第15話 ユウトVSエライソ(2)

「出でよ! サウザンドブレード」

「従え! ミュルクヴィズ」


 俺とエライソはそれぞれ神器の名前を呼ぶとその手に武器が収まる。

 エライソの武器は弓。俺の白い剣とは対照的に黒色の形状をしており、エライソの魔力を使うことによって矢を無限に放つことができる。

 だがそのこと自体は大した問題じゃなく、エライソがいくら矢を放とうがかわせる自信がある。問題なのはエライソの覚醒の能力だ。

 これまで戦った23戦は全てその覚醒能力によって敗北している。


「今なら負けを認めれば痛い目を見ずに済むぞ。だがユウトとルルは俺の奴隷になってもらうがな」

「戦ってもいないのに負けを認めることはできない」

「俺の奴隷になったらまずはお前ら2人には学園を辞めてもらう。EランクとFランクがスレイヤーを目指しても時間の無駄だからな。俺様は優しいご主人様だろ?」

「やりたいことをやらせてもらえないのに何が優しいご主人様だ」

「カスランクにスレイヤー以外の道を示してやるだけだ。ルルは俺の娼婦に、ユウトは俺の憂さ晴らしのために年中無休24時間対応のサンドバッグになってもらおうか」

「勝敗が着く前からベラベラと喋っていると薄っぺらい人間に思われるぞ」

「貴様!」


 エライソの口から出る言葉は聞くに堪えない。これ以上話をしても時間の無駄なため俺は話を切る。


「それでは両者構えて⋯⋯はじめ!」


 そしてタイミングよくオイズ先生の開始の合図が入り決闘が始まる。


「死にやがれ!」


 エライソは威勢がいい声とは裏腹に下がりながら黒い矢を生成しミュルクヴィズを使って攻撃してくる。


 さすがに遠距離は弓矢の方が分があるな。だがこのくらいなら。


 俺は向かってくる矢をかわしながらエライソとの距離を詰める。


「くそっ! 相変わらずデタラメな身体能力だな」

「エライソの矢が遅いだけじゃないか?」

「カスが! この程度で調子に乗るんじゃねえ!」


 そんなことはわかっている。この矢は俺に対する牽制で距離を取るだけのものだろう。

 もう何度もこのパターンを見ているからこの後何をしてくるのか手に取るようにわかる。


「これで終わりだ! 暗い森ダークフォレスト


 来た! エライソのファーストアギトだ。


 エライソがキーワードを口にするとミュルクヴィズが黒く光出し、俺の周囲を含めて一瞬で森が形成される。

 さらにエライソの神器の能力により視界が真っ暗になったためこちらからは何も見えない。そしてこのフィールドを作り出しているのはエライソなので本人の視界はこの黒い世界で苦にならないと以前自慢気に話していた。

 これまでの戦いではこの暗闇の中で黒い矢を放たれて俺はほとんど何も出来ずに負けていた。

 だが暗闇の中でも何度か気配を探ってエライソに接近して一撃を入れたことはあったがFランクの俺ではBランクのエライソの守りを崩すことは出来なかった。


「さあ、ここからは狩りの時間だ」


 後方左斜め上から声が聞こえると何かがこちらに向かって飛んで来たので俺は前方に前転して難を逃れる。

 エライソのネチネチとした性格上、必ず後ろから狙ってくることがわかっていたので初手はかわすことが出来た。

 だけど何回も回避されればさすがにエライソもなりふり構わず攻撃してくるだろう。そうなった場合エライソの矢を受けることも覚悟しなければならない。


「地べたを転がって攻撃をかわすなんて好い様だな」

「矢を回避されて焦っているのか? いつもより饒舌じゃないか」

「ユウトとルルを奴隷にして弄ぶことが楽しみで感情が高ぶっているだけだ!」


 エライソは同学年では負け知らずだったため、自分が敗れる姿など想像出来ないのだろう。だがその驕った態度が自分の敗北を早めるということを教えてやる。


 ララside


「つまらない戦いになってきたわね」


 闘技場はあっという間に光が届かない森林へと変貌し、ユウトとエライソの決闘の様子がわからない。

 時おり2人の声が聞こえるけどそのせいでエライソは自分の居場所を教えていることに気づかないのかしら。

 あれがこの学年で最強のスレイヤーなんてこの学園に来たのは失敗だったみたい。

 それにしても周りのクラスメート達は皆あのエライソを応援しているのね。どう考えてもあの常識がなく偉そうな態度は人に好かれると思えない。家の力かそれとも学年最強のスレイヤーとしての力か、それともFランクと舐められているユウトを応援したくないのか。どちらにせよこのクラスにはユウト以外に私の相手になりそうな奴はいなそうね。

 ユウトはあんな雑魚を相手に何をしているのかしら。

 私は目の前の決闘を見て少し苛立ちを覚えるようになってきた。


 ユウトside


 エライソは次々と矢を放つが、俺はエライソの位置をある程度特定することができ攻撃をかわすことが出来ていた。エライソが声を出していることもそうだがここが森であるため、どうしても移動すると草木の音が鳴り、エライソの居場所を教えてくれるのだ。


「ちっ! また持久戦かよ!」


 これまでの23戦中22戦はエライソが暗い森ダークフォレストを使って闇の中から矢を放ち、俺がかわすという長時間にわたる決闘だったことを思い出したようだ。


「ユウト! いい加減スレイヤーに向いていないってわかりやがれ。お前はスレイヤーとして不適格なんだよ!」

「それは俺が決めることだ」

「俺が⋯⋯だと⋯⋯。世界がお前を不適格だと認めてんだよ! なあみんな!」


 エライソは俺の返答に苛立ちを覚えながらクラスメート達に同意を求める。


「そうだ! 神器がFランクの癖に目障りなんだ!」

「見苦しいです」


 エライソの取り巻きであるトンゴとスリエが声を上げるとクラスメート達も2人に習って俺へ批判の言葉を発する。


「ククク⋯⋯嫌われたものだな。今のお前がこのクラスにとって、この学園にとってどういう存在なのか俺が教えてやるよ。ふってきっかく! ふってきっかく!」


 エライソが俺のことを不適格と煽り始める。するとクラスメート達もエライソに続いて不適格コールをするのであった。


「「「ふってきっかく! ふってきっかく! ふってきっかく!」」」


 全てのも方向からクラスメート達の俺を貶める声が鳴り響く。


 正直どんな言葉をかけられようが俺の心が折れることはない。おそらく俺を蔑むことも狙いだと思うが本当の目的は自分の気配を隠すためにクラスメート達の声を利用したんだ。


 クラスメート達は全て敵⋯⋯一昨日までの俺ならそう思っていたけどこの後発せられる声により俺は勇気づけられるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る