第17話 出会いは突然に
「あ、あの方は⋯⋯」
ルルさんは突如闘技場の入口に現れた
「初めて見る人だ」
俺は平静装っているがあの人から放たれる殺気で恐怖に駆られてしまい、そう口にするだけで精一杯だった。
これは何かの神器による力なのだろうか? だが見たところあの人が武器を持っている様子はない。いったい何者なんだ。この場にいるということは少なくとも学園関係者であることは間違いないとは思うが⋯⋯。
「3人」
赤髪の女性は何を考えて言葉を発したのかわからないが突然人数を口にする。
「私が殺気を放ってすぐに臨戦態勢を取れた者はたったそれだけですか」
3人? 俺は周囲を見渡すとクラスメート達は地面に膝をついており、赤髪の女性が口にした意味がわかった。
今、この闘技場で立っているのは俺とルルさん、そしてララさんだけだ。
「教師がその様子でどうするのですか?」
「も、申し訳ありもせん。突然のことだったので」
赤髪の女性の言うとおりオイズ先生は殺気を堪えることが出来なかったのか膝を地につけていた。
しかしオイズ先生はこの女性のことを知っているようだ。それならばこの殺気は本当に俺達を殺すものではないということがわかり安堵のため息をつく。
「油断は大敵ですよ」
俺が一瞬気を緩めた所で赤髪の女性が猛スピードでこちらに向かって顔面に蹴りをいれてきた。
「油断していません」
俺は赤髪の女性の放ってきた脚を左手で掴み、そのまま上空へと投げ飛ばす。
すると赤髪の女性は体勢を崩したまま地面に落ちるかと思われたが、器用に上空で2回宙返りをすると華麗に着地をして見せるのであった。
いきなり攻撃をしてくるなんて本当に何者なんだ?
「思っていたよりやるようね。さすがスルンの弟子といった所かしら」
「スルンさんを知っているんですか?」
「知っているも何も私は⋯⋯」
「こらユウト! この方はお前が気軽に話しかけていいお方じゃないぞ!」
オイズ先生が赤髪の女性の言葉を遮り、俺を叱咤してきた。
その様子からこの女性がスレイヤーとしてかなりの実力者であるか権力者であることがわかる。
「この人は誰ですか?」
「悲しいわね。生徒に覚えられていないなんて。私はこの学園の理事長をしているメディアよ」
「メディア理事長?」
この学園の理事長が誰かは知らなかったけどメディアの名前は聞き覚えがある。
この世界で数少ないSランクスレイヤーだけど病気か何かで滅多に人の前に姿を現さないらしい。
「そうです。あなたがユウトですね? スルンから話は聞いています。とても努力家だと」
「理事長! こいつはFランクのカススレイヤーですから貴女が話す価値などありません!」
「カススレイヤー? あなたは今の戦いを見ていなかったのですか? 彼がBランクのスレイヤーを倒した所を」
「そ、それは⋯⋯」
「しかもあなたは教師であるにも関わらず賭け事を容認していましたね? 後で追って沙汰を下しますので謹慎していなさい」
「くっ! しょ、承知しました⋯⋯」
オイズ先生は理事長の言葉を聞いてがっくりと膝を落とし、項垂れている。そして理事長はもうここには用はないのか闘技場から出ていってしまった。
「ふふ⋯⋯いい気味だわ。初めて会った時から嫌いだったのよね」
申し訳ないが俺もララさんと同じ意見だ。オイズ先生は魔力の大小による差別が激しかったし自業自得だな。
さて、後はエライソとスリエ、トンゴについてだが⋯⋯。
「エライソ様大丈夫ですか!」
「何故こんなことに⋯⋯」
スリエとトンゴは地面に倒れているエライソに駆け寄り、心配そうに声をかけている。
この2人は本当にエライソのことを尊敬しているんだな。正直その気持ちは全くわからない。端から見ていてもエライソの取り巻きをするのは大変そうに見えるけど。
「約束は覚えているよな? もう2度とルルさんに近づくなよ。いや、3人は俺の奴隷になったからこれから俺はどんな命令でもできるんだよな?」
「そ、そんな話より今はエライソ様が心配です!」
「ス、スリエ! 脚を持ってくれ! エライソ様を医務室に運ぶぞ!」
そしてスリエとトンゴを言葉通りエライソの頭と脚を持ち、逃げるように闘技場を後にしてしまう。
「行ってしまいましたね」
「まあでもこれでエライソ達はルルさんに言い寄るようなことはしないと思うから」
「ユウトさんありがとうございました。
何だかルルさんから熱い視線を感じるが気のせいだろうか。そんなに見られると何だか恥ずかしいぞ。
「コホン! ここは公共の場よ。不純異性交友はやめてよね」
「そんなじゃありません」
「ルルを調教して寮で如何わしいことをしたら殺すから」
ララさんがこちらをジロリと睨んでくる。
これは先程のメディア理事長に勝るとも劣らない殺気だな。何だかんだ言ってララさんは妹のルルさんが大切らしい。
「わかっているよ。ララさんの大事な妹に手を出したりしないから」
「べ、別に大事じゃないから! ただ私がいる家でそういうことをしてほしくないだけだから! 勘違いも甚だしいわ!」
ララさんは捲し立てるように喋り、そして闘技場から出ていってしまう。
一応まだ授業中なんだけどな。
こうして俺はエライソとの決闘に勝利することでルルさんを護ることができたのだった。だがこの日を境に運命の歯車が回り出したことに今の俺には知る由もなかった。
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