第19話 人の仲など一瞬で壊れる
「なんで⋯⋯なんでトンゴを守ってくれなかったんですか⋯⋯」
スリエは悲痛の表情でエライソに訴えるが、当の本人であるエライソはいつもと違ってスリエの言葉に対して言い返す訳でもなく、ただ俯いていた。
「何か⋯⋯何か言って下さい! トンゴは死んでしまったんですよ! 私達は⋯⋯私達はエライソ様を信じて⋯⋯」
話を聞く限りどうやらトンゴは22区画の居住区に住んでいたようだ。
そうか⋯⋯昨晩の魔物の襲撃でトンゴは殺されてしまったのか。この世界では人が死ぬことなどよくあることだ。だけどそれが自分の身近な人だと否が応でも死を意識させられる。トンゴはエライソの取り巻きだということで仲は良くなかったがクラスメートが亡くなるのは気分が良いものではない。
「お前ら静かにしろ」
教室に気まずい空気が流れる中、ソニア先生が朝のホームルームのため教室に現れたため、俺達は自分の席に座る。
ん? 空席が2つある? 1つはトンゴでもう1つは俺の目の前の⋯⋯。
「既に皆わかっていると思うが昨夜第22区画が魔物によって壊滅状態とされ、死者も多数出た。その中にはこのクラスの一員であるトンゴとマリカが含まれている」
もう1つの空いている席はマリカさんだ。そうか⋯⋯マリカさんも22区画に住んでいたんだな。
「突然の別れで気持ちの整理がついていない者もいるだろう。だが皆わかっていると思うがこれがこの世界の現実だ。隣にあった日常があっという間に崩れていく」
ソニア先生のいうことは当たり前のことだ。しかし中には身近な人との別れが初めてなのか泣き出している者もいた。
「この理不尽な世界を受け入れたくないなら戦え! 戦って魔物を滅亡させるしかない! 厳しいことを言うようだが死にたくないのなら今以上に強いスレイヤーになるしかない。それと今日はほとんどの教師が22区画の援軍に行き疲労しているため休校にする⋯⋯以上だ」
ソニア先生はそう言葉を残すと教室を出ていってしまった。確かに今日の先生は少し顔色が悪かったように見える。昨夜は寝ずに22区画で魔物と戦っていたんだろうな。
そしてクラスメート達は今日の授業が休校とわかると次々と帰り支度を始める。渦中の人物であるスリエはエライソの方を見向きもせずに教室を出ていく。
おそらく先程のエライソとスリエの話を聞く限り、スリエやトンゴは何かあった時はBランクのエライソに守ってもらえると思っていたのだろう。だが実際に魔物が攻めてきた時にエライソは22区画に行かず、結果トンゴは死んでしまったという所か。
弁護をする気はサラサラないが、この短時間で22区画が滅ぼされたということは人型の魔物がいたはず。エライソが臆病風に吹かれるのは無理もない話だ。
「ユウト様、今日はどうされますか?」
「今日はこのまま帰って寝ようと思っている。昨日は気を張っていたからあまり眠れなかったしね」
ルルさんとララさんが帰り支度をして話しかけてきたので俺はこの後の予定を伝える。
「そうね。昨日はあんなことがあったしゆっくり休んだ方がいいわね」
えっ? ララさんって警報音が鳴っても微動だにせず寝てたよな? 今のはジョークか? だがララさんなら素で言っていてもおかしくない内容だから返答に困る。
「ほら、ユウトも早く帰る準備をしなさい。行くわよ」
「あ、ああ」
俺は結局ララさんの真意を図りかねることができず帰路につくのであった。
そして翌日。新たな出来事が2つあった。
1つは学園に登校した後のホームルームの時間。
「転入生を紹介する」
突然のソニア先生の言葉に教室はざわめき始める。
「えっ? 先日転入生がきたばかりじゃね」
「転入事態めずらしいのにいったい誰が⋯⋯」
「またどこかの権力者の子だったりして」
クラスメート達が疑問に思う気持ちはわかる。新学年が始まって数日経ってから転入なんてどう考えてもおかしいぞ。いったいどこの誰がこのクラスに来たというのだろうか。
「失礼します! 自分はハーカスといいます! Dランクのスレイヤーで彼女を募集しています! ってめっちゃ可愛い子が2人もいるじゃないか!」
な、何なんだこいつは。初対面で彼女が欲しいとか言い始めたぞ。そして可愛いと言ったのは視線の向きからしておそらくララさんとルルさんのことだ。
「余計なことは喋らなくていい! 早くあそこの席に座れ!」
「わ、わかりました」
ソニア先生の怒気を含んだ声に転入生はビビり、かつてマリカさんの場所であった俺の目の前の席へと移動してきた。
「よろしくな。あんたユウトって言うんだろ?」
「よろしく。でもどうして俺の名を?」
「魔力と神器の力がアンバランスでFランクのスレイヤーで有名だからな」
ハーカスも俺のランクが低いことをバカにしてくるつもりなのか? もう慣れたとはいえうんざりするな。
「俺もランクが高い方じゃないから一緒にがんばっていこうぜ」
しかし俺の予想とは違い、ハーカスは好意的な言葉を向けてきた。
「ハーカスは俺のことをFランクってバカにしないのか?」
「さっきも言ったけど俺もランクは高い方じゃないから人をバカにする余裕なんてないからな。仲良くしようぜ」
「ああ」
ハーカスは本当に俺と仲良くしたいのか、それとも自分より下のランクの奴とつるんで優越感に浸りたいのかわからないけどとりあえず肯定の言葉を返しておく。出来れば前者であってほしいが後者の場合はハーカスから離れればいいだけだ。
「そこ! うるさいぞ! これから大事な話をするからよく聞け」
「「すみません」」
ハーカスと話していたことでソニア先生に怒られてしまった。
「今日から街の外で実践訓練を始める。スリーマンセルでチームは私が選んでおいたからその通りに従ってもらう。まずは――」
そしてソニア先生が次々とクラスメートの名前を呼んでいく。そして俺のチームは⋯⋯予想通りの人選だった。
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