第14話 ユウトVSエライソ(1)

 翌朝


 ルルさんの作った美味しい朝食を食べてから3人で学園へと向かう。だが昨日のスカートたくしあげ事件の影響があるのかララさんとは朝起きてから終始会話がなかった。

 まあ学園に着けばこの微妙な空気も変わるだろう。


「ちょっとルル。先に行っててくれない」

「えっ? 何か用事でもあるの?」

「いいから黙って私に従いなさい」

「わかりました。では失礼致します」


 ルルさんはララさんの言葉に疑問は持つものの頭を下げて1人学園へと向かってしまう。

 これは昨日の事件を知っている俺達とは一緒に登校したくないということなのか? それなら俺もルルさんについて行った方が良さそうだな。


「それじゃあ俺も先に行くよ」

「あなたはちょっと待ちなさい」

「ぐえっ!」


 ララさんは先を行く俺の襟を掴んだため首が締まり変な声を出してしまった。


「な、何でしょうか」

「ユウトに話があるの。察しなさいよ」


 俺に話? 何だろう?

 まさかララさんのスカートたくしあげを見た唯一の目撃者である俺の存在を消去するつもりなのか! 「それともFランクの奴隷になるなんてプライドが許さないわ! この場で亡き者にしてあげる!」と言って刺されるのか! どちらにせよ当たってほしくない展開だな。

 現在周囲には誰もいない。殺るなら絶好の機会というわけか。

 F

 俺は心なしかララさんと距離を取るため後退る。


「そんなに警戒しなくていいわよ。今は手を出すつもりはないから」


 今は⋯⋯か。言葉通りに受け取るといずれ俺を仕留めに来るということか。


「別に警戒してないよ。それより話って何かな?」

「⋯⋯ルルのことよ」

「ルルさん?」

「ユウトは今日あの偉そうな奴とルルを賭けて決闘するのよね?」


 さすがに姉であるララさんにはバレていたか。もしかして妹を賭けの対象にしたことを怒っているのか?


「確かにそうだけど」

「ユウトが負けると困るわ。あの男に負けたら許さないからね」


 これは暗にルルさんのことを心配しているのだろうか? 仲が悪そうに見えるけどやはり血を分けた姉妹ということか。


「あなたがどうなろうと構わないけど私の世話係のルルが取られるのは嫌よ」


 姉妹としてのルルさんではなく世話係のルルさんが心配なのか。そしてわかっていたけど俺のことはどうでもいいらしい。


「大丈夫。エライソには絶対に勝って見せるよ」


 俺は右手をパーにして90度腕を上げハイタッチの体勢を取る。


「えっ? 何? もう勝利宣言?」


 ララさんは突然行ったにもかかわらず俺の掌をパンッと叩く。

 


 いきなりハイタッチの体勢を取った俺が言うのも何だけど意外にノリがいいな。


「ありがとう。気合いが入ったよ」

「そう。けどそんなに気負う必要はないわ。もしあなたが負けたら私があのエライソとかいう奴を始末するだけだから」


 ララさんは恐ろしいことをサラッと言うな。エライソの命を護ってやるためにもここは絶対決闘に勝たなければならないな。


 こうして俺はこの後ララさんと一緒に学園へと向かったが、ララさんは機嫌は悪かったのか特に会話はないまま教室へとたどり着くのであった。


 そして1時間目の授業は実技。運動着に着替えて学園にある闘技場へと向かうと既にクラスメート達は揃っており、俺が最後の1人だった。


「へへ、逃げずに来たのか」

「私はエライソ様の不戦勝かと思いました」

「ユウトはクラスの奴らの前で俺様にボコボコにやられる所を見られたくないから仮病を使うかと思っていたぜ」


 エライソが取り巻き2人を連れて俺の前に現れる。

 相変わらず人の神経を逆撫でにするのがうまいなあ。


「ユウト様は負けません」

「ユウト様? お前はユウトの奴隷にでもなったのか?」

「いえ、間違えてしまいました。ユウトさんは負けません」


 やはり様付けで呼ばれると誰しもがそう考えるよな。ルルさんにはせめて人前では様付けはやめてくれと言ったのにうっかり口に出てしまったのようだ。だけどエライソには答える義理はないので俺はその話題は無視する。


「まあそれも今日までだ。約束を忘れてはないだろうな?」

「わかってる」

「ちょうどいいからクラスの奴らにも俺とユウトと決闘で敗北するとどうなるか教えてやろう」


 エライソはそう言うとクラスメート達の方へと顔を向ける。


「皆の者聞け! 今日の実技の時間、俺はユウトと決闘をする!」


 わざわざクラスメート達に言わなくてもいいのに。余程俺に恥をかかせたいのだろうな。


「え? エライソくんとユウトが?」

「勝負にならないだろ」

「身の程しらずが」


 周囲に耳を傾けるとララさんとルルさん以外のクラスメート達の誰もがエライソの勝利を信じて疑わないようだった。


「そしてユウトが決闘で負けたらルルとユウトが、俺様が負けたらスリエとトンゴと俺様が相手の奴隷になることが決定している」

「なっ! 話が違うぞ!」


 俺が負けたらルルさんがエライソと付き合う。エライソが負けたらルルさんにはもう付きまとわないという約束だ。


「面白いじゃないか。私が審判をしてやろう」


 そう言って俺達の前に出て来たのはオイズ先生だった。

 普通の教師だったら授業中に奴隷を決める賭けなど認めない。だがこのオイズ先生は魔力至上主義で、エライソの実家と懇意にしていると聞いたことがある。だからこのような話も認められるのだろう。


「ユウトさん。さすがに私もこの話には怒りを覚えます。ですから必ず勝ってください」


 このような約束は認めないじゃなくて勝ってくださいか⋯⋯。

 神器を授かってからここまで俺のことを信じてもらえたことはあっただろうか。

 俺もエライソやオイズ先生の行動には怒りを覚える。

 ならばここはルルさんの期待に答えて皆の前でエライソに勝つ。


 俺に恥をかかすために決闘で負けた時の約束を皆に伝えたのだろうが、だがその行為が裏目にも出るということを忘れるな。これでエライソが負けた時には約束を破ることはできないということを。


「それでは早速授業を始める。今日は初めての実技の授業ということで決闘を行い、君達の実力を確認させてもらう。エライソくん、ユウト。前へ」


 俺とエライソはオイズ先生の言葉に従い闘技場の中央へと向かう。


「それでは2人から決闘を行ってもらう」

「わかりました」

「いつでもいいぜ」


 こうして俺は自分とルルさんの身を賭けて、Bランクのスレイヤーであるエライソとの決闘に挑むのであった。

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