第16話 ユウトVSエライソ(3)

「さっさと蹴りをつけなさい! もたもたしてるんじゃないわよ!」

「ユウトさんが必ず勝つと信じています」


 クラスメート達が発する雑音の中に、透き通るような声が俺の耳へと届いた。もちろんその声を発してくれたのはララさんとルルさんだ。少なくともこの学園に入ってからこうやって決闘中に俺の味方になってくれる人はいなかったから嬉しさが込み上げてくる。


「やっぱり声援っていいなあ」


 日頃陰口、悪口、罵倒などを受けている俺にとってこのエールは心の奥底に伝わってくる。

 そして2人に圧倒されたのかクラスメート達は不適格コールを止め、この場に再び静寂な時が流れる。


「えっ? Eランクのルルはともかくララさんもユウトの味方なんですか?」


 エライソの取り巻きのトンゴがララに話しかける。


「別に味方じゃないわよ。ただあなた達のように1人を寄ってたかって非難するのが嫌いなだけ。ユウトを貶めることで自分の優位性を保とうとしている可哀想な人達だなって。そんな下らないことをするくらいなら少しでも強くなるための努力をしたらどうなの?」


 ララの言葉にクラスメート達は図星を突かれ俯いてしまう。


「ララさんはFランクが⋯⋯いや、ユウトが勝つと思っているのですか?」

「愚問ね。ユウトが勝つからよく見てなさい」

「ユウトがエライソ様に勝つ!? そんなバカな!」


 ララの言葉にクラスメート達が信じられないと言った表情をしている。


「なんだ? あのララという女は。ユウトが勝つという笑えない冗談を言っているぞ。頭がおかしいんじゃないか?」

「頭がおかしい? それはエライソのことだろ? 昨日約束した内容を忘れているからな」

「なんだと! ここからは本気でいかせてもらうぞ。死んでも恨むなよ!」


 これからのエライソは言葉通り気配を消して確実に仕留めにくるだろう。エライソの強みは何といっても暗闇の空間であり、この闇の中から放たれる黒い矢を視覚で捉えるのは至難の業だ。しかし今の俺にはこの闇を打破する力がある。


「そのセリフは勝ってから言うんだな」


 俺はサウザンドブレードに魔力を込めると剣が白く輝き出す。


「あ、あれはやっぱり私のクラウソラスと同じ輝きよ!」


 観客席の方からララさんの驚く声が聞こえてくる。

 


 そして俺は神器の能力を使って辺りを光の輝きで照らす。すると暗き森が一瞬で光ある世界を取り戻した。


「バカな! 何だその力は! 俺の暗い森ダークフォレストの闇が打ち破られるなんてありえん!」

「目の前の現実も理解できない程頭がおかしくなったのか?」


 サウザンドブレードから放たれる光により、エライソの姿が草場の陰に隠れているのが丸見えだった。


「例えユウトの神器から光が放たれてもBランクの俺の闇は払うことなどできないはずだ!」


 エライソは予想してなかった事態に腰が引けて、狼狽えているのが手に取るようにわかった。


「だから現実を見ろと言っている。俺の光がエライソの闇を打ち払うということは⋯⋯」

「ユウトの神器の方が格が上だと言うのか!」

「わかった所でもう遅い」


 俺は猛スピードでエライソに接近すると横一閃で剣を繰り出し、エライソの腹部を斬りつける。


「がっ!」


 するとエライソは呻き声を上げその場に崩れさるのであった。


 あっけないな。魔力による差がなければこんなものか。

 それにおそらくエライソは接近戦の訓練など全くしていなかったため、容易に剣で斬ることができた。


 そしてエライソの意識がなくなったため、ミュルクヴィズで作られた森林も消失し、この場に立っているのは俺だけとなる。


「オイズ先生⋯⋯判定を」

「あっ⋯⋯いや⋯⋯エライソくんが倒れている⋯⋯だと⋯⋯」


 オイズ先生は地面に這いつくばっているエライソの様子が信じられないようで言葉に詰まっている。


「エライソ様が負けた!?」

「そんなバカな話があるか! 暗い森ダークフォレストの暗闇で見えないのをいいことに何か汚い手を使ったに決まっている!」


 そしてエライソの敗北を信じられないのはスリエとトンゴも同じようで、俺に向かって非難の言葉を放っていた。


「どんな手を使おうとエライソが地面に倒れている。それが真実だ。2人はもし魔物と戦った時に汚い手を使われたから負けたなんて叫ぶつもりなのか?」

「「くっ!」」


 スリエとトンゴは俺の言葉に何も反論できず、顔を歪ませ悔しそうな表情をしている。

 2人はわかっているんだ。どんな手を使われようと魔物に負ける=死が待っているということを。


「オイズ先生、判定を」

「こ、この勝負⋯⋯ユウトの⋯⋯勝ち⋯⋯だ」


 オイズ先生は余程俺の勝利を認めたくなかったのか、声を絞り出すように決闘の判定を下すのだった。


「ふ、ふん⋯⋯まあまあね。だけど私ならもっと早く倒すことができたわ」

「さすがユウト様です。Bランクのスレイヤーに圧勝でした」

「2人が応援してくれておかげだよ」


 1人でも戦えると思ってたいたけど実際に2人が俺の味方をしてくれて心強かったのは確かだ。


「べ、別に応援なんかしてないわ。あのエライソとかいう男が目障りだっただけよ」

「ユウトさんすみません。姉さんは少し素直じゃない所がありまして⋯⋯」

「私はいつでも素直だから! それよりユウトが戦っている所を見て私も身体を動かしたくなってきたわ」

「あっ! 姉さん」


 ララさんはルルさんに図星を突かれたのか闘技場の中央へと行ってしまう。


「ララさんやり過ぎないといいけど」

「姉さんの相手ができる方は限られていますから。それよりユウトさんありがとうございました。これでこれ以上あの方に付きまとわれなくてすみます」

「いや、俺もエライソの態度には⋯⋯っ!」


 突然ルルさんと話をしている時に、誰かがこちらに向かって背筋が凍る程の冷たい殺気を向けてきたので俺は思わずサウザンドブレードに手をかける。


「ユウト様⋯⋯これは⋯⋯」


 ルルさんも俺と同じ様にこちらに向けられた殺気を感じたのか周囲を警戒していた。


 誰だ? 死を感じる殺気を向けてくるなんてただ者ではないはずだ。


 俺は殺気の出所を探ると闘技場の入口付近からこちらを射ぬくような視線を向けている者の姿が目に入るのであった。




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