺と代わってくれよ。そうすれば俺は双子の美少女と⋯⋯げへへ」


 どうやらハーカスはエライソやスリエと一緒にいるのが嫌だという理由の他に教室で宣言していたように容姿が優れているララさんやルルさんとチームを組みたいようだ。


「先生が決めたことだ。覆すことなんて出来ないだろ?」

「確かにあの先生は圧がすげえから迂闊なことは口にできないな」


 いや、もう既に何度も失言をしていると思うが自覚はないのか?


「だけどユウトのハーレムが羨ましすぎる!」


 こ、こいつは⋯⋯ほとんどの者が初めての実戦で緊張しているのに女の子のことを考えているとは。しかも今日は転入初日だぞ? ハーカスは大物かもしくは余程のバカだな。


「仲が良いのはけっこうだけどそろそろ出発の時間だから自分のチームに戻りなさい」

「は、はい! すいませんでした! すぐに戻ります!」


 ハーカスは躾のついた犬のように返事をしてララさんの命令に従い、俺達はその様子を呆れて見ていて。


「なんなのあれ?」

「まあ裏表がなくていいんじゃない」

「そうね。隠し事をしている人間程怖い人はいないわ。それより信号弾をもらったからこれはユウトが持っていて」

「わかった」


 俺はララさんが信号弾を手渡してきたので、

 すると何かが俺の身体の中になだれ込んできた。


「頼むわね。私は戦うことに専念したいから」


 さすがララさん。指が触れた程度では気にも止めないようだ。別にラブロマンスを期待している訳じゃないけど指を触れてしまった時になんて言い訳をしようか考えていたけど必要なかったな。


「ユウトさん、姉さん。先生から頂いた地図を見ますと私達は29区画の中央付近のようです」

「真ん中なんて気分がいいわね。まあ私の実力からすれば当然の配置だわ」

「ちょっと見せてもらってもいいかな」


 俺はルルさんが持っている地図を見せてもらうと左隣に配置されているのはエライソ達のチームだということがわかった。


 エライソ達のチームは大丈夫だろうか。昨日は一晩考えてみたけどプライドの高いエライソが取り巻きのトンゴがいる22区画が襲われているのに助けに行かないなんておかしな話だ。もしかしたら22区画に行けない事情でもあったのか?


「何だかチラチラと隣のチームを見ているけどどうしたの?」

「ユウトさんは昨日の件があったのでエライソさん達のことを心配されているんですよね?」

「そ、そんなことない。ただハーカスは転入初日から大変だなって思っているだけだ」

「あんな奴を心配するなんておかしな人ね。しかもそれを認めないし。これがツンデレってやつかしら?」

「ツンデレのララさんに言われたくないなあ」

「誰がツンデレよ! いつ私がツンツンしたっていうわけ!?」

「「えっ!」」


 デレはともかく自分はツンツンしていないと思っているのか?

 思わず俺とルルさんの口から驚きの言葉が出てしまったじゃないか。


「こら! そこの3人! 静かにしろ!」


 ソニア先生の声が辺りに響き渡り俺達は怒られる。


「ユウトが変なことを言うからよ」

「間違ったことは言ってない」

「ユウトさんも姉さんもそのくらいにしといた方がいいですよ。またソニア先生が⋯⋯」


 ルルさんの言葉を聞いてソニア先生に視線を向けるとジロリとこちらを睨んできたのでここは黙っていた方が良さそうだ。


「それではこれから29区画へと続く門を開ける。指定されたポイントに着いたらそこで魔物を狩り、1時間経ったらここに戻ってこい! くれぐれも無茶だけはするなよ。初めての実戦だ。ここに戻って来ることを最優先にしろ!」


 そしてソニア先生の言葉通り29区画へと続く門が開き、俺達は魔物を倒す実戦訓練のため外の世界へと足を踏み入れるのであった。


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